涙痕と翻弄される男たち
ーーー翌朝。
昨夜は映画を見て号泣してしまったので、今朝は少し目が腫れぼったい。
冷やしとけばよかったかなぁ。
顔を洗ってリビングに行った。
3個めの目覚まし時計で起きてきた高槻先輩に挨拶をする。
昨日は泣いてるとこ見られちゃったから気まずいなぁ。
「おはようございます。」
「おはよう。千尋。あの映画見たけど、俺もちょっと泣いた。」
「えっ。」
「いい映画だったよ。」
高槻先輩は、ちょっと照れ笑いで言った。
「ですよね。ですよね!」
嬉しい。自分が感動した映画で、同じように感動したって聞くとテンション上がるわ~。
「少し、目が腫れてるな。」
高槻先輩が指先でそっと俺の目元を撫でた。
「あ~。分かります?嫌だなぁ。なんか言われるかな。」
「今からでも少し冷やしておけよ。」
高槻先輩が冷凍庫から保冷剤を出して、タオルで包んでくれた。
「ありがとうございます。」
それから俺と高槻先輩は、ダイニングで朝食を食べながら、映画の話で盛り上がった。
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ちょっと冷やした程度ではやっぱり付け焼刃で、俺の目元は少し腫れぼったいままだ。
しょうがないかぁ。
制服に着替えて、高槻先輩とエレベーターに乗る。
一階に着いたときに、高槻先輩が忘れ物に気付いた。
「悪い。千尋。エントランスで待っていてくれ。」
「はぁい。」
忘れ物を取りに帰った高槻先輩を待っていたら、ひらパー兄さんが出てきた。
「枚方さん。おはようございます。」
「ざいます。」
いつものゆるい挨拶で、ひらパー兄さんが近寄ってきて・・・
「!?・・有栖川、なんかあったのか?」
「えっ?」
ひらパー兄さんが珍しく真剣な顔で俺の頬を両手で包んで顔を上げさせた。
「泣いた?」
親指で目元に触れた。
「ああ。昨夜、映画見て、泣いちゃって。」
うわぁ。恥ずかしい。そんなに目立つかな。
俺は照れ笑いの苦笑いだ。
「なんだ。映画か~。高槻に何かされたのかと思っちゃったよ。」
「?」
ひらパー兄さんは、ホッとした顔をした。
「なんの映画見たの?」
「プロレス映画です。」
「えっ?」
ひらパー兄さんは、俺の頬を包んだままだ。そろそろ離してくれないかな。
「あの。手を・・・うわっ!!」
言いかけて、物凄い勢いで後ろに引かれた。
「・・・何してるんだ?」
高槻先輩は俺とひらパー兄さんの間に立って、低い声で言った。
ーーーこ、こ、怖ぇえ!
「有栖川が泣いたみたいだったから、心配してたんだよ。高槻になんかされたんじゃね~かって。」
「あんたじゃあるまいし、俺が千尋を泣かせるわけないだろう。」
「そおかな?」
ーーー何この空気!?
「行くぞ。千尋。」
俺は高槻先輩に引きずられるようにして寮を出た。
「千尋。枚方には気をつけろと言っただろう。だいたいお前は無防備すぎると・・・」
学校までの道中、高槻仏陀のお説教タイムは続いたのだった。チーン。
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校舎に入り、高槻先輩と別れた。
廊下を歩いてたら、向こうからホスト教師が歩いてきた。
「要先生、おはようございます。」
「よぉ、有栖川・・・!?」
ホスト教師は俺を見て、顔を顰めた。
「ちょっと来い。」
「えっ?」
腕を掴まれ、誰もいない理科準備室に引きずり込まれた。
「わっ!なに?」
俺は壁に押し付けられるようにして、立たされた。
ホスト教師は俺の顔を挟むように、両腕を壁に付いた。
ーーー何コレ。壁ドンてやつ?
「・・・誰に泣かされた?」
近い。近い。顔、近い。
ホスト教師は、鼻先が触れ合うくらいに顔を寄せて聞いてきた。
てゆうか、またかよ。そんなに目立つ?
「昨夜、映画見て泣いただけですってば。」
ホスト教師は、ホッとしたように息を吐いた。
「映画見て泣くなんて、可愛いなぁ。」
ニヤリと笑った。相変わらず顔が近い。
「うるさいです。あ!先生、カラコンやめた?」
「あ、ああ。」
あの悪趣味なカラコンじゃなくて、黒い自然な瞳だ。そして、相変わらずイケメンだ。
「その方が絶対いいですよ!」
俺が笑って褒めると
「有栖川・・・。」
ホスト教師は更に顔を近付けてきた。
ーーーうげっ!
俺は思わず顔を背ける。
すると、ちゅっと目元に唇を当てられて、ビクッとした。
「ちょっと!先生っ!?」
「初心な反応だな・・・まだ、誰にも手ぇつけられちゃいねぇな。」
そのまま、ベロッと舐められた。
「わぁっ!?」
俺は壁伝いにしゃがみ込んで、這うようにしてホスト教師の腕の中から逃げた。
「この変態教師!」
急いで理科準備室から逃げる。
笑いながら、要先生が聞いてきた。
「待てよ。有栖川。何の映画で泣いたんだ?」
「プロレス映画だ!バカヤロー!!」
「えっ?」
俺は全力疾走で変態教師から逃げた。
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俺は一目散に走って逃げて、前方不注意でドンっと誰かにぶつかった。
「うわっ!」
「おっと。」
そいつに支えられて、転ぶのは免れた。
「アリスちゃん?」
美村だった。
「よく俺にぶつかるよねぇ。」
「美村か。悪い。」
「いいよぉ・・・!?」
いつもヘラヘラしてる美村が真顔になった。
「ちょっと、おいで。」
「えっ?」
腕をぐいっと引かれて、男子トイレの奥の個室に連れ込まれた。
もう予鈴が鳴る時間だったので、トイレには誰もいなかった。
美村が俺の顎に指をかけ、クイっと顔を上げさせた。
「誰?何されたの?」
ーーーお前もか!
俺はいい加減イラついてたので、美村の手をバシっと振り払った。
「なんでもない!関係ないだろ。」
美村が俺の肩を掴んで、壁に縫い止めた。
「わっ!なんなんだよ?」
見上げれば、いつになく真剣な表情の美村がいて
「関係なくないでしょ。そんな顔して。何があったの?・・・心配なんだよ。アリスちゃん、無防備だから。」
ーーーあれ。こいつ、ほんとに俺を心配してるんだ。
「・・・ごめん。でも、なんかされたとかじゃないから。」
「ほんとに?」
美村がじっと俺の目を見つめる。
「ほんと。昨日、映画見て泣いただけだよ。」
「映画ぁ?」
美村が、はぁ~っとため息を吐いた。
俺の肩を引き寄せ、ぎゅっと抱きしめて、「よかったぁ。」と言った。
俺って、そんなに危なっかしいかなぁ。ヘコむわ。
俺は美村の背中をポンポンと叩いた。
「何の映画見て泣いたの?」
「プロレス映画。」
「えっ?」
「それより、遅刻しちまう。急ぐぞ。美村!」
俺と美村は走って教室を目指した。
一緒に教室に入った美村と俺の腫れた目元を見て、園田が妙に目を輝かせていたが、HRが始まったので無視をした。
ーーー後日、あのプロレス映画が望応学園内で密かなブームになったのだった。




