お墓参り
「こんなところで何してんの? あなたはいつでもそうやって声掛けるのね」
「何って? 墓場やけん墓参りに決まっとろうが。翔の墓参りに来たとよ」
詩音は、えっと驚きをみせた。
「翔のお墓、ここにあるの?」
「そっか、おとは知らんかったっけ? ここは元々翔の親父さんが経営しとった工場の跡地なんよ。そろそろ工場をたたもうと考えとった親父さんは、翔が亡くなったのをきっかけに自営を終えて、その跡地を翔の墓場にと考えたんやて。俺はそれから近く通る度に寄って、線香ばあげとるけん。さあ、おとも手合わせてあげんね」
二人は中に進み、翔のお墓の前に立った。詩音は杓で墓石に水をかけながら、心の中でごめんねごめんねと何度も繰り返した。
「あいつはこれからもずっとおとのこと見守ってくれとるよ」
「そうじゃ。強くなんなきゃいかんとね。いつまでもおんぶにだっこじゃ、あの人も安う眠れんけんし」
久しぶりに使った熊本弁は、随分と下手になっていた。もうあの頃には戻れないんだと詩音は痛感した。
2026年、スポーツ記者として4年目となる初夏に、詩音は沖縄にいた。
今年行われる世界バレーの強化合宿中、ある選手の取材を任されていた。詩音は、元バレーボール部マネージャーとしての知識を糧に、独特の切り口で責めた記事が話題をよび、ことバレーボール取材においては、4年目にして他の出版社の記者からも、一目置かれる存在となっていた。
「やはり取材したい選手はこの人ですか?」
某大手出版社の記者は、雑誌の記事を指さして訊いてきた。
「もちろんです。スーパースターですから」
そう話していると、選手を乗せたバスが体育館にやってきた。たくさん集まった取材陣を前に、選手たちはバスの中から顔を覗かせている。バスから選手たちが降りてきた。詩音は一目散に目的の選手に駆け寄っていった。
「調子はどうですか?」
「最高に仕上がってます。今度の大会ではいいパフォーマンスをお見せできると思います」
「そうですか。それは期待できますね。ところで・・」
そう話しかけた時、その選手から待ったがかかった。
「詩音さん、そのしゃべり方やめませんか?」
「いや、でも・・」
詩音は困りながら俯いた。
「僕にとっては、今でも昔のままの最高のマネージャーだと思ってますから」




