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ティアドロップを抱きしめて  作者: amanokaeru
7/7

嵐のまえに(ミレーレ)

無事に発表会が終わった。無事? 無事なのか?


……ま、まあいいや。


忙しさと騒乱をくぐり抜け、ようやく日常に戻ってきた気がする。

こうして家でゆったりするのもいつぐらいぶりかねー。


あー茶が美味い。


「姉上お下品です」

「気にするな若造」

「若いですから」

「つまらんなー1000点ボッシュート」

「意味が分かりません」


はい、今会話してるのは弟くんで未来の公爵様です。名前はスフィル・ミデン・インフィニーテ。


淡いピンクゴールドのフワッフワの髪に可憐なすみれ色の瞳。かーいらしいうちの弟くん。例に漏れず攻略ショタ枠だけど、かまいまくってたらなんか懐いた。そしたらフラグは吹っ飛びました。家出フラグへし折ったからな〜。甘い容姿なのにクールぶって可愛い奴なんだよ。


だいぶツンツンデレだけど、俺に振り回されてる苦労症気質だ。それがオモロクていじり倒したのは正直すまんかった。でも可愛くてなー頭をワシャワシャ撫でたくなんだよね。


その弟くんは手ずから入れてくれた紅茶をそっと置き溜息ついております。

呆れたような視線はスルーさせてねーお姉ちゃん今脳みそプリンだからー。


しばらく開店休業中でおなしゃーす。

それにな、今おねーちゃん悲しみの向こうに行っちゃってるから、帰ってこれないから。

その悲しみの原因は……。


コンコンコン


言わせろよ! タイミングわっる。

羊の……いやボケんでええわい、執事のテバスチャン。


ちなみにセバスチャンではない。ないったらない。語呂なんか悪いとか言って良いことと悪いことあるでしょ! めッ。

「どうぞ」


脳内で遊んでたら、ミデンがクールに対応してくれた。ミデンはクールに対応するぜ。


「お寛ぎのところ失礼いたします。お嬢様にお客様がいらしゃっております」

「あら、 とくにお約束はしておりませんが、どなたでしょうか」

「ご婚約者のメディオ殿下でございます」


うん、何しに来やがったのかしら?


「姉上」

「なぁに?」

「お顔が大変な事になってます……」

「あらあらなんのことでしょう? テバスチャンすぐにご案内して。おまたせするわけにはいけませんわよ?」


バカぼんめ、弟くんとマッタリラックスタイムを邪魔しおって! 許すまじ!!


「かしこまりました……。お嬢様、殿下がいらっしゃる前にお顔をお直しくださいね」

「お、おう」

「お言葉が」

「あら、わたくしとしたことが」


相変わらずこの家の人間は、ありのままの俺を忌避しないな。それでも外面はちゃんとしろってのは、諦めた結果で譲歩だな。うむ、俺のこれは治るわけ無いっす。

教育係でもあるテバスチャンは早々悟って、対外的にふさわしい態度ができていれば咎めはしない。弟のミデンぐらいだろ。いまだに口うるさいのは。


メディオが来るのでミデンは自室に戻った。戻る際に「姉上くれぐれもお気をつけて」とは、一体何に大してなのかは深く考えないでおく。知らんがな。


はてさてなんの御用なのかね。




今俺はヒッジョーに面倒くさい。

目の前のこのしち面倒くさい男はなんなんだ。


部屋に通されお決まりの挨拶を交わし、テバスチャンの紅茶を一口。

それから10分以上無言なんだが。

ちびちび紅茶を飲むたびに、こちらをチラリ。

砂糖を足してスプーンでくるくる、こちらをチラリ。



あああああああああああああああ。


気が狂うわ! イライラするわ!!

チラリズムはプリメラたんにお願いするのでのーせんきう。

なんなん? おま、ほんと目に辛子塗りこんだろか!?

ええい! 指をいじいじさすな!! もう我慢できんわ。


「メディオ殿下……本日はどのようなご用件でしょうか」

「いや、その婚約者を訪問することはおかしくはないと思うが」

「それでしたら、事前にお約束をお願いしますわ」


おいおい、常識だろ、アポ取れや。それかせめて先触れ寄越せや。不在かもしれないだろ? 婚約者の言い訳があっても苦しいわ。

そんな非難の目を、くれてやると流石にスイっと目を逸らす。


「俺が訪ねて都合の悪いことがあるのか?」

「……なにを」

「俺に知られたくない人物でも尋ねてくるのか?」


そらしていた眼差しが鋭くこちらを探る。胸の内を見透かそうとでもしているのか、細めた目やら険しい顔に、腹からの笑いをおさめるのに苦労する。


アホか。あーはいはい、あのイベントですか。

なんとなく分かってましたー、残念。


先ほど考えていた、切な悲しい事に紐づくイベントが起きましたよおぜうさん方。

あれですね、俺が取り巻き使ってプリメラたんに嫌がらせしてるとかいう王道なやつですね。最近やたらプリメラたんから遠ざけられる悲しい感じになってたはずだよ! どちくせう。


「知られたくない人物ですか……。仰られていることが分かりませんが」

「ッ! 誤魔化すつもりか?」

「誤魔化すもなにも私には分かりかねますが」

「彼女を……」

「彼女とは?」


「プリメラに嫌がらせをしているやつだろ!!」

「……」


はい、アウトー。なにその直球。

お前の言うとおり婚約者でも今のはいかんわー。立派な名誉毀損だわー。

賠償しちゃう? 処す? 処しちゃう?

さて、沈黙は肯定とみなされるからちゃんと否定させていただきましょうか。


もちのロン、ド正論でね!


「ミディオ殿下。私この一月ほど、貴方の側で『ワクワク属性パラダイス!〜君も石博士になろう〜』の運営に奔走しておりましたが? 色々と……えぇ。色々と! ありましたわね。それすら乗り越えようやく家でくつろいでおりますけど。知らないと仰られますか?」


どこに嫌がらせする暇ありますかねぇ。あんたら仕事しないでプリメラたんのまわりうろちょろうろちょろしてましたけどね!!


まじ潰すよ?


「それは!? ……だが、それを抜きにしても現状彼女が困っている」


俺の外面菩薩内面修羅の表情に顔を青くしつつ、なお食いついてくるとは。

いいだろう。その根性に免じて聞いてやろう。すっかり冷めた紅茶が、上がった体温にちょうどいい。


「プリメラ様が困っていることに私が関係あると殿下は思ってらっしゃるのですね」

「君がプリメラを嫌っていると皆言っている」

「……皆様ですか」


阿呆ぼんがぁ! ド直球できやがったから何か物証そんなもんないがあるのかと思ったら、皆ときたよ。これ子どもの言うやつだわ。皆=友達数人。

俺は取り巻き連れてないでしょーが。さすがに分かるだろ!?

あまりのあほらしさに溜息をついたら、逆ギレしやがった。


「ミレーレ!! 俺は君がプリメラに辛く当たっているのをこの目で見ているのだぞ」

「プリメラ様は平民です。いくら優秀でも」

「だからなんだ! それが辛く当たっていい理由にはならないだろう。鉄槌の女神と聞いて呆れる」


はい? ちょっとまって、なんかおかしいの混ざった。

なにその厨二ネーム。あんだって?


「あ、あの」

「君は民草を守り悪を討つ女神ではないのか?」

「えーと」

「……わかった。あくまで自分の過ちを認めないんだな」

「おい」



「……失望したよ。もう話すことはない失礼する」



眉根の苦悩が悲しみを物語る。数瞬瞠目し、決心したように前を向くとこちらを見もせず捨て台詞。もう一度言うぜ? す・て・ぜ・り・ふを吐いて帰っていった。


厨二ネームからの流れるような捨て台詞に、俺はどうすることもできないッつの!!

そして起こったであろう面倒くさいイベント対策をうっちゃってふて寝した俺は悪くない。


あーもう、悪くないだろ!! おやすみ!!













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