若女将
その女性は少しずつ詩音のほうに歩み寄ってきた。姿形がはっきりと確認できる距離にまできた時、それが誰なのかがようやくわかった。
「え? 美和じゃない?」
詩音はたずねた。
「ようわかったじゃなか」
着物がとても似合っており、アップにした髪もおしとやかな清潔感が感じられる。
「ここで働いてるの? え? いつから?」
詩音は、物事がまだ正確に捉え切れていない様子だ。
「実は俺たち、今度結婚することになったんや。で、美和は今女将になるための修行中」
尚斗は、はにかみながらそういって、横から美和もそういうことなんよといった。
「えぇ、そうなの? なんか急すぎて頭の中パニックなんだけど」
「ごめんごめん、私が黙っとってってこの人にお願いしたとよ。詩音には時が来たら自分から話すって約束で。実はさっき、詩音が予約の電話ばしてきたとき、受けたのうちなんよ。よう受け答え出来とったかえ?」
「うん、全然違和感なかったし、もちろん美和だなんて1ミリも思わなかった」
「ほんと? うちも女将にまた一歩近づいたかな」
「おい、そうやってすぐ調子に乗るな」
「うるさいわね、自分だって新米支配人のくせして」
美和は言い返す。とそこへまたしても懐かしい声が聞こえてきた。
「何なんですかはしたない。お客様の前で」
「おばさん、お久しぶりです」
「え? 詩音ちゃん? えろう大人んなって。全然わからんかったとよ」
「いえ、そんな。とんでもないです。お元気でしたか?」
「ええ、ええ。元気ですよ。うちの人があんなになってしもたからねぇ、私が頑張らなあかんようなって。でも尚斗もこげん感じでなんとかやっていけそうやし、美和ちゃんも立派な若女将になってくれると思うけん、今後とも是非ごひいきにね」
女将は丁寧にお辞儀をした。それを見て隣りで美和も真似ている。まだまだおばさんには敵わない様子だ。
「もちろんです。こちらこそお願いします」
詩音は2人の目を交互に見ながらお辞儀をした。
「見たか美和。おとのこげん大人の立ち振る舞いを」
「ああ、またそうやって詩音のことばっか。うちより詩音のほうがいいん?」
「何をアホなこといいよるん。じゃおと、ゆっくりしてってくれよ。さぁ仕事仕事」
「まぁ、カッコつけちゃって。じゃあね、またあとで連絡するよ」
そういうと美和は尚斗の後を追っかけていった。そういえば・・詩音はふと思い、離れていく美和に尋ねた。
「どっちから?」
美和はその質問の意味をすぐに理解した。




