千尋と保健室と稲妻会長
【千尋視点】
翌朝、高槻先輩が寝てるうちに抜け出して、いつもの木の下に行ってみたけど・・・
ナウシカ兄さんは来なかった。ついでにリスも来なかった。
俺はナウシカ兄さんのメルアドしか知らない。もうちょっと色々話しとけばよかった。
「・・・。」
俺は溜め息を吐いて、とぼとぼと寮に戻った。
今朝は委員長が「いいなぁ。嫁欲しい。」とうるさかった。
裸エプロンの話題は高槻先輩が鬼の形相で阻止していた。高槻先輩、裸エプロン嫌いなのかな?
いつものように授業を受ける。今日は曇りだ。そのせいか、ちょっと憂鬱な気持ちになる。
ーーーお昼休み。
今日はカレー屋のケータリングが来てた。けっこう辛いやつ。でもハバネロみたいにやみつきになる味だ。
美村はカレーはパス。俺はあんまり食欲わかなくて、2人で購買でパンを買った。
園田だけ激辛カレーを食べたんだが・・・
「・・・うぅ。」
「大丈夫か?園田。」
園田は脂汗をかいてる。スパイスが効きすぎて、お腹痛くなっちゃったみたいだ。
「園ちゃん。トイレ行く?」
美村が手を貸して、立ち上がらせた。
「俺、保健室で胃薬もらってくる。美村は園田についててやって。」
「あっ!アリスちゃん。」
ここから保健室は遠いし、俺が薬もらってきた方が早いと思って俺は走り出した。
はぁっと少し荒くなった息を整えて、保健室に入る。ほんと、軟弱な体だぜ。
「伊丹先生?有栖川です~。胃薬欲しいんだけど・・・。」
しーん。
「ありゃ。いない。」
いっつも、保健室にいないんだよな。
「流浪の保険医はどこ行ってんだ。勝手に胃薬もらっちゃうよ。」
俺は薬箱を探す。
「薬箱~胃薬ぃ~激辛カレ~園田ぁ~腹痛~♪」
ちょっと音程外れてるけど、鼻歌まじりで胃薬を探した。そんなマヌケなことしてたもんだから、背後のベッドにいた人の気配に気付かなかった。
ぐいっと腕を掴まれ後ろに引っ張られた。
「うわぁッ!?」
よろけた体を抱きとめられ、後ろからぎゅっと抱きしめられた。不意を突かれて心臓が止まるかと思った。
「よお。音痴の眠り姫。」
「うげっ!生徒会長!!」
俺は生徒会長の腕の中だ。なんでまたコイツと遭遇すんだよ!?
「離せッ!このセクハラ野郎!」
「あぁ?お前、顔のわりに口悪いな。」
「うるさ・・も、離せってば!!」
悲しいかな、圧倒的な体格さだ。全力で暴れてるのに、逞しい腕はビクともしない。
「この性犯罪者っ!!」
「はぁ!?」
「コンビニでベロチューかましやがって!頭おかしいんじゃねぇのか!」
俺は首をねじって生徒会長を睨みつける。
「あれはお前が下手な嘘つくからだろうが。ちょっとしたイヤガラセだ。」
「はぁ?意味わかんな・・・わっ!」
生徒会長の腕の中で、くるんっと向きを変えられ真正面から腰を抱かれた体勢になる。
「やっとご対面だ。」
俺の顔を見て、ニヤっと悪い顔で笑った。悔しいが、そんな顔もワイルドでイケメンだ。
「・・・俺は会いたくなかった。」
「・・・そうかよ。ムカつくな。お前。」
生徒会長が目を細めて、低い声で言う。やばっ。また余計なこと言っちゃったかも。
「俺っ、あんたの相手してる暇ないから!友達が腹痛でヤバイから胃薬貰いに来ただけだし!」
俺は抱っこを嫌がる猫みたいに、両手を突っ張って、どうにか逃げようともがく。
「・・・。」
ふっと生徒会長の腕の力が緩んだ。生徒会長は俺を解放して、保険医の机の方へ歩いてって、がそごそやってる。
「ほら。」
ほい、と胃薬を渡された。そして、またベッドにゴロンと寝転んだ。
「あ、ありがとう。」
え?ナニコレ?
生徒会長は頭の後ろで手を組んで、目を閉じて横になってる。寝てんのか?俺はマジマジと会長の顔を見た。やっぱりイケメンだ。
「俺が男前だからって、何見惚れてんだ。友達が腹イタじゃねぇのか?」
「あ、うん。そうじゃなくて・・・あんたも体調悪いの?」
「あんたって言うな。正宗だ。」
「はぁ。」
戦国武将みたいな名前だな。会長は横目で俺を見た。
「生徒会室に缶詰状態だったから、気分転換にここで仮眠とってたんだよ。音痴の歌で起こされた。」
「失礼な!」
実際、音痴ですけどね!俺は保健室を出て行こうとして、会長を振り返る。
「会長。」
「んだよ。」
カーディガンのポケットに入ってたブラックサンダーきなこ味を会長に投げた。
「それあげる。」
そう言って保健室を出て、園田の元へ走った。
「やっぱ、面白いな。あいつ。」
保健室では会長がブラックサンダーを手に、笑いながら呟いた。




