明け方の恋
詩音は、家に着くなり食事も摂らずにお風呂に入った。いつもならユーチューブを見ながらの入浴がお決まりなのだが、今日はスマホさえ持って入らなかった。途中、母親からバスタオル置いとくよと声を掛けられた時も、返事はどこかしらうわの空だった。翔になんて返事をすればいいか自分なりに考えたのだが、堂々巡りでまとまらず、むしろ尚激しく頭の中が混乱しはじめた。入り始めてからどのくらい時間が経ったんだろう、額から大粒の汗が流れ落ちてきた。流れる汗をヘアバンドで止め浸かり続けた。
「翔はああいうけど、うちにとってはやっぱり突然のことやけん」
ひとりごとをいい、顔をバシャバシャと湯船の湯で汗を流す。髪と体を洗いながらまたしばらく考え、さらに時間が経過し、母親からいい加減に出なさいと怒号が飛んできたので出ることにした。結局考えはまとまらなかった。
髪を乾かしながら、とりあえず中学時代の彼をよく知る友達の美和に相談しようという結論に至った。
詩音は、美和に公園での出来事を伝えた。すると、意外な反応がかえってきた。
「あーなるほどね、そうきましたか」
詩音は一瞬頭の中が真っ白になった。
「え? どげんこと? わかっとったと?」
「いやわかってはなかけん、なんとなくそうじゃないかなっていうのはあったんよ」
いつからかと聞かれれば、思い出すには遠すぎる話だが、詩音と話す時の翔は、どことなく他の女子と話す時とは雰囲気が違っていたらしい。そのまま美和は続けた。
「翔くんは中学の頃から背が大きゅうてイケメンやったから、当然目立つ存在ではあったわけ。だけど、バレーが恋人って感じの生活を送っとったね。人生捧げてしもうてるって感じ。ほんとバレーが好きなんやろね。まわりにおる女子は、翔くんに彼女がおらんの知っとったけん、告白しようて思うとった子もいたらしいけど、何人たりとも寄せ付けんオーラを放っとったよ」
「へぇ、そげんもてとったんやね」
詩音は人差し指で、洗いたての髪をくるくるさせながら聞いている。
「っていっても、本人は自分がもてとることなんて全く気付いとらんかったっぽいけどね。でもそんななか1人だけ告白した子がおったとよ」
詩音は胸をドキドキさせながら美和の次の言葉を待った。
「それがね、その子連れの元カノやったんやって。だから断るには断ったんだけんが、そのあと何回も告白されて返事返すのに困り果てて、結局付き合うかたちになったみたいなんやけどね、でもやっぱりすぐ別れたって聞いてる。そん時も、その子ばなんとか傷つけんようにって別れる理由を何日間も考えたらしいんよ。うちは、それ後から聞いたんやけど、その姿勢にはさすがに感心したとよ。要はさ、何に対しても根っからの真面目君なんよ」
それを聞いて詩音の心がプラスに導かれたのは言うまでもない事実であった。




