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千尋と桜ノ宮と食堂

◆千尋視点◆


ーーー木曜日。


相変わらずナウシカ兄さんからの返信は無い。あの木の場所にも行ったけど、ナウシカ兄さんは来なかった。

今日は朝からどんより曇り空だったけど、昼には土砂降りの雨になった。


「あっちゃ~。すごい雨だねぇ。」


「いつもの場所は無理だな。こりゃ。」


「久しぶりに食堂行こうよ。」


今日は久々に食堂でランチだ。雨だから、けっこう混んでる。

こうゆう日は高槻先輩達は風紀室で食べるんだって。食堂は混むから風紀室でのんびりランチとか、いいなぁ。

俺は鶏唐揚げの黒酢餡かけ定食、美村はハンバーグ定食、園田は卵雑炊。昨日のカレーがまだ効いてるらしい。

3人でウダウダ喋りながら食べてたら、急に食堂が騒がしくなった。


「なんだ?」


「久々のアレだよ!」


園田の目がキラキラしている。アイドルだか芸能人だかが来たみたいな騒ぎだぞ。


「アレ?」


「生徒会メンバー勢ぞろいってやつだよぉ。親衛隊も引き連れてね。」


美村がつまらなそうに言った。

げぇ。あいつら見て楽しいもんかね。確かにイケメン揃いだけど、男子校だろうが。俺は興味本位で入り口の方を見た。


少し不機嫌そうな生徒会長(相変わらずイケメンだ)、優等生面の副会長(嘘つきめ)、ニヤニヤしているチャラ男会計(カッコつけたって、中津先輩にシメられてるクセに)


あ、ナウシカ兄さん!


ナウシカ兄さんは薄く微笑を浮かべている。良かった。元気そうで。

その隣にいるのが・・・


「アレが桜ノ宮くんだよ。非王道らしからぬ非王道で、僕の好みじゃない。そもそも非王道は好きじゃないし。」


園田の言うことはイマイチ分からんが、俺は桜ノ宮を見た。


桜ノ宮桜真は、黒いボサボサ頭に分厚いレンズの黒ぶちメガネをしていた。顔はよく分からん。

身長は俺よりちょっと高いくらいかな。

確かに、あの派手で華やかな生徒会連中と並ぶと浮いて見えるけど、だからってとやかく言う問題でも無いだろ。あほくさ。

近くの席の生徒がこれ見よがしに悪口言いだした。声を顰める気も無いらしい。


「まただ。あのボサボサ頭。生徒会の皆様にくっついて。」


「ムカつくよね。書記様に気安く話しかけないでよね。皆の王子様なのに。」


「どっかの親衛隊に制裁されちゃえばいいのに。」


ーーー怖っ!!ナニコレ!?


ここ男子校だよね?何このお局OLの新人イビリみたいなの!?


「もっとムカつくのはあの平凡だよ。ボサボサ頭を利用して、瀧山様に近付こうって魂胆らしいよ。」


ーーー平凡?


もう一度、生徒会連中の方を見ると後ろの方に縮こまるようにして平野がいた。


「平野だ。」


顔色が悪い。多分、外野連中の悪口は平野に聞こえてる。

その後ろに小綺麗な顔した生徒が数名ついていた。アレが親衛隊って奴らしい。


「あっ!」


平野の近くにいた奴が、軽く平野の脚を蹴った。他の生徒も肘で小突いたり、何か小声で言ったりしてる。

平野は青い顔をして、首を左右に振ってる。


ーーー誰も気にしない。


派手な生徒会連中に夢中で、青い顔をした平野の様子に気付かない。

あの優しいナウシカ兄さんですら、ガン無視だ。

気付いてないんだ。あんなに青い顔して、ここから消えたそうな顔してる平野に。


「なんだよ、これ・・・。」


「アリスちゃん。」


騒ぎを無視して飯食ってた美村が、俺の変化に気付いて嗜めるように言った。

関わるなってことだろ。散々、委員長にも言われたよ。でも・・・


でも、これっておかしいだろ?


「ごめん。美村。」


「!?・・・アリスちゃ・・!!」


俺はお茶の入った湯呑みを持って席を立った。そのまま、まっすぐ生徒会連中の方へ俺はスタスタ歩いてった。

生徒会長が俺に気付いて「おっ」て顔したけど無視だ。

それに続いて、副会長、チャラ男会計、ナウシカ兄さんーーー桜ノ宮がこっちを見た。

ナウシカ兄さんが小さな声で「千尋」と呼んだ。今はこれも無視だ。


まっすぐ桜ノ宮を見た・・・そしてーーー


「わぁッ!」


思いっきり躓いたフリして、手にした湯呑みのお茶をぶっかけて転んだ。


平野に。


「ちょっと!!何すんのさ!」


とばっちりで、ちょびっとお茶がかかった親衛隊がギャーギャー騒いだ。

俺は床にペタンと座ったまま


「ごめんなさいぃ~。」


と、しおらしく謝った。うちのクラスのチワワ連中の真似だ。

食堂がシーンとした後、騒ついた。


「千尋っ!」


ナウシカ兄さんが慌てて俺に寄ってこようとするのを桜ノ宮が止めた。


「大丈夫?平野君。それに、君は・・・」


俺は立ち上がって


「有栖川です。俺は大丈夫。」


と言って桜ノ宮を見た。すぐに視線を平野に戻し


「ごめん。火傷してない?大丈夫?」


「あ、有栖川くん・・・。」


心配するように言って、平野の手を取った。お茶はとっくに冷めてたし、火傷することはないんだけど。


「どこ行くの?」と、桜ノ宮が聞いた。


「保健室。俺のせいで火傷しちゃったかもしれないし。俺の不注意で、お騒がせしてごめんなさいっ!」


ガバッと頭を下げた。食堂の人が慌ててタオルを持って走ってきた。


「食堂の人もごめんなさい!お茶こぼしちゃって。とりあえず保健室行ってきます!」


俺は平野の手を引っ張って、食堂を出て行った。

ちらっと見えた美村が「あちゃー」って顔してた。園田は最高にキラキラ顔してた。


騒つく食堂で


「・・・やっぱり、面白い奴だ。」

生徒会長が笑って言った。副会長も微笑を浮かべて

「ええ。本当に。」と、低い声で呟いた。

書記は不安げな顔で見送り、会計は面白そうな顔をしていた。


桜ノ宮桜真は、分厚いメガネでカモフラージュしている猛禽類のような視線を有栖川千尋の後ろ姿に送った。


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