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千尋とエプロン

◆千尋視点◆


ーーー放課後。


委員長に送ってもらいがてら、俺はコンビニで食材を買い込んでいた。

コンビニ店員が「あっ、昨日の!」みたいなコショコショ話してるけど、スルーだ。

園田が言うオールスター祭なんてやらかして、新聞なんか載っちゃって、スルースキルを高めないとやってらんないぜ。


キスは男同士だから、ノーカンだ。俺の唇は、いつかできるであろう可愛い彼女をファーストキスとしか認めんからな。


「姫、料理できるのか。」


「まぁ、ぼちぼち。」


山田太郎時代、ギャル系の彼女に貢いでいた俺は節約の為に自炊して弁当男子だった。

小林ほどじゃないけど、男の一人暮らし料理はできる。


「高槻先輩に何も食べさせないで帰らせてくださいよ。」


レジで会計しながら、俺は委員長に頼んだ。


「任せとけ。いいなぁ。高槻は。可愛い嫁がいて。」


「嫁言うな。」


「今度、俺にも食わせろよ。」


「別にいいですけど。たいしたもの作れませんよ?」


「俺の為に作ってるってのがいいんだろうが。ぜひ、裸エプロンで頼む。」


「アホですか。」


「アホ言うな。男のロマンだ。」


委員長とウダウダ喋りながら寮に戻った。

新聞の事とか、キスの事とか・・・委員長が高槻先輩を上手くなだめとくって言ってた。

また委員長に張り合って、キスでもされたら最悪だ。


どうも高槻先輩は委員長に張り合って、真似っこする傾向があるんだよなぁって言ったら「そうじゃねぇよ。姫もたいがい鈍いなぁ。」と、溜め息を吐かれた。


どうゆう意味だろ?


ーーーさて。


めっちゃ久々の自炊だ。俺はスマホでレシピを検索する。作り方はだいたい覚えてるけど、念の為。


「・・・。」


スマホを手にして返信が無いのを見て溜め息を吐く。

ナウシカ兄さんに何度かメールしたけど返信が無い。


・・・昨日の、傷付いたような顔が忘れられなかった。


『明日の朝、いつものとこで待ってる。』そうメールをして、レシピの画面に戻した。


+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+ 


◆高槻視点◆


今日は一度も千尋と顔を合わせていなかった。放課後も委員長が千尋を送って行った。


・・・子供じみているとは思う。


千尋が南方を下の名前で呼んでいる事に嫉妬した。俺の方が千尋を知っている。ずっと近くにいると思っていたのに。

千尋が南方を庇ったのも気に入らなかった。


「・・・。」


でも千尋が悪い訳じゃない。

俺はコンビニで、オレオとプリングルスとブラックサンダー全種類を買って帰った。確か千尋が好きなチョコだ。


寮の部屋に入ると良い匂いがした。


「?」


靴を脱いで、キッチンへ行くと・・・


「千尋?」


「あ。高槻先輩、おかえりなさい。」


千尋がキッチンに立っていた。


「早かったですね。もうちょっとでできるんで。あっ。ご飯食べてきてないですよね?」


「あ、ああ。」


俺はハッとする。放課後、委員長がしきりに「飯食わずに帰れ。」「いいなぁ。俺も嫁が欲しい。」「裸エプロンが見たい。」と、謎発言をしていた。


俺はマジマジと千尋を見た。

千尋は紺のシンプルなエプロンをしている。少し普段と違う感じがして、目が離せなくなってしまう。


「高槻先輩。手洗ってきて。ついでに着替えたら?」


「わ、分かった。」


俺は手を洗って、自室で部屋着に着替える。

部屋を出ると、千尋がダイニングテーブルに料理を並べていた。

ご飯、味噌汁、ほうれん草の卵とじ、キャベツの千切りと豚生姜焼きだ。


「千尋、これ・・・」


「今日は俺作ったんで、一緒に食べましょう。え~っと・・・。」


千尋は「え~っと、う~んっと」とモニョモニョ言ってる。


「?」


「しょ、章大先輩。」


「ッ!?」


千尋は真っ赤になって


「あ~!やっぱなんか照れる!なんでだろ?これで勘弁してくんない?」


俺を見上げて言った。その照れた顔がめちゃくちゃ可愛かった。


「わぁ!」


俺はたまらなくなって、思わず千尋を抱きしめる。千尋の体は、すっぽりと俺の腕の中に納まってしまう。意固地になっていた気持ちが溶けていく。


「高槻先輩でいいよ。」


「ほんと?よかった。なんか照れくさくて。」


千尋がえへへと笑って言った。


「じゃあ元どおりですね。」


「ああ。」


俺は腕を解き、千尋にコンビニ袋を差し出す。


「あ!ブラックサンダー全種類あるじゃないですか。」


千尋が嬉しそうに笑った。「食後のおやつにしよう」と言って、お菓子置き場に持っていった。

ダイニングで向かい合って座った。


「いただきます。」


「いただきます。めっちゃ普通だけど、どうぞ。」


千尋は謙遜して言うけど、めちゃくちゃ美味かった。


「すごく美味しいよ。俺、豚生姜焼き好きなんだ。」


「知ってる。」


「え?」


「だって、高槻先輩。お弁当買ってくるとき、しょっちゅう豚生姜焼きにするじゃないですか。食べてるときも嬉しそうだし。」


俺はちょっと恥ずかしくなる。そんなに顔に出てるのか?


「そ、そうか?」


「よく見てるでしょ。」


そう言って、ニコッと笑った。ドキリとしてしまう。

・・・参ったな。かなわない。千尋には。


「千尋が作ってくれた豚生姜焼きが一番美味しいよ。」


「そ、そっすか。」


「また作ってくれ。」


「いいですよ。」


俺も千尋を見て笑った。


一緒に晩ご飯を食べた後、洗い物は俺がすると言って、千尋をリビングのソファに座らせた。

コーヒーを入れて、ブラックサンダーを一緒に食べた。テレビでお笑い番組を見て、「バカバカしいな。」と、2人して笑った。


なんとも言えない、穏やかな気持ちになる。千尋は不思議だ。

なんて事のない、普通の過ごし方をしているのに、一緒にいるといつも胸の内が幸せな感覚で満たされてしまう。


委員長から『裸エプロンどうだった?』と、メールがきていた。『裸じゃないです。でも最高に美味しかったです。』と返信しておいた。


ーーーだが、その夜。夢の中で、裸エプロンの千尋が出てきた。


翌朝、俺は千尋の顔をまともに見れなかった。


・・・くそっ。委員長のせいだ。


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