千尋とプロレスラー
◆千尋視点◆
バス停まで見送ってくれた小林と別れてバスに乗り、望応学園に戻った。
帰りのバスは1人だった。
ーーー平野。大丈夫かな?
行きのバスで一緒だった平野を思い出す。また明日にでもメールしてみよう。
俺はショップバッグを抱えて部屋に戻った。
玄関に脱いだ靴があるから高槻先輩はいるみたい。
「ただいまで~す。」
・・・シーン。
寝てんのかな?
高槻先輩は一度寝たら中々起きない。
いつも目覚まし時計は3つセットしている。
部屋にいるだけなら、必ず顔を出して「おかえり」と言う。
多分、自室でガン寝を決め込んでいるんだろう。
きっちりしてるようで、意外なんだよなぁ。
俺はショップバッグを部屋に置いてリビングに出た。
昼のトルコライスがパンチが効いていて、腹は減ってない。
というか、晩飯いらないくらいだ。
「さて。」
なので、俺は小林に借りた映画のDVDをリビングのでかいテレビで観ることにした。
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◆高槻視点◆
「・・・うー。」
晩飯前にちょっと寝ようと思って、本気で寝てしまったみたいだ。
時計を見ると、夜の8時だった。
横になったのが4時頃だったから、4時間寝たことになる。
ーーー寝すぎだ。
俺は一度寝たら、中々起きれない。
昔っからだ。この寝汚い癖だけは治らない。
のっそり起き上がって、ベッドを下りる。リビングから微かに物音がした。
千尋が帰ってきているのだろう。
俺は大きく伸びをして、コキリと肩を鳴らした。
自室からリビングに出る。
千尋はリビングでテレビを見ているようだ。
画面には映画のエンドロールが流れている。
「おかえり。千尋。」
「・・・。」
返事が無い。
「千尋?」
ソファに近付いて、千尋の顔を見た。
「!?」
千尋は涙を流して、泣いていた。
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◆千尋視点◆
小林から借りてきた映画は、往年のスター選手がボロボロになりながら、再起をかけてリングに立つとかいうプロレス映画だ。
俺は見たことなかったんだけど、プロレス好きとか関係なく名作らしい。
俺はワクワクしながら、DVDをセットした。
映画が終わって、エンドロールが流れている。
「・・・うっ。」
俺はもう、ボッロボロに泣いてしまっていた。
・・・不器用でいて、一途な男の生き様だ。
レスラーとして観客に魅せる為に、ケガやステロイドで肉体も心臓もボロボロ。
それでも、リングに立つ。最後まで。胸が熱い。
エンディングの曲も良いし。もう、なんだよ。もう。
俺はもう、たまらなくなって、おうおう泣きじゃくっていた。
「千尋?」
ふいに呼ばれてそっちを向いたら、高槻先輩がギョッとした顔をして立っていた。
「どうした!?千尋!」
慌てて高槻先輩が俺の隣に座る。
いかん。マジ泣きしすぎて見苦しい。
「あ、映画見てて・・うっ・・おれ、すみません。ひっく・・・男なのに、恥ずかしい。」
男のクセに涙腺弱いんだよ。
昔、彼女と映画見に行って、マジ泣きしてドン引きされたことあるんだよね。
俺は焦って、手の甲でゴシゴシと目をこすって涙を拭う。
「千尋。千尋。」
高槻先輩が俺の両手首を掴んで、それを止めた。
「いいから。」
高槻先輩は、ぐいっと俺の肩を抱き寄せた。
俺は高槻先輩の胸に顔を埋めた状態になった。
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◆高槻視点◆
千尋は映画を見て泣いていたらしい。
「すみません・・・ひっく・・男なのに、恥ずかしい。うっ・・。」
必死に涙を堪えようとして、手の甲で目を擦る千尋の手首を掴んで止めさせた。
そんなに擦ったら、赤くなってしまう。
「千尋、千尋。」
千尋が顔をあげて、泣き濡れた瞳で俺を見た。
黒曜石のような瞳が、濡れて、潤んで、綺麗だった。
唇を噛みしめ、少し眉尻を下げて、切なそうな表情をしている。
「いいから。」
俺はたまらなくなって、千尋の肩を抱き寄せて胸に抱いた。
「別に恥ずかしいことじゃない。映画を見て、感動しただけだろう。」
「・・うっ・・はい。」
千尋はまだ少し泣いていた。
微かに震える体に、胸が締め付けられるような感覚に陥る。
映画を見てこんなに泣くなんて。なんというか、素直で純真なんだな。
片手で千尋の頭を抱き、もう一方で背を抱き寄せた。
華奢な身体は、すっぽりと腕の中に収まってしまう。
こうして千尋を抱き締めているのは、何故だかひどく心地良かった。
「・・・あの。先輩、もう大丈夫です。」
「・・・ああ。」
ーーーもう少し、こうしていたい・・・。
俺は名残惜しい気持ちを押し殺して、腕の力を緩めた。
千尋はまだ潤んだ瞳で照れ笑いで俺を見た。
不覚にもドキリとしてしまう。
「なんの映画を見てたんだ?」
ごまかすように聞いた。
「プロレス映画です。」
「えっ?」
悲恋ものでも見て泣いていたのかと思ったら、プロレス映画で号泣してたのか・・・。
ーーーい、意外だ。
千尋があんまり熱く語るものだから、夕寝しすぎた俺は夜中にそのDVDを見た。
・・・不覚にも、俺も少し泣いてしまったのだった。




