千尋と神回避
俺の腫れた目元は思った以上に目立ったみたいで、あれやこれや聞かれて最終的にはクラスの連中にプロレス映画を熱く語って終わった。
そしてランチタイム。
はい。一番、楽しい時間です。
今日は美味しいパン屋のケータリングが来ていたので、天気もいいしパン買って中庭で食べる事にした。
時々、来るんだって。ケータリング。
珍しいところで、トルコのケバブ屋が来てたこともあったらしい。
今日のは無添加パン屋さん。
俺は、ほうれん草とチーズのマフィンと白身魚フライの玄米パンのサンドイッチ。
美村はトマトとチーズのパニーニとロコモコベーグルサンド。
園田はアボカドと海老のサンドイッチとバナナマフィン。
どれも美味そうだ。
ちょうどいい木陰のベンチに3人座って、昼食にする。
ーーーあ。
「なぁ、園田。」
「うん?」
「平野って知ってる?」
園田が固まった。
「?」
「なんで平野くんのこと知ってるの?」
「ああ。昨日、バスで一緒だったんだよ。」
園田のリアクションで確信した。
「・・・やっぱ、いじめられてんのか?」
園田と美村が顔を見合わせる。
「いじめとは、ちょっと違うんだけど・・・。」
「園ちゃん、もういいんじゃない?アリスちゃんて生徒会メンバーをことごとく神回避してるじゃない~。
園ちゃんの期待するような、萌え展開にはならないよぉ。」
ーーーまた、よく分からん会話になった。
「だね。有栖川くんて、まだ一回も生徒会のメンバー見たことないでしょ。」
「ない。」
園田が言うには、俺がトイレに行ってるときとか、先生に呼び出されてるときとか、何度かニアミスで生徒会の連中が現れるのと入れ違ってるらしい。
美村は、面白いくらいの神回避って笑ってる。
別に生徒会の連中なんて、見なくてよくね?
だいたい、山田時代の高校生活でも生徒会長なんて、何やってるかもよく知らなかったし。
「うちの生徒会は特別だよ。人気ランキング上位の面々だからね。」
この学園にはランキングなんてものがあるらしい。
「生徒会長の西大路さまは抱かれたいランキング1位なんだよ。」
「それは、他校の女子高生が抱かれたいって言ってるんだよな。」
「違うよ。望応学園でだよ。」
「・・・んっ?・・・はぅあ!そうだった!ホモ多いんだった!」
「アリスちゃん・・・。」
俺がうげぇって顔したら、美村が呆れた目で見てきた。
ーーーはっ。そういや、コイツもホモか!
「いや。美村、俺、お前に偏見は無いから!」
「俺もホモじゃないよぉ。」
「えっ?」
「ん~。どっちかってゆうと、バイ?」
美村がへらっと笑った。
「俺、本気で惚れてくるような子には手ぇ出さないしね。お互い、割り切った関係だけよぉ。ドライなの。」
「お、おお?」
チャラ男の美学ってやつかしら。
いいんだか、悪いんだか・・・。
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園田の話をまとめると・・・
この学園には、男子ばっかりのくせして
抱きたいランキングと抱かれたいランキングなんてのがあるらしい。
・・・恐ろしい。
生徒会の連中っていうのは、そのランキングの上位で生徒から絶大な人気があり、親衛隊なんてのがあるらしい。
ちなみに美村にも親衛隊はいるって。
こいつもチャライけどイケメンだしな。
ただ、生徒会連中は規模が全然違うそうだ。
「園田、それなんて少女漫画?」
思わず聞いてしまった。
「いやいや。漫画じゃないって。リアル、リアル。」
ーーー怖いわぁ。分からんわぁ。
親衛隊って、ジャ○ーズとかA○Bみたいな感じか?
俺、あんまりアイドルにハマったことないから、イマイチ分からないんだよね。
「でね。有栖川くんが来る一か月前に入って来た生徒が、アンチ王道なんだよ。」
「アンチ?」
「でも、なんだか非王道の王道パターンからもズレてる感じなんだよね。声もデカくないし。そもそも僕は非王道はあんまり好みじゃないんだけど・・・。」
「?」
園田がぶつぶつ言っているが、ほとんど意味が分からなかった。
「園ちゃん。園ちゃん。」
「あ!ごめんね。」
美村に呼ばれて、園田がハッとして俺を見た。
美村に「園ちゃんはノンケだけど、ホモネタが好きな腐男子」と説明は受けたけど、やっぱり意味不明だ。
「まぁ、簡単に説明すると、そいつが生徒会の面々に気に入られて、一般の生徒は入れないはずの生徒会室に入り浸ったりして、親衛隊に目を付けられてるのね。
しかも、ボサボサ頭に黒縁メガネの外見はダサい奴だから、生徒会のメンバーと一緒にいるのが相応しくないって、気に入らないのが親衛隊なの。」
「はぁ。」
「で、そいつと同室が平野くんね。
平野くんはそいつに付き合わされて、生徒会室やメンバーの自室に一緒にいくようになって、親衛隊に目を付けられちゃったの。
生徒会のメンバーに溺愛されてるそいつに制裁はできないから、平野くんが攻撃対象になっちゃって、みんな関わらないようになって、平野くんは孤立してるんだよ。
これが、アンチ王道なんだよ。分かる?」
ーーー半分くらいは意味不明だが・・・
「それって、平野いっこも悪くないんじゃね?」
「うん。巻き込まれちゃった平凡くんだね。」
「はぁ?なにそれ。それに制裁ってなんだよ?」
美村が口を挟んできた。
「親衛隊ってのは、本人の許可をもらって結成してるんだけどねぇ。ちゃんと定期的にお茶会したりとか、コミュニケーションとってるわけよぉ。」
俺もお茶会してるよぉ、と美村。
「生徒会の親衛隊だと、人気者の護衛的なことしたり、フォローしたりだとか、よろしくない生徒がいれば、制裁ってゆって、ちょーっと過激な注意をしたりもするのよ。
・・・まぁ、他にもいろ~んなことをして、生徒会の人たちに一生懸命に尽くしてる子たちなわけよぉ。
それを邪険に扱いだして、かなり鬱憤が溜まってるみたい。」
「しかも生徒会の仕事をさぼっちゃったりしてるしね。」
「半分くらい意味分からんけど・・・結局、そいつと生徒会の連中がお花畑状態で、親衛隊ってゆう奴らがイライラしてるってことだろ。
よくアイドルの熱愛発覚で、発狂してるアイドルヲタと一緒だろ?
でも、生徒会連中が好きだし、そのお気に入りにも手を出せないから、平野をいじめてるってことか?」
「まぁ、そうゆうことだねぇ。」
「平野くんがそいつをダシにして、生徒会の皆様に近付こうとしてるって噂もあるしね。」
俺はバスの中で辛そうにしていた平野の顔を思い出す。
「はぁ!?んな訳あるか!平野、ただのとばっちりじゃんか!」
俺は立ち上がった。
「有栖川くん、どこ行くの?」
「平野んとこ。あいつ何クラス?」
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美村が俺の手を掴んだ。
「ダメだよ。アリスちゃん。」
「だって、おかしいじゃんか。親衛隊だの制裁だの言ってるけど、結局はただの八つ当たりの弱いものいじめだろ。」
園田も俺を引き止めた。
「この学校は特殊なんだよ。生徒だけじゃなくて、その親の影響力もあるの。」
俺は眉をひそめた。
「平野くんは中流家庭で顔も頭も平凡くん。生徒会メンバーや親衛隊は美形揃いで雲の上のお金持ちだよぉ。絶対的な権力があるわけよ。平野くんには何も無い。」
「・・・美村、お前。ひどいこと言うんだな。」
「アリスちゃんも雲の上のお金持ちでしょぉ。その上、美形で1-Bの眠り姫って呼ばれて、有名人なんだよ。アリスちゃんが思ってる以上にね。そのアリスちゃんが下手に平野くんに関わったら、余計に平野くんの立場は悪くなるよ。分かる?」
美村が珍しく真顔になった。
この学園には、この学園のルールがあるみたいだ。俺と違って、こいつらはエスカレーター式に中等部から上がってきてる。
それが俺には分からないし、知らない。
「俺も園田も、これがいい状況だなんて思ってないよ?それは分かってね。でも、現状では下手に関わらない方がいいこともあるんだよ。」
「・・・ごめん。美村。」
俺はまたベンチに座った。
「いいよぉ。アリスちゃんのそ~ゆうとこ、俺、好きよ。」
園田の目が輝いたが、無視をする。
「でも。知り合ったからには、ほっとくなんてできないよ。」
「あ。今、そいつ外泊してて、この学園にいないんだよ。」
園田が思い出したように言った。
親衛隊の中に、友達がいるらしい。園田の友達は制裁に反対派の生徒だって。
「なんか、特別みたいでね。前もあったけど、連日外泊して授業に出てこないんだ。それで、副会長とかすねちゃって部屋に籠ってるらしいよ。」
「なんだそれ。ガキかよ。」
ーーーいや。ガキか。こんなしょうもないことしてるんだもんな。
「今なら、こっそり平野くんと話せるかもよ。」
「園田。ナイス!」
「でも、夜にこっそりね。有栖川くん目立つんだから、気を付けてよね。正直、生徒会関係に関わるのは怖いから、表立っては動けないけど、僕らもフォローするし。」
「ありがとう。でも大丈夫。」
何もしないなんて、嫌だし、無理だわ。
ふと、自分が一度死んだときのことを思い出した。
OLさんに、女子大生に、中学生だっけ?
結果的に彼らに関わったことで、山田太郎は死んだ。
もし、あの日まっすぐ帰っていたら
彼らに関わらなかったら、山田太郎は生きていたのかもしれない。
でも、1ミリも後悔はしていない。
見てみないフリをする方が後悔する。
俺は平野にメールをした。
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◆美村視点◆
アリスちゃんは変わってる。
もともとクラスも一緒で、同学年の俺と同室になる予定だった。
けど、アリスちゃんの父親の希望で変更になったんだ。
1人の方が気楽でいいけどーーー少しばかりムカついた。
確かに俺はチャラいキャラだし、セフレも複数いる。
でも、本気で惚れてくるような相手には手は出さない。お互い割り切りだ。
閉ざされた世界での息抜きみたいなもんだ。
・・・どうせ卒業すれば、お家の為に自由を手放さなくちゃいけない。
俺は、俺を縛り付けるものが嫌い。
外見や家柄やお金、そんなものにつられて、計算高くて人を利用するような人種が寄ってくる。
だから髪を染めてカラコンをして、ピアスをつけて、制服を着崩す。
チャラい奴には、ゆるい子だけが寄ってくるように。バカな子は好きだ。
嘘が下手で、頭が悪くて、可愛いと思う。
園田は中等部から友達で、こいつは妄想が生き甲斐なので一緒にいて無害だ。
他人をどうこうしようなんて思わない、妄想だけで飯が食えるタイプ。
なんだかんだで腐れ縁だった。
アリスちゃんのことは最初、箱入り息子だと思ってたから、からかってやろうと声をかけた。
「俺、全然普通だし。」
アリスちゃんがそう言ったとき・・・
ーーー出た出た。いい子ちゃんぶるタイプね。
猫かぶりかぁ。ヤダヤダ。いつ化けの皮、はがれるかなぁ。
俺は意地悪い気持ちで聞いていた。
だけど、蓋を開ければ・・・本当に普通だった。
アリスちゃんは裏表が無い。
あれだけキレイな顔をして、雲の上のお金持ちの御子息さまだというのに。
昨日なんて、バスで出かけてたし。これには驚いた。有栖川家クラスの御子息がバスに乗って、安い洋食屋で飯食って、ファストファッションの服を買ってくるなんて。
で、プロレス映画で泣いてるし。
・・・アリスちゃんは変わってる。
素直に謝るし、素直に「ありがとう」と言う。
ゲラゲラ笑うし、ポケットに30円のチョコを忍ばせていたりする。
ーーーそして、まっすぐに人を見る。
俺は初対面の時の、意地悪い気持ちを恥じた。
平野と関わるのは、正直賛成しない。
それでも、一度会っただけの子を本気で心配してるアリスちゃんに心を動かされた。
アリスちゃんの思うようにしたらいいと思う。
この子は自由だ。
外見や家柄に全く縛られていない。この学園の暗黙のルールにも。
俺みたいに見せかけだけの自由人とは違うから。
少し、羨ましいと感じる。
とりあえず平野の話は一段落して、昼食を再開したアリスちゃんの横顔を、俺はじっと見ていた。
そんな俺の視線に気付いて、園田が目を輝かせていたが、無視をした。




