懐かしき風景
事件は井本健太郎の自白というかたちで解決した。
詩音、大地、一馬、亨、隼人の5人は無事に東京駅に到着した。翔がいなくなった事実は今後しばらく忘れることは出来ないが、前に進むしかないこともわかっていた。
詩音は大学卒業後、そのまま東京へ残ることにした。自分の傍から2人の近しい人物が急にいなくなってしまったことにショックを受けてしまった彼女は、事件後精神的な病を患ってしまい、目標としていたメンタルトレーナーになる夢をあきらめた。その後、身体は順調に回復し、現在は出版社でスポーツ記者となっていた。1年目の仕事は、高校生への取材がメインだった。『甲子園に挑む選手たちの声』といったようなものや、時には体罰問題を取り扱うような時もあった。慣れない語彙やビジネスシーンで取り扱われるワードに不安を覚える新米記者であったが、先輩記者の見よう見まねで、少しずつ自分なりのスタイルを見い出し、ようやく一人前の記者として自立できるようになったのは、1年と半年が過ぎた頃だった。
11月、会社から春高バレーの特集を組むから出身高校を取材してきて欲しいと依頼受け、少し早めの冬期休暇も兼ねて熊本の実家へ帰省した。通い鳴れた通学路、校門へ続く長い坂につながる交差点が見えてきた。目を閉じれば、あの頃の情景が目に浮かんでくる。
「ここで翔に告白されんたんだっけ」
詩音は、公園の前でひとりごちた。この道も、翔と何回も一緒に歩いた思い出のたくさん詰まった道だ。翔とのことは無理に忘れる必要はない。時間はかかるかもしれないが、いずれ大切な良い思い出として人生の一部に刻まれることになるだろう。
取材を終えたあと、家に帰ろうと思ったのだが、この季節にしてはあまり寒くなく、心地の良い風が吹いていたので、懐かしい風景を見ながら散歩をしようと思った。のんびりとした時間が、日々の忙しさで疲れた心を癒してくれる。小学校時代に遊んでいた友達の家や、駄菓子屋などは昔のまま何も変わっていない。そんななか、道の反対側にあるだたっ広い敷地が目に入った。昔は確かここには工場があったはずだと思いながら、何になったんだろうと気になって近づいてみると、そこは墓地だった。その墓地の駐車場に、1台の車が停まっていた。先客がいたため、詩音は墓地の入り口近くにある自動販売機でホットコーヒーを買い、取り出し口に手を伸ばそうとしたところ、後ろから声をかけられた。
「久しかぶりだな、おと」
それは何年か前に聞いた同じフレーズだった。




