高槻先輩とトム・ヤム・クン
◆千尋視点◆
部屋に鍵をかけて、俺はベッドにダイブした。
なんなんだよ・・・半日で野郎3人にキスされるって、おかしいだろ。
許容範囲超えだ。
・・・それに。
さっき、高槻先輩に吸い付かれた時。ちょっと、ゾクっとしたというか・・・
ぶっちゃけ、感じそうになった。
それがすげぇ情けないやら恥ずかしいやら・・・。
「はぁ・・・もう、なんなんだよ。」
ああ、ビール飲みたい。無理か。高校生だし。
とりあえず、今日は学校サボりだからと、俺は制服を脱いで部屋着に着替えた。
ふて寝してやる・・・と思ったが。
高槻先輩が出て行った音はしてない。もしかして、まだいんのかな?
ウォーキングが見つかって押さえ込まれた時、冷静に戻った高槻先輩はちょっとかわいそうなくらいションボリしていた。
1仏陀の意味が分かったよ。あの人、冷静なようで勢いでダーッといっちゃうタイプだ。
ーーーで、後から後悔する。
俺は溜め息を吐いて、部屋のドアを開けた。
ドアの向かいに、立てた膝に顔を埋めて高槻先輩が座り込んでいた。
ハッと顔を上げて俺を見る。
「千尋!さっきは・・・。」
「ジンジャーエール買ってきて。」
「えっ?」
ビール代わりの炭酸が飲みたい。
「ジンジャーエールとピザポテトとカントリーマアム買ってきて。」
高槻先輩がキョトンとしている。普段と違うちょっとマヌケな顔が、年相応で可愛かった。
「ほら!ダッシュ!」
「わ、分かった!」
高槻先輩は慌てて部屋を出て行った。
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リビングでテレビのリモコンをポチポチしてたら、高槻先輩が帰ってきた。
息を切らしてコンビニ袋を差し出す。
「あの映画見たい。マッハじゃない方のムエタイ映画。トンチンカンみたいなの。」
「ト・・『トムヤムクン』か?」
「そう。DVD持ってきて。」
「わ、分かった。」
高槻先輩は慌てて自分の部屋からDVDを取ってきた。
「セットして。」
「あ、ああ。」
高槻先輩にDVDをセットさせて、俺はジンジャーエールを飲んだ。
戸惑ってる高槻先輩に、ソファをポンと叩いて
「座ったら?」
と言う。
高槻先輩がおずおずと隣に座った。
「高槻先輩、甘いのとピザポテトどっちが好きですか?」
「・・・ピ、ピザポテトかな?」
俺はピザポテトの袋をバリっと開けて、高槻先輩に差し出す。
「ん。」
「あ、ありがとう。千尋。」
「買ってきたの高槻先輩だし。」
俺が笑って言うと、高槻先輩もホッとしたように笑った。
「高槻先輩も今日はサボっちゃう?映画三昧しましょうよ。」
俺はカントリーマアムを食べながら言った。
「・・・そうだな。」
高槻先輩がピザポテトを食べながら答えた。
これ。俺と小林の仲直り方法だ。
小林は怒るってことをしない男だが、俺が1人でから周りしてケンカっぽくなるんだ。
カッとして、小林に対して意地悪なことを言ってしまった事もあった。
意地をはって無言になっちゃたり、謝ろうとしんみりしてしまったり、言い訳をしようと焦ったりすると
『山田。ビール買ってきて。』
と、小林が言う。
最初の頃は「なんだコイツ」って思ったけど、買いに出て歩いてるうちに頭が冷えてくる。
部屋に戻ったら小林は何事もなかったように、「ありがとう」とビールを受け取り、2人でお馬鹿映画を見た。
「ありえねぇよ、この展開」「CG嘘くせぇ」とか、あーだこーだ言って。
知らないうちに仲直りしてた。
高槻先輩は何でキスしたのかとか、キスマークまでつけやがってとか、蒸し返したくなくて。(俺自身ちょっと気持ちよくなっちゃってたし。うおお!)
小林流仲直りを実践した。
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◆高槻視点◆
「ジンジャーエールとピザポテトとカントリーマアム買ってきて!ダッシュ!」
そう千尋に言われて、戸惑いながらもコンビニに走った。
道中、冷静になってきて、何故あんな真似をしてしまったのか考えた。
ーーー嫉妬したんだ。委員長の悪ふざけに。
自分が一番千尋の身近にいて、自分が一番・・・千尋を守るのだと思っていたから。
だが、千尋を傷付けてしまった。
ーーーなんて謝ればいい?
千尋に対する謝罪の言葉を考えながら部屋に戻ると
「あれ見たい。トンチンカンみたいなやつ。」
「ト、トムヤムクンか?」
「持ってきて。」
俺は慌てて自室からDVDを取ってきて、セットした。
「甘いのとピザポテト、どっちが好きですか?」
「高槻先輩が買ってきたやつでしょ。」
「今日はサボっちゃいましょうよ。」
千尋が悪戯っぽい目で言ってきた。俺もつい笑ってしまう。
ずっと、なんて言おう。どう謝ろうと気持ちが沈み、頭の中はグズグズだったが、気付けば自然に千尋の横にいる。
「うお。すごいキック。高槻先輩もあれできる?」
千尋が俺を見て聞いてきた。
「できるぞ。」
「マジで?今度やってみせて。」
2人でお菓子を食べながら映画を見て、笑って雑談をする。
千尋が俺を許してくれているのだと分かり、胸が暖かくなる。
こんな仲直りの仕方なんて初めてだった。
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結局、DVDを見終わったらケーブルでアメコミ映画特集をやっていたので、そのまま一緒に見た。
途中、俺も部屋着に着替えてダラダラと過ごした。
こんな風に学校をサボって過ごすのは初めてで、千尋とダラダラするのは楽しかった。
2本目のアメコミ映画のエンドロール中にキッチンでコーヒーを入れて戻ると千尋がうたた寝をしていた。
「千尋?」
コーヒーをローテーブルに置いて呼びかける。けっこう深く眠っているみたいだ。
薄く唇を開けて、小さく寝息を吐いている。
ソファに座ったままで窮屈そうだったので、横にしてやろうと肩を抱いたら、キュッとTシャツを掴まれた。
「千尋・・・。」
「ん・・・。」
ーーー眠ってる。
無理に千尋の手をTシャツからひきはがすのは躊躇われた。
『1-Bの眠り姫』
千尋はそう呼ばれている。
閉じた瞼と長い睫毛。薄っすら色付いた唇。透き通るような肌。
少女のようではなく、少年と青年の中間の透明感のある美しさだ。
人形のように整った顔が、目覚めて笑えば、とても可愛らしく無邪気になる。
千尋の寝顔を見ていると、胸の奥がくすぐったいような・・・
何とも言えない感情が湧きあがってくる。
「千尋・・・。」
俺は眠る千尋をそっと抱きしめた。
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◆千尋視点◆
「ん・・・。」
めっちゃ寝てた。
「んん?」
誰かを下敷きにして寝てるみたいだ。寝起きの頭で、ぼんやりと見れば高槻先輩だ。
ソファの上で高槻先輩に抱っこされるみたいにして寝てたみたい。
ーーーどうしてこうなった?
高槻先輩はソファの肘置きを枕にして片脚は反対の肘置きに引っ掛け、もう一方の脚は床に下ろして寝てる。
俺はうつ伏せで高槻先輩を敷布団にしていて、ソファから落ちないようにか、高槻先輩の腕の輪っかの中だ。
「・・・。」
そっと起きようとするけど、高槻先輩の腕の輪っかにがっちりホールドされていて抜け出せそうにない。
「はぁ。まったく・・・。」
俺は溜め息を吐いて、高槻先輩の寝顔を見つめた。
相変わらず整ったイケメンだ。ただし、残念なイケメンだよなぁ。
高槻先輩は時々、暴走するみたいだ。
それ以外は良い先輩なんだけどなぁ。
気持ち良さそうに寝てる高槻先輩を見ていたら、俺もまた眠くなった。
高槻先輩のムエタイ胸筋を枕に二度寝をした。




