後悔
「うん、そうやな。じゃ絶対優勝してよ」
「するに決まっとったい。俺には勝利の女神がついとるんやけん」
「もう、すぐそげんして調子に乗るとや」
「あっでもな、皆に気遣わせたくなかけん、これは2人だけの秘密にしといてくれん?」
美和に聞いていたとおり、ほんと真面目な人なんやと詩音の胸に深く突き刺さり、今日のこの嬉しそうな翔の表情を忘れないように目に焼き付けた。そして、尚斗にも? と翔に問いかけた。
「うーんそうやな。詩音の幼馴染やけんな、ギリ尚斗はいいにするかなぁ」
「わざわざ自分から言うことはせんけどね」
「あいつ勘だけは鋭かけん」
「ん? 今詩音って言うた?」
「言うたよ。いかんかった?」
「ううん、ええよ。うれしかよ」
撤退時間までまだ余裕のあった今日は、一緒に話しながら窓とカーテンを閉めてまわった。外に出ると、この季節にしては空がとても澄んでいて、目視でも桜島が確認できた。その景色を見ながら翔はいった。
「俺は、幼か頃からこの広か空ば眺めとるのが好きやったと。イヤなこととか全部忘れられるけんね」
「そうなん? うちはそげなこと考えたこともなかと。空は当たり前のようにそこにあるもんやと思うてきたけん」
俺と空は同じ扱いですか?といったような目つきで詩音を見ている。
「よーし、今日のボイス日記はこれで決定」
「えっそげんことやっとうと?」
「うん。高校入学してからこれだけはやるって決めて、欠かさず続けとるったい」
翔はズボンのポケットからスマホを取り出し、ボイスレコーダーを起動させた。彼は澄んだ空に向かって叫んだ。
「今日は詩音と付き合った記念日。この嬉しか気持ち、桜島まで届けぇ」
「ちょっとやめてよ、恥ずかしか」
「ええやん。俺今それくらい嬉しかけん」
二人は桜島を背に楽しそうに坂をっ下っていき、コンビニでパピコを買い、向かいの公園のベンチに座り1本ずつ分け合って食べた。
あの頃の私は、翔ちゃんが好きで好きで仕方なかった。あの頃の私は、自分の気持ちをちゃんと素直に伝えられていたかなぁ。人はいつでもそばにいてくれるわけじゃないんだ。当たり前の存在にしてはいけなかったんだ。あの日わかったはずなのに。高校の頃からなにも成長していない自分に無性に腹がたった。もう一度”おと”と呼んでほしい。そう願ったとき、詩音はボイスレコーダーの存在を思い出した。確か欠かさず続けていると言っていた。今でも続けていたのなら、なにかメモが残っているのでは?
その頃、応接室内では三隅と荒井田が机を挟んで話し合っていた。そこへ三隅の携帯が鳴った。
「三隅さん、小野寺です」
「おお、待っとったよ。で、どうだったのかね?」
「岡田尚斗の指紋と一致しました」
「・・・・」




