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おと  作者: 木土口一寸


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警部補の名推理

 三隅は、現場写真の遺体近くにあったわずかな畳のシミと、ビールジョッキの取手の向きの不自然さから、左利きの人間による犯行である確証を得ていた。それからおもむろにある人物に向かって歩き出した。

「金井さん、高山翔さんを殺害した真犯人はあなたですね?」

三隅は単刀直入にいった。

「急に何を言うんですか。私ではありません」

「あなたは以前、私からの依頼でスマホのパスコードの入力を求められた際、左手の親指で入力していましたね?これは左利きであるなによりの証拠です。それに岡田尚斗が容疑者であると伝えた時の反応ですが、あなたは驚かれることはおろか、すぐに動機はなんですか?と質問された。これは犯人の心理行動としてよくある行動パターンのひとつなんです。さらにボイスレコーダーからは『おと』という被害者による声が残っている。これだけの状況証拠が揃っているなかで、あなたはまだ犯人ではないとシラをお切りになるおつもりですか?」

三隅警部のたたみかけに、ここまで共に行動をしてきた仲間たちも何も言えずにいたが、ようやく大地が声を絞り出した。

「う、うう、詩音さん、どうなんですか?なにかの間違いでしょ?」

「うん、私じゃない。信用して、大地」

この時、ここまで静観していたこの旅のリーダーの亨が口火を切った。

「ちょっと待ってよ三隅さん、別に仲間を売るわけじゃないけど、左利きで、翔に『おと』と呼ばれていたってのが犯人というなら、一馬も同じ条件揃ってるじゃないですか」

「確かにそうなります。それについて先ほど受付で改めて聞き込みを行ったのですが、乙竹さんは犯行が行われたと推測されるその時間、有料テレビを視聴されている記録が見つかりました。乙竹さん、間違いありませんか?」

「はい。確かに僕はその時間、海外のバレーの試合を観ていました」

「となると、乙竹さんは容疑者から外れることになります。それに引きかえ金井さんは、別府に来る船のデッキで、被害者と口論になったそうですな。この旅館に宿泊中のお客様のなかに、同じ船に乗船されていた方がいらっしゃいまして、デッキの外に聞こえるほどの声だったと証言されています。内容も筒抜けで、別れ話であったとか。別れ話を切り出し、それになかなか応じてもらえず口論の末殺害してしまったという男女関係のもつれも犯行動機としてはよくあることです」

威勢のよかった亨も、ぐぅの音も出なくなってしまった。

「詳しいことは署のほうで聞かせていただきます。金井さん、ご同行願います」

三隅が連行しようと詩音の背にそっと手をかけたその時だった。

「ちょっと待ってください。やったのは俺です」

「やはりあなたでしたか」

(かかった)

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