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千尋と平凡くん

俺は平野の腕を引っ張って、だかだか歩いてった。


「あ、有栖川くん!」


平野の戸惑った声に足を止める。


「ごめん。勝手なことして。」


「えっ?」


ポケットからハンカチを出して、お茶がかかった平野のシャツを拭いた。そして平野の目を見て言った。


「でも、ほっとけなかった。平野に嫌がらせしてんの。あいつらだろ。」


「・・・有栖川くん。」


うう。つい、行動しちゃったけど、余計なことだったかも。おせっかいだったかも。今更ながら、冷や汗が出てきた。


「ありがとう。」


「えっ。」


「こんな風に、心配して、行動してくれたの有栖川くんだけだ。」


平野が潤んだ瞳で俺を見た。


「でも、僕に関わっちゃったら、有栖川くんまで親衛隊に目を付けられるんじゃ・・・」


平野が青い顔で言った。


「ああ。それは別にいいんだけど。」


お局OLみたいな嫌がらせくらい、どうってことない。もと社蓄リーマンですから。パワハラには慣れてる。


「それよりも怖いのは・・・」


言いかけた時に校内放送が廊下に響いた。


『1-B有栖川千尋、1-D平野悠二、風紀室に来い。今すぐにだ。』


平野がビクっと肩を震わせた。


「ハリウッド委員長だ。」


早すぎ~!美村か。チクったのは。まぁ、すぐに伝わるだろうし。

俺は平野の手を引いて、風紀室に向かった。


俺と平野は風紀室の前に到着した。


「有栖川です。」


ノックして、ドアを開ける。


ーーーげぇっ。全員集合してやがる。


風紀室には、ハリウッド委員長と西宮副委員長、中津先輩、高槻先輩がいた。


「じょ、情報早いっすね。」


俺はちょっとタジタジだ。

高槻先輩が俺と平野を見て眉を顰めた。ズカズカと歩いてきて、平野の手を繋いでた俺の手をぐいっと引っ張って、平野から引き離された。


「ちょっ・・高槻先輩!」


高槻先輩に肩を掴まれた。


「千尋。生徒会には関わるなと言っただろう。」


ーーー怖っ!目がマジだ。


「だ、だって・・・。」


「落ち着け。高槻。姫も平野も、まぁ座れ。」


高槻先輩がしぶしぶ俺から手を離す。居心地悪そうにしてる平野と一緒にソファに座った。


「美村から聞いたぞ。無茶しやがって。」


委員長が呆れたように言った。あのチャラ男会計キス事件から、なんかあったら美村は委員長に報告する係みたいになってる。


「俺は面白いって思いますけどー。あいつら調子のってっし。」と、中津先輩。


「無茶だとは思いますが、まぁ平野君を生徒会と離すには妥当かと。」と、西宮副委員長。


「・・・。」高槻先輩はピリピリしてる。


「あっ、あの!有栖川くんは悪くないです!僕を心配して、連れ出してくれたんです!」


平野が必死に委員長に訴えた。平野、ええ子や。


「だって、あいつら。平野がもっさり君を利用して、金髪変態男に近付こうとしてるとか、無いこと無いこと言ってたんですよ。お局OLみたいに平野を小突いてたし。」


「金髪変態男にお局OLって、お前なぁ。」


委員長は苦笑いだ。


「お前はいいだろうが、問題は平野だな。」


「ですね。」


委員長と副委員長が少し困った顔をした。


「平野は生徒会、特に瀧山に近付こうと桜ノ宮を利用してるって噂されてる。そこにお前だ。1-Bの眠り姫。」


「俺?」


「今度は隠れアイドルのお前に取り入ろうって魂胆かと思われちまうだろ。」と、ハリウッド委員長。


「あ~。風紀VS生徒会の台風の目だったもんね~。チヒロちゃん。」と、中津先輩。


「えっ。」


「平野君が君を利用して、生徒会や風紀に取り入ろうとしているんじゃないかって思う生徒も出てくるという事ですよ。」と、西宮副委員長。


「瀧山の親衛隊長の西京極はそう考えるだろうな。」と、高槻先輩。


俺は胃が痛くなった。俺が余計なことしちゃったから、平野の立場はますます悪くなったってことか。


「・・・ごめん。平野。」


「謝らないで。僕は嬉しかったよ。」


平野は笑って俺に言った。平野、ええ子や。


「・・でも、委員長。どうしよう・・・俺やっちまった。」


「かまわねぇよ。元々、俺らと生徒会は犬猿の仲だ。桜ノ宮も平野の事も、金髪変態男と根性の悪い親衛隊が制裁やってるって事も、これまでは水面下の問題だった。これで真っ向からぶつかれるんだ。気にすんな。」


委員長がガハハと笑った。

やっぱりハリウッド委員長は頼もしい。


「とりあえず、平野の登下校は1年のサブ風紀と行動してもらう。」


「サブ風紀?」


「ゆくゆく風紀委員を目指す1年ですよ。他にも学園祭の時など、巡回に人数が必要な時に臨時のメンバーが1、2年に何名かいるんです。」


へぇ~知らんかった。まぁ確かに、いくら腕っぷしが強くても4人じゃ足りない時もあるよなぁ。

メインで動いたり、いろいろ決めてんのはこの4人なんだって。なんか、すごいんだな。ハリウッド委員長。ただシモネタ言ってるだけじゃないんだ。


俺がちょっと失礼な事を考えてるうちに話が進んだ。


俺はいつも通り、委員長と高槻先輩と登下校。

昼休みは食堂に行かないこと。

生徒会とは距離をとること。

桜ノ宮とは関わらないこと。でも平野は桜ノ宮と同室だ。


「今は部屋に空きがねぇからなぁ。それに桜ノ宮が表立って何かしてる訳じゃねぇし、部屋替えは無理だからなぁ。」


俺は、はたと気付いた。


「美村んとこ空いてません?あいつ1人じゃなかったですっけ?」


「ああ。だが、編入生と同室になる事が決まってんだよ。」


「編入生?」


「2年のな。夏休み明けに入寮だ。海外在住の秀才らしいが、この時期に珍しい。またおかしな奴じゃなきゃいいんだが。」


委員長が溜め息を吐いた。俺はちょっと考えて言った。


「・・・じゃあ、俺と平野が入れ替わったら・・」


「絶対にダメだ!!」


高槻先輩が吠えた。怖っ。


「馬鹿な事を言うんじゃない!」


「だって・・・。」


「落ち着け。高槻。」


みんな桜ノ宮の事をラスボスみたいに言うけど・・・俺は今日初めて桜ノ宮を見た。そんなに危なそうには見えなかったけど。ナウシカ兄さんが仲良くしてるみたいだし。


「俺、一回桜ノ宮と話してみたいんですよ。なんか、うわさ話ばっかりでつかみどころが無いし。まどろっこしいことするより、腹割って話した方が・・・」


「俺は許さないからな。千尋。」


高槻先輩の過保護が発動だ。


「それも面白そうだが、お前は大人しくしとけ。」


「・・・。」


そんなに俺って頼りないかなぁ。


「そろそろ昼休みも終わるし、教室に戻れ。放課後、平野はサブ風紀を教室に行かせる。姫は風紀室に来い。明日の昼飯はここで食え。」


「ここ?」


「昼は風紀室集合だ。てことで、お前ら解散だ。」


委員長が締めくくったけど・・・俺は恐ろしい事に気付いてしまった。


「はぅあ!!」


「ど、どうしたの?有栖川くん。」


「俺も平野も昼飯食いっぱぐれてるじゃないか!午後の授業なんてもたないよ。」


俺は1/3は食べれたけど、平野は全然食べてないはず。なんてこった。


「そうなのか?千尋。今日は早退するか?」


高槻先輩の過保護が絶賛続行中だ。腹減って早退とか、無いから!


「お前らなぁ・・・。」


委員長が呆れた声で言った。


「確か差し入れのバームクーヘンがあったはず・・・。」


副委員長が給湯室を覗きに行った。手にバームクーヘンの箱とチョコとかクッキーの袋を持って戻ってきた。なんか高級そうなやつだ。


「おおお!副委員長、女神さま!」


「はいはい。コーヒーと紅茶どっちがいい?」


俺はブラックコーヒー、平野はミルク多めでお願いした。


「俺もコーヒーおかわり頼むわ。」


「はいはい。」


副委員長は給湯室に戻っていった。面倒見いいよなぁ。西宮副委員長は。

俺と平野はバームクーヘンやらクッキーやら、ごちそうになった。


とりあえず一安心か。


委員長にも高槻先輩にも反対されてるけど、俺は桜ノ宮と話すチャンスがあればなぁ、と考えていた。

平野を小突いてた親衛隊の奴らが性格悪いのは一目瞭然だが、桜ノ宮はどうだろう?

もしかしたら、悪気無く周りを振り回してるだけかもしれない。


「美味しかった!ごちそうさまでした。」


「ごちそうさまでした。あの、いろいろとすみません。」


平野が申し訳なさそうに言った。


「気にしなくていいよ。ごめんね。今まで辛かったでしょう。」


西宮副委員長が平野に優しく言った。


「これからは表立って動くから、任せとけ。」


委員長が笑って言った。


「姫。お前はもう余計なことすんなよ。」


俺の考えをよんだのか、委員長が釘をさしてきた。


「・・・はぁい。」


俺は素直に返事をしておいた。


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