ボイスメモ
「はい。彼は高校入学してからずっと、ボイスメモを日記代わりにしているんです。もし今でも続けていたのなら、旅行の日の記録もきっとあるはずだと思いまして。船で話したのを最後に、その後口を利かなくなってしまったものですから、せめて声だけでも聞きたいと思ったんです」
「なるほど。そうゆうことなら別の方法があります。私たちが同席の下でという条件でしたら、聞いていただくことは可能です」
「全然構いません」
「わかりました。ではご用意できましたらお呼びしますのでロビーで少々お待ちください」
三隅は再び煙草を咥え火を点けた後、ゆっくりと深く息を吸い込み、そして吐き出した。
再び応接室。スマホは電源が落とされた状態で保管されており、三隅の手によって再び電源がオンにされ、軽快な電子音とともにロック画面が表示された。
「たしか『0618』でしたね?」
「そうです」
三隅はホーム画面が表示されたことを確認したのち、詩音に手渡した。スマホを受け取った詩音は、ボイスレコーダーアプリがあることが確認できた。
「いいですか?」
詩音が尋ねると、三隅は手のひらを返しどうぞといった。詩音がアプリをタップすると、そこには年月日と記録時間が古い順に記録されている。詩音は画面をスクロールした。
「あっ、これです。やっぱりありました」
そこには、旅行に来てからの思い出もしっかり記録されていた。
「ちゃんとまだ続けてたんだ。ほんと真面目な性格なんだから」
詩音はそういいながら『件名なし 2022年1月8日 9:05』と記された欄をタップした。
【今日はバレーボール仲間と思い出づくりの旅に出かける。行先は別府。目的地までは新幹線とフェリーで向かうことになった。今日は天候にも恵まれて、最高の旅になりそうだ】
スマホからではあったが、聞こえてきたのは確かに翔の声だった。詩音の瞳は涙に滲んでいるようにみえた。次に、『件名なし 2022年1月8日 22:12 』と記された欄をタップした。
【詩音に別れを告げられた。せっかくの旅行なのに口を利けなくなってしまった。ちゃんと話せばきっとわかってくれる。明日は自分から謝ろう】
1月8日はこの2件だけだった。続いて下にスクロールすると『東京に着いてから送信 2022年1月9日 21: 42』と件名が変更されていた。
詩音は首を斜めに傾けそれをタップした。




