パスコード
「おはようございます。別府東署の三隅と申します。こちらは部下の荒井田です。失礼ですが、高山翔さんと一緒に旅をされていた方たちでよろしいですか?既に女将さんからお聞きになられたと思いますが、昨晩高山翔さんがお亡くなりになられました。皆様におかれましては、大変残念な気持ちでいらっしゃるとお察し致します。そんななか大変恐縮なのですが、高山さんをよくご存知である皆様に、聞き取り調査に協力していただきたいと思います」
そう言い残し、女将と一緒に受付の方へと向かった。
旅館の応接室を間借りし、調査が行われることになった。
大地、健太郎、亨、一馬、隼人の順で事情聴取が行われ、最後に詩音の番となった。
「金井さん、あなたは高山さんとお付き合いされていたということで間違いないですか?」
「はい、間違いありません」
「こちらに見覚えは?」
「翔の使用していたスマホです」
「こちらロックがかかっているんですが、ロック解除用のパスコードはご存じですかな?」
「共通のパスコードを使用しているのでわかります」
詩音は三隅からスマホを受け取り、親指でパスコードを入力し解除してみせた。
「二人の付き合った日を、記念日としてパスコードにしているんです」
「ほほぅ、仲睦まじくていいですな。ありがとうございました」
詩音は再びロック画面に戻し、スマホを三隅に手渡した。
聴取を終え、応接室を出てロビーに戻った詩音は、高校時代のことを思い出し始めた。
インターハイが数日後に迫っていた。ここ安西高校では、連日過密スケジュールで練習が行われていた。
そんなある日のこと。練習試合を終えたあとの体育館で、キャプテンの翔とマネージャーの詩音は、みんなが帰ったあとも録画された試合のテープを見て、どこに課題があるかを入念にチェックしていた。
「金井さんさっきのところもう一回見せて」
「了解」
テープを見始めてから既に2時間近く経っているが、その間にも巻き戻して再生、この動作が何回も行われている。去年も一昨年も優勝候補筆頭に挙げられながら優勝できなかった先輩達の雪辱を果たす為、準備に余念がない。今日の撤退時間は18時。2人は、時間の経過を忘れるほどに集中していた。ふと時計を見ると、針は17時45分をさしていた。
「あっやばい、あと15分で撤退しなきゃ」
詩音はそういうと流していたテープを停め、2人で手分けして窓とカーテンを閉め、電気を消して体育館の鍵を閉めた。校門を出ると、坂下からなまぬるい風が吹いてくる。安西高校の校門に繋がる道は、長い坂になっており、道の両脇には桜の木が植えられている。春になると、桜のトンネルができ、この辺りではちょっとしたお花見の名所になる。休日にはお弁当を持った家族等でにぎわう。傾斜がやや平坦になる辺りに、公園がある交差点がある。翔はその交差点を左、詩音は右に曲がる。2人はその交差点に向かい坂を下り始めた。




