未来への決意
翔は展望風呂に入ったあと、自分の部屋でただ漫然と過ごしていた。とそこに部屋のチャイムが鳴った。誰であるか察しは付いていたので、誰かと尋ねることなく、はいと返事をしながらドアを開けた。そこには詩音が立っていた。彼女は俯いたままこういった。
「この前の話なんだけど」
「来ると思ってたよ」
詩音がくることを予想していた翔は、夕飯時に一滴もアルコールを口にしていなかった。
「この船、デッキに出れるみたいなんだ。そこで話そっか」
乗船時に、らせん階段下のフロアマップで確認していた翔はそう言うと、一度部屋に戻り上着を一枚羽織って再び出てきた。2人はデッキへつながる専用扉を開けデッキへと出た。普段は賑わうこの場所も、さすがにこの季節の潮風はかなり冷たく、満員にもかかわらず他の客は誰1人としていなかった。デッキにはいくつものベンチが用意されているのだが、2人はそれには座らず、扉付近の風の当たらない場所で壁に寄りかかる形で話し始めた。
「まだちゃんと言えてなかったね、4連覇おめでとう」
詩音は、当り障りのない話題から始めた。翔は無言のままだ。もちろんそんなことをわざわざ話しにきたわけではないことがわかっていた。少し間を空け彼女は切り出した。
「みんなに祝福されちゃったね」
「ああ、だけどおと、みんながいる席であの表情は良くないよ」
翔はぶっきらぼうにこたえた。
「うん、ごめん、そうだよね。うまく笑顔作れなくって・・本題に入るね・・あのさ、日本じゃダメなの?」
翔は卒業後、国内リーグ、いわゆる実業団としての選手の道を選ばず、単身イタリアに渡り、セリエAの最高峰ミラノの入団テストを受けに行くことを彼女である詩音だけに話していた。
「これから日本のバレーボールをもっと強くする為には、日本だけにとどまってちゃダメなんだよ。世界との差を身をもって感じて、そして学んで、後世に繋げていく先駆者的存在が必要なんだ。俺はそれになりたいと思ってる」
彼は熱い想いを語った。
「気持ちはわかるけど、翔ちゃんが思ってるほどそんな簡単な話じゃないよ。言葉の壁もあるし、住むとこだって。ずっと近くで見てきたから、翔ちゃんが凄い選手だっていうことはわかる。でもやっぱり時期尚早というか、いったん日本で実績作ってからじゃいけない?」
詩音はありったけの想いで説得した。
「バレーボール選手としてのピークは20代。あまりにも短い選手生命なんだ。最盛期を過ぎた選手、ましてや日本人なんてチームに迎えようと思うかい?」
だが翔の気持ちは強かった。むしろ翔ならそういうであろうということが彼女にはわかっていた。詩音は意を決し、自分の気持ちを押し殺して、翔に伝えた。
「終わりにしたい」




