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呪いと勇者と私たち  作者: ヨクイ コトハ
一章:異世界と呪いと私たち

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4/5

3話:メイドと説明

 その後、私はフライヤさんから説明を受けていた。この世界のこと、今いる国のこと、世界の歴史とかそんなことを。


 シンプルにまとめると、この世界は人と魔が争い続けている世界で、昔から戦争が勃発しているとか。幾度となく魔の侵攻を受けている、常に平穏を脅かされている世界だとか。


 今いるこの国はシーズ王国と言って、人間領で一番勢力のある王国らしい。たしかに窓から見えた景色は、王国と判別するのにふさわしい。魔を退けつつも、繁栄を極めてきたのだろう。そして今私は、王城に居るらしい。


 聞けば聞くほどに、ファンタジーな話だと思ってしまう。いや実際ファンタジーの世界観なわけで、もちろん話としても理解はできるけれど。ただそれがリアルなのだと、その世界に私はいるのだと、感覚が受け入れられなかった。


 明らかに異常な事態なのに、その異常だけが実感として、現実味のある輪郭として肌に染み込んでいく。


 フライヤさんは話を続けている。彼女の話を理解しているつもりではあるが、やはり受け入れるのと頭で理解するのは別問題だった。


 それに——。


「勝手に呼んどいて、さあ国のために戦ってくださいはなんか……いやですね」

「心中お察しします」


 素直に口から零れた、嫌っていう言葉。


 どうやら私は、異世界から救世主として召喚された存在らしい。傷がないのも、異世界の言葉がわかるのも召喚の影響だとか。


 これをありていに言ってしまえば、勇者というやつなのかもしれない。個人を助け、国を救う英雄。一般人でしかない私の感性からすると、なんで——? としか思えないのだが。私に竜を斬るような力はないし、空を飛ぶような能力もない。呼べれば誰でもいいのだろうか。というか呼ぶ世界を間違っているんじゃなかろうか。


 宮廷魔術師やら教会の祈祷師やらが全霊をもって召喚した二人だとか説明されたが、それで呼ばれた片割れは日本に生きるごくごく一般的な高校生なんだけれど。他人事のように、大丈夫なのかこの世界、なんて思ってしまう。


 そもそも異世界から呼び寄せておいて、思い入れも何もない世界で人類の存亡を背負わされるのは、なんというか荷が重い。


 いや、重いというより、おかしいだろう。実感が湧いてないから当然他人事なんだけれど、だからこそ冷静にこの状況の歪さに目が向いてしまう。


 戦いを知らない世界にいた、いっぱしの未成年に、さあ戦ってくださいはどう聞いても受け入れられる話ではなかった。


 とは言え、そんな思いをフライヤさんに語っても、どうなる気配もしない。むしろ何がとはわからないけれど、なんだかそれを言ってしまうと嫌な方向に運ぶ予感がして。


 だから最初の発言以降は、フライヤさんの説明を聞き取ることに徹底する。


「——ですので後ほど、国王との謁見が設けられるはずです。長くは掛からないでしょうが、しかし一度召喚された者のなりを判断するためにと」


 ある程度の状況説明がなされたあと、今後の予定について語られる。国王だとか謁見だとか、本当に御伽の話だ。


「まあ……はい、わかりました」


 ため息をついて、返事をする。もうここまで状況的に徹底されると、むしろなるようになれって思うようになってきた。渋々なのは否めないが、どうせ事故で下手したら死んでいた可能性もある。その点で考えると、一命を取り留めたのは幸運だろう。それなら、第二の人生として勇者になってみるのも選択なのかもしれない。なんか旅半ばで死にそうだけど。


 能天気かもしれないが、そう考えでもしないとやってられなかったのかもしれない。それくらい、事態が常識の外側にあった。


 フライヤさんはずっと能面のように無表情のままだ。私を見ていたその瞳が、一瞬揺らいだように見えたのは気のせいだろうか。


 「また謁見の際にお呼びいたします。それまでこちらで待機を——」

 「七瀬ーー!! あ、起きてる」

 「ダイラ様、まってください~~……!」


 フライヤさんの声に重なるように、聞きなじんだ声が外から響いてきた。ノブに手をかけたままフライヤさんが少し硬直する。すぐに状況を察したようで、彼女は部屋の扉を開けた。開いた扉から、ひょこっと飛び出す栗色の髪の毛と双眸。それともう一人、メイド姿のこじんまりとした金髪の女性。


「あー……なるほどね」


 私の心に納得と安堵が芽生える。先ほどフライヤさんは、召喚で呼び出されたのは二人だと言っていた。つまりはそういうことだったのだ。


 私の名前を呼ぶ声の主は、幼馴染で、一緒にバスに揺られていた大良だった。


 私と同じ白いワンピース姿の大良は、こっちにてててとかけより、そのまま抱き着いてきた。その瞳は少しだけうるんでいる。


「七瀬が無事でよかった~……心配したんだから」

「大良もね。でも無事は無事だけど……まあ」

「まあ? あ~まあとんでもないことになっちゃったけど」


 私の歯切れの悪さの理由をすぐに察して、流すように笑う。彼女も彼女で思うところはあるはずだが、でもなにより、お互い無事なことに安心しているのだろう。


「でもさでもさ! 異世界だって! ちょっとわくわくしちゃうよ!」

「呑気すぎだってば」


 はしゃぐ大良の奔放さに少し苦笑いしてしまう。ただいつも通りのテンションで私も安心した。メイド二人のほうに視線を向けると、フライヤさんは変わらぬ無表情で、金髪の人は少しいたたまれなさそうな、でもにやにやとした表情をしてこちらを見ていた。


 大良とまだ抱き合っている状態だった。親密なスキンシップの様子を傍目に見られていることに気がついて、恥ずかしくなってくる。別にやめるつもりはないけれど。


「フライヤさん。私たち、おじゃまですよね……?」

「……そうですね。こちらでお二人には待機してもらいましょうか。ナナセ様、ダイラ様。またお呼びしますので、わたくしどもは一度失礼いたします」

「はーい! またお願いします」


 向こうから配慮してくれて助かった。その配慮のせいで余計に恥ずかしい気持ちになるけど、ともかく大良と二人きりになって落ち着ける。


 異世界なんてこんな状況でも、大良と二人なら——。


 目覚めた時よりだいぶ安心して気持ちが落ち着いた。幼馴染と一緒なら、こんな世界でも生きていけるかもしれない。根拠はないし、戦える気はしないけど。


 でも心の支えというのはなによりも大事なものだった。

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