期待の超新星
そう、今大会最大の注目選手は、T大の後輩の高山大地である。彼は大学卒業後、松河電工に入社し、これまでリーグ最高ランク5位だったチームを、2年連続優勝へ導いたのだ。来季からは、セリエAのミラノに移籍することが先日報道され、兄である翔の夢を見事に実現させたのである。
「今大会で活躍できれば、ミラノでよりいい材料になるね。応援してるよ」
「ありがとうございます。兄貴は、幼い頃からずっと僕の憧れでした。兄貴がいなければバレーにさえ出会えてなかったと思います。僕はそんな兄貴の夢であったミラノで、絶対に結果を残したいと思います」
「あのクソガキ大地がいうようになったじゃん。今の言葉絶対に使うね」
詩音は大地の腰のあたりを肘で小突いた。
「もう大丈夫みたいですね」
「うん、翔ちゃんは今でも私の中で生き続けてるから」
「それなら、これは詩音さんに持っていてもらうべきだと思います」
大地はそういいながら、バッグから1台のスマホを取り出した。それは翔の使っていたも
のだった。
「あの事件のあと、僕は憧れていた存在を突然失くし、自暴自棄になりかけていました。そこに三隅さんが現れて、お兄さんの分まで頑張って下さいって言われて、それを置いていってくれたんです。僕はこの遺品のおかげでずいぶんと救われました。それで今があるといっても過言じゃありません。このスマホには
そんな強い力が宿っていると思うんです。でももう僕は十分恩恵を受けました。だから今度は詩音さんが持っていてください」
「そうなんだ。じゃ遠慮なく頂いとくね」
「しかし兄貴はこんなに想ってくれる女性と出会えて幸せだったろうな」
「うまくなったじゃん。そんなに褒めてもなんにも出ないけどね」
そういって最後は、T大時代さながらのハイタッチでエールに代えた。その後、他の選手や監督へひととおり取材を行い、今日の予定を全て終えた。東京を発つ前、たまには実家でゆっくりしてこいと編集長に言われたことを思い出し、実家ではないが久しぶりに岡田屋旅館を訪ねてみようと思った。前回と同じように、先に尚斗に一報を入れておこうと携帯に電話したが、つながらなかったので旅館に直接電話をし、無事に予約が取れたので旅館へ向かうことにした。




