二人の雑談
荒井田は頼まれた資料を三隅に渡した。
「ひらがな表記で書かれていたのでとてもわかりやすかったです。名前に『お』と『と』が入っているのは、次の4名です。せおとおる、おとたけかずま、おがわはやと、おかだなおと」
「4人か。しかし、さすがに緊迫した場面で相手の名前をフルネームで呼ぶ人間はそうはいないだろう。瀬尾亨と緒川隼人はシロと考えていいだろう」
「となると、残るはおとたけかずまとおかだなおとの2人です」
「金井さん、質問ですが被害者は乙竹一馬さんのことをなんて呼ばれてたか記憶されてますか?」
「おとたけと苗字で呼んでいました」
「・・・・」
「もう一人容疑者が浮かび上がってきましたね」
事件が難航入りし、しばらく時間がかかると踏んだ三隅は、詩音を一旦ロビーに戻すことにした。その後の応接室で机の上に置かれた現場写真、スマホ、選手紹介の資料とにらめっこをしている。手にはボールペンと赤ペンが持たれ、腕組みをしていた。
「やはり岡田尚斗の犯行なんでしょうか?」
「おまえが署に行っている間に、岡田尚斗が容疑者になっていることを金井さんに伝えたと。併せて動機の内容も伝えたけんが、岡田尚斗の言いよる内容と、それを聞いた金井さんが言っている内容に相違があるんよ。私のことなんか好きなはずない言うてな。幼馴染やから擁護しとるんやろか?」
「彼女は、嘘つくタイプにはみえませんでしたが」
「おまえもそう思うか? だとするとこの相違が気にかかるな。犯行動機に大きく関わっとるけん」
そんな切羽詰まった場面で、荒井田は緊張感なく悠長に話し始めた。
「相違のことなら、僕がやっていた時に比べて、バレーボールもだいぶルールが変わりましたよ」
「そりゃそうやろ。その方が面白いとなればルールなんてもんは変わっていくんやけん。メジャーリーグ見てみぃ。今じゃ『大谷ルール』なんて言われるもんが存在するんよ」
「そうですよね。昔はサーブ打つ位置とかも決められていましたし、下半身に当たったらそれだけでダメでしたからね。今なんか蹴ってボール拾ってもOKなんですよ。考えられます? サッカーじゃないんですから」
「よくわからんけど、バレーボール協会がそれでもいいと判断したんやろ」
「ポジションにしたってそうですよ。昔は単純にレフト・センター・ライト」って呼んでましたが、今じゃウイングスパイカーとかミドルブロッカーと呼ぶんです。そこにかいて
ある『WS』とか『MB』って書いてあるのがそうです」
「はいはい、能書きはそのへんにして捜査に集中せぇ。なんとか今日中に終わらせるぞ」
「かしこまりました、すいませんっす」




