悲劇
部屋に戻った翔は座椅子に腰掛け、詩音のことを含め、今後のことについて考えた。かと思えば、いっぱいになった頭の中をクールダウンさせるために、テレビを付けるなどもした。ふいにローボード上に目をやると重厚な木のカバーで作られた冊子が置かれている。表紙を見ると、『旅館の案内』と書かれていた。翔はそれを手に取り、中身を開いてみた。そこにはテレビの操作方法や、モーニングコールの設定の仕方などが記されており、最後のページにルームサービスの案内があった。オーダーストップは22時までとなっている。部屋にあるアラーム機能が一体型になっている時計を見ると、21時35分だった。
「まだ間に合うか」
そういった彼は、アルコールの力を借りて気を紛らわせようと、早速備え付けの電話の受話器をとり、ビールを注文した。その後、コンセントに電源コードを差し込みスマホの充電をしながら日課のボイス日記を録音した。
「よし、やれるだけのことはやった。これで後悔はない・・」
その頃、仕事を終えた尚斗は、私服に着替えバックヤードにいた。
「詩音ちゃん、かわいなったねぇ?」
岡田屋旅館で20年以上働いているベテランの年配女性が尚斗にいった。
「そうですかねぇ、ヤンチャっぷりは当時のままですけどね」
「またそげなこといって~。ほんとはかわいい思てるんやない?」
「んなことないっすよ」
「ところで、今日はこげな時間まで何しとうと?」
「いや、実は今日そのおとから相談を受けまして、まぁ野暮用なんですけど、今からその件で翔の部屋にこのあと行くんすよ」
「え?そうなん? そんならちょうどよかばい。その部屋からルームサービスお願いされとるばってん、厨房ば寄って持ってってくれんかね?」
「え? 翔がですか? わかりました。俺届けますよ」
「そう? 助かるわ、ありがとね」
それから数十分後、尚斗は翔の部屋の前にいた。彼はポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。
「もしもし警察ですか?友人が自殺しています」




