千尋と両手に風紀
◆千尋視点◆
「ふあぁ。」
翌朝、大きくあくびをして、ベッドを出た。
昨夜、高槻先輩の態度がおかしかったな。
エロDVDのことなんだろうけど。やっぱり風紀だから、もしひらパー兄さんに借りてたら、ヤバかったよな。
ギャル系AVかぁ・・・。
俺はちょっとだけ残念に思った。
「高槻先輩。おはようございます。」
「おはよう。千尋。」
先輩は、平常時に戻ってる。良かった。
高槻先輩と朝食を食べてたら、チャイムが鳴った。
俺が出る、と高槻先輩が玄関に向かう。
ーーー誰だ?こんな朝から。
「おはよう。お姫様。」
「ぶっ!!」
俺はコーヒーを吹いてしまった。
「い、委員長!?」
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
「高槻。俺にもコーヒー。」
「はい。」
委員長は当然のように言って、椅子に座る。
「な、何してるんです?」
「ん?一緒に学校行こうと思ってな。」
ーーーなんで?
「千尋。委員長から聞いた。昨夜は平野に会いに行ってたんだってな。」
「えっ!?・・・あ!あんた、しゃべったのか!」
昨夜、高槻先輩は委員長から電話で全部聞いたらしい。
「悪いな。だが、高槻に嘘は良くない。お前を心配してるんだぞ。」
俺は高槻先輩を見た。少し悲しそうな顔をしている。
「・・・ごめんなさい。」
「千尋・・・。」
「でも俺、平野のこと、ほっとけない。」
委員長がコーヒーを一口飲んで言った。
「それは好きにすればいい。その代わり、しばらく一緒に登校するぞ。」
「え?」
「番犬が二匹に増えるんだ。お前に手を出そうって奴がいても、ビビって出せなくなる。」
高槻先輩の顔を見ると、うんうんって頷いてる。
いやいや。あんた、番犬言われてますよ?
「番犬って・・・。」
「高槻がお前に過保護なのには訳がある。一年前、悪質な『制裁』があったんだ。」
「あっ・・・!」
ーーー制裁って・・・レイプのことだ。
「この件は無かったことにされているし、被害にあった生徒も学校を辞めた。加害者であろう生徒は、無事卒業して大学に進学してる。」
「そんなことっ!」
「親が権力者の子供は、それが通用するんだよ。一部、この学園内でなら何をしてもいい立場にある生徒がいるのも事実だ。」
俺はゾッとした。
「まぁ、現場に遭遇すりゃあ、俺も高槻もそんなの気にせず手が出るけどな。」
委員長がハハッと笑った。
+‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥+
「だったら、俺より平野を・・・」
「お前の方が危なっかしいんだ。千尋。」
高槻先輩が俺の言葉を遮った。
委員長が続けて言う。
「平野は大人しくしてるし、ちゃんと監視してるから問題ない。今のところはな。
問題はお前だ。周りを見ずに突っ走る。夜、こそこそと平野に会いに行くわ、俺相手にも噛みつくわ。生徒会長をエレベーターに挟むわ。」
委員長がまた笑った。
「だって、あれは・・・。」
「お前は目立つ。自覚しろ。お前に突っ込みたがってる野郎がわんさかいるぞ。」
「委員長!」
「悪い。高槻。いいか、俺が風紀にいるうちは『制裁』なんて馬鹿な真似はさせない。だから、ちょっとは言うことを聞け。お姫様。」
「・・・姫って言うな。」
ーーーなんか、情けなくなった。
俺は男だし。
山田太郎の時は、背も高かったし、そこそこ筋肉もあった。
男に襲われるなんて、考えたことも無かったのに。
確かに有栖川千尋は綺麗な顔をしている。
体格も華奢だ。でも、だからって・・・
黙り込んだ俺の頭を委員長がくしゃりと撫でた。
「まあ、深く考えるな。両手に華だと思って楽しめ。」
「・・・よく言うよ。」
この日、俺は両手に風紀で登校したのだった。




