千尋と御影委員長
◆御影視点◆
「なんだなんだ。お通夜かよ。」
今朝も俺はいつものように高槻の部屋まで行きコーヒーを飲んでいた。
・・・が、空気がお通夜だ。
高槻は珍しくしょげまくっているし、お姫様は拗ねたようにブスくれている。
まぁ、そんな顔も可愛いが。
ーーー泣いたな。
目が赤くなって、少し目元が腫れぼったい。
「何かあったのか?」
「なんでもないです。」
高槻が答える前に、姫がばっさり言った。
また高槻がしょんぼりしている。
ーーーおいおい。痴話ゲンカかよ。
俺は溜め息を吐いてコーヒーを飲んだ。
この日、登校中2人は一言も喋らなかった。
俺達のクラスは階が違うので、エレベーターで順々に降りて別れた。
・・・が、俺は階段で降りて1-Bの教室を目指した。
「有栖川くん。どうしたの!?」
「アリスちゃん。何かあったの?」
教室ではクラスメイトが姫に心配げに聞いていた。
「あ!」
俺が一年の教室に入っていくと、教室にいる生徒連中がピシリと固まった。
「?・・・あ!」
不審げに振り返った姫が、俺を見て目を見開いた。
「ちょっと来い。一限目はサボりだ。おい。お前、教師に伝えとけ。」
クラスメイトに言って、姫の腕を掴んで連れ出した。
「あんた!なに勝手に・・・!」
「風紀の特権だ。」
俺は姫を連れて、風紀室を目指した。
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風紀室に着いて、ソファに姫を座らせた。
「で、何があったんだ?」
「・・・。」
俺は姫の隣に座って、指先で腫れた目元をなぞった。
「お前。泣いただろ。」
姫は嫌そうに体をよじって逃げた。
ヤバイな。こいつは。嫌そうな顔が、ある種の男をそそる雰囲気を持っている。
俺は高槻程に真面目じゃないから、この学園に割り切った体だけのセフレがいる。
男同士の快楽も知っているから、無防備なこいつが余計に心配になる。
「お前ら同室なんだから、嫌でも顔合わすだろうが。俺に話してスッキリしとけ。」
ジト目で俺を見ていたが、しぶしぶ姫が話しはじめた。
話を聞き終えて
「あの高槻がねぇ・・・。」
俺はぼそりと呟いた。
「あんな言い方、ないと思う。俺だって男だし、好きでこの体になったんじゃない。」
俺が驚いたのは、高槻が姫を力ずくで押さえ込んだことよりも「守らせてくれ」って言ったことだ。
あいつは真面目で硬派だ。本気で言ったんだろう。
姫はまだ拗ねた顔をしている。
「・・・。」
俺は立ち上がって、引き出しから写真を出した。
応接セットのテーブルに写真を放った。
「なっ!?」
写真を見て、姫が凍り付いた。
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写真には裸に剥かれた可愛らしい顔をした少年が泣きながら写っていた。
何枚も。
「な、んだよ!?これ・・・。」
姫が顔色を無くして聞いてきた。
「暴行はされていない。写真だけだ。」
中には脚を開かされ、恥ずかしい場所が丸見えのものまである。
「親衛隊の中での、『お仕置き』みたいなもんだ。新入りの1年坊主がでしゃばったから、恥ずかしい写真を撮って脅してたんだよ。」
「生徒会の・・・」
「いや。違う。3年の人気のある生徒の親衛隊だ。この写真を回収したのは昨日だ。」
「えっ!?」
「高槻がお前を過剰に心配した理由は分かるな。」
「・・・。」
今、この学園はおかしな方向に行きつつある。
1年前の『事件』で、どの親衛隊も『制裁』そのものを自粛して、何かあれば風紀を真ん中に置いて話し合いで解決するようになっていた。
だが、今は・・・
「生徒会親衛隊だけじゃなく、制裁は正義だ。それでこそ親衛隊だという空気が出来上がってきてるんだよ。
陰で誘導し、煽ってる奴がいる。」
姫がハッと顔を上げた。
「桜ノ宮のことですか?」
「・・・証拠は無い。だが、お前は桜ノ宮に関わるな。」
あいつは胡散臭い。感情や腹の内が読めない。薄気味悪い奴だ。
今だって、外出届けを出して一週間も外で何をしているのやら。
「だったら、余計に俺より平野が危ないじゃないですか!」
俺は苦笑した。この写真を見ても、自分より平野の心配か。
「平野は大丈夫だ。信用しろ。」
「・・・。」
「ほら。なんたって俺は『族潰し』らしいからな。頼もしいだろうが。」
「どこがだよ。」
やっと姫が笑った。
やっぱり笑った顔が一番可愛いかった。
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俺は写真を片付けて、また姫の隣に座った。
「お前。体鍛えたいのか?」
「もちろんですよ!背だって伸ばしたいし!」
いや。鍛えたから身長伸びる訳じゃないと思うが。
俺はマジマジと姫の顔を見る。
艶のある長めの黒髪。潤んだ黒い瞳。きめ細かな肌。薄く色付いた唇。
次の抱きたいランキングぶっちぎりの1位になるだろう。
高槻が番犬してなけりゃ、とっくに親衛隊ができているはずだ。
ーーーもっと、楽な生き方もできるのに。
この学園の、所謂『美少年』どもは、その容姿を利用してけっこう美味しい思いをしている。
こいつが可愛く『お願い』すりゃあ何でもやるって奴がわんさか出てくるだろうに。
だが「守ってもらう必要はない。自分でなんとかする。」と、華奢な体で強がるこいつだから、高槻も放っておけないのだろう。
姫は悔しそうな顔をしている。
顔に似合わず、性格が男だ。
「だったら、学園のトレーニングルーム使えばいいじゃねぇか。」
「えっ?」
「ランク上位の生徒限定だが、お前なら問題無い。トレッドミルもあるから、わざわざウォーキングに出る必要ないぞ。」
「ほんとですか!?」
「ああ。俺が申請しといてやる。」
「ありがとうございます!」
姫がニカッと笑って俺を見た。やっぱり笑ってる方がいい。
「だから、高槻と仲直りしろ。」
「あ・・・。」
「高槻も過保護すぎるが、そもそも嘘を吐いたお前が悪い。あの写真を見ただろう。気をつけるに越したことはないんだ。」
「はい。」
ちょっとしょんぼりした姫の頭を、しょげた顔も可愛いなと思いながら、くしゃりと撫でた。




