10.グリフォンの世界へ
【希龍家の玄関】
雷の洞窟から戻った拓弥たちの足取りは、少しだけ軽かった。
雷の剣が手に収まったことで、彼の中に確かな決意と覚悟が芽生えていた。
希龍邸が見えてくる。
石畳の庭先で、兄貴たちが何やら騒がしい声を上げていた。
???「ここに光雷が居るんだろ、さっさと連れて来いよ!」
どこか荒っぽい声が響く。
翔「待て! だからお前は誰なんだ!」
翔の苛立ち混じりの声が続く。
???「うるせー! 光雷は俺を見れば分かるだよ。お前らじゃ話になんねーんだよ!」
魔佐「話にならないのはこっちだよ。ここには居ないって言ってるだろ!」
魔佐が腕を組み、苛立たしげに睨む。
???「いや、居る。わかってる……! 光雷! 俺だよ!!」
その瞬間、後ろから拓弥が声を掛けた
拓弥「キール……?」
拓弥の声が震える。
キール「ん? こうらい……か?」
キールの口元がわずかに歪む。
キール「やっと会えたぜ! 久しぶりだな。やっぱり俺が分かるだよな……!」
翔と魔佐は顔を見合わせ、戸惑いを隠せない。
翔「とりあえず……中で話そう」
翔が深くため息を吐き、扉を開いた。
玄関をくぐると、外のざわめきが嘘のように静まる。
薄暗い廊下に、懐かしさと緊張が混ざった空気が漂う。
キールは鋭い目で拓弥を見つめた。
その視線には、言葉にできない強い想いが詰まっている。
キール「お前が……生きててよかった。ずっと……探してたんだ、光雷」
拓弥の胸の奥で、何か古い記憶が微かに脈打つ。
今ここに立つ友――
新たな運命の糸が、確かに再び結び始めていた。
希龍邸の広々としたリビングには、あたたかな木の香りが満ちていた。
拓弥たちはテーブルを囲み、わずかに張りつめた空気の中、視線を交わしていた。
キールは肘をテーブルに置き、にやりと笑った。
キール「聞いたぞ。ナイトメアを倒したんだろ? あいつの厄介な幻術を克服するとはな。」
拓弥「どうしてここがわかったんだ?」
拓弥が問い返す。
キール「ナイトメアに仕えてた小悪魔に聞いたんだよ。この世界のこの町で“炎の拳で殴られた”ってな。……今は炎の技でも使うのか?」
拓弥「いや、それは――」
光「すいません!それは僕です。」
光が小さく手を挙げる。
キールは一瞬、驚いたように目を丸くし、すぐに声を上げて笑った。
キール「ほぉ、面白いな。新しい友達か! でもな少年、相棒は俺一人だからな!」
「はいっ……!」
光は思わず背筋を伸ばした。
キール「で、そこのねーちゃんは今の恋人か?」
キールが麻里奈を覗き込む。
麻里奈「えっ!?」
麻里奈の頬が一気に赤くなる。
拓弥「いや……みんな仲間だ。」
拓弥が慌てて手を振った。
拓弥「すまん、キール。実は……前世の記憶がほとんどなくて……。キールの名前は思い出せたけど、それ以外は全然わかっていない。」
キールの顔から、ふっと笑みが消える。
だが、すぐに柔らかな笑みに変わった。
キール「……そっか。そうだよな。急に全部思い出せるわけないさ。でも、少しずつでいい。俺が思い出させてやるよ。」
キールは立ち上がり、拳を握りしめた。
キール「じゃ、みんなに会いに行くか!」
拓弥「え……みんな?」
拓弥の声が震える。
キール「ああ、みんなだよ。ジールとリーナ――会いに行こうぜ!」
その瞬間――
翔「伏せろ!」
翔の鋭い声がリビングを切り裂いた。
直後、窓を突き破るように鋭い斬撃が走る。
???「覇魔斬――!」
轟音とともに、希龍邸の壁が粉々に砕け飛ぶ。
木片と土煙が舞い上がり、リビングは一瞬にして戦場と化した。
キールの瞳が獣のように光る。
キール「チッ、まったく……! 話が早い奴が来やがったな――!」
黒竜の転生譚 — 庭の激突
カオス「私はヴァンパイア直属の部下……『カオス』。全員、ここで死んでもらう。」
カオスの声は低く、冷たい刃のようだった。
目の奥に宿る赤い光が、狂気と絶望を滲ませる。
カオス「覇魔斬!」
鋭い叫びとともに、一閃――
ガァン!
金属がぶつかる高音が響いた。
翔が、手術用のメスでカオスの大剣を受け止めていた。
翔「……これ以上、この家で暴れるのはやめてもらおうか。」
翔の声には怒気と冷静さが同居していた。
カオス「こいつ……!? 私の剣技をメスで……」
カオスが目を見開く。
そのとき、拓弥が椅子を蹴って立ち上がった。
拓弥「やめてくれ、兄貴。……俺の客人だ。俺がやる。」
翔は一瞬だけ拓弥を見つめ、息を吐いた。
翔「……わかった。外でやれ。」
拓弥がカオスを睨む。
拓弥「カオス、外でやるぞ。」
カオスは薄笑いを浮かべ、巨大な剣を肩に担いだ。
カオス「いいだろう。全員まとめて葬ってやる。」
壊れた壁から、庭に出る一同。
冷たい風が、全員の頬を切った。
庭は、まるで決闘場のように静かだ。
カオス「改めていくぞ……覇魔斬!」
カオスが地を蹴る。
太陽を裂くように放たれる巨大な斬撃。
拓弥「麻里奈、光、雪!援護を頼む!」
拓弥が雷の剣を握り、刀身に電撃が奔る。
雪「任せろ!アイスシールド!」
巨大な氷の盾でなんとか攻撃を防いだ。
麻里奈「アースフィスト!」
麻里奈の土の拳が地面を突き破り、カオスの足元を狙う。
しかし、カオスは大剣を一閃し、土の拳を吹き飛ばした。
カオス「浅い……!そんな攻撃、私には届かん!」
カオスが再び振りかぶる。
拓弥「雷閃――ッ!」
拓弥の剣が雷を纏い、斬撃とぶつかる。
バチバチと火花が散り、周囲の空気が焦げた匂いを放つ。
雪「アイシクル」
雪が放ったツララが、カオスの肩をかすめる。
カオス「やるな……」
光「紅炎」
紅の炎がカオスに襲いかかる
カオス「甘い……覇魔斬!」
カオスの剣が再び拓弥に迫る――
ガァン
拓弥は雷の剣で受け止めた!
拓弥「グランドサンダー」
拓弥の左手から閃光が爆ぜた。
カオス「な……っ!?」
カオスの鎧が砕けた!
カオス「ぐっ……!貴様……!」
カオスは剣を支えに、よろめきながらも立ち上がる。
カオス「……だが、これで終わりと思うな……!」
カオスの赤い瞳が、さらに妖しく輝いた。
雪「こいつ……まだ動けるのか!」
雪が後退しながら、構え直す。
拓弥「みんな今だ、攻めるぞ!」
拓弥が再び雷の剣を構える。
「了解!アーススパイク!」
麻里奈が大地に拳を叩きつけると、巨大な石の槍がカオスを狙って突き上がる。
「炎連撃!!」
光の拳が炎とまとわりつき、さらに威力を増す。
「覇魔……斬――っ!!」
カオスは最後の力を振り絞り、剣を振り下ろす。
しかし、その瞬間――
雪「アイスランス」
氷の槍を形成しその槍がカオスに襲いかかる。
カオスの剣を弾き飛ばし、胸元を貫いた
カオス「が……あっ……!」
カオスの瞳から光が消え、ゆっくりと膝をつく。
カオス「貴様ら……なぜ……あの方の……理想を……」
カオスの声がかすれ、虚空を見つめたまま崩れ落ちる。
沈黙が庭を包む。
拓弥「ありがとう、みんな……。」
その言葉に、仲間たちは小さく頷いた。
砕けた鎧の残骸と、倒れたカオス。
だが――拓弥の胸の奥には、言葉にできない不安が静かに芽生えていた。
(ヴァンパイア……カオスはあいつの部下……これから、もっと強い敵が来る……。)
それでも、雷の剣を強く握り直す。
雪もまた形成した槍を強よく握った。
そして――
この戦いをずっと見ていたキールを、冷たい目で睨みつける。
その視線には、氷のように冷たい決意と、揺るがない警戒心が宿っていた。
キール「流石だな、光雷!」
キールが笑いながら、砕けた瓦礫を乗り越えて近づいてくる。
拓弥「いや……みんなのおかげだよ。」
拓弥は仲間たちに目を向け、深く息をついた。
真昼の陽射しが、血と土の匂いを柔らかく溶かしていく。
雪は無言で氷の槍を消し、じっとキールを見つめた。
その視線には、わずかに揺れる影があった。
魔佐「みんなお疲れ様。」
魔佐が破壊された家を見渡し、額に手を当てて小さくため息をつく。
魔佐「でも、家が一部壊されちゃったから……ちょっと修繕するよ。」
そう言うと、魔佐は指を鳴らした。
ゴゴゴゴ――
崩れた瓦と木材が音を立てて集まり、形を取り戻していく。
陽射しに反射して、舞い上がる破片が虹のように光った。
拓弥「……助かるよ、魔佐兄〜。」
拓弥が小さく笑う。
麻里奈は安堵したように、その場に座り込み、息を吐いた。
麻里奈「ほんと……無事でよかった……。」
光は拳を開き、まだほのかに残る紅の炎をじっと見つめていた。
キールは陽光を浴びながら、両手を腰に当てて立ち、周りを見渡すと大声で笑った。
キール「これでようやく、ゆっくり話ができるな!」
その声に、雪は一瞬だけ視線を鋭く向ける。
だが、何も言わずに目をそらし、静かに自分の足元を見つめた。
雪「(……この男、なぜ今ここに現れた……?
敵にすぐ居場所を突き止められたのは偶然か……?)」
昼の柔らかな光が照らす中、雪の瞳にだけ、かすかな影が落ちていた。
それはまだ言葉にもならない、曖昧な疑念――
だが、確かに心に芽生え始めた、不協和の種だった。
キール「じゃあ、これからの行動を確認するぞ。
まずはグリフォンの世界に戻り、ジールとリーナを仲間に加える。
次に、グリフォニア王国を抜けて、山超え、積雪地帯を越える。
その先にあるヴァンパイア城へ向かい、あいつを――今度こそ、確実に仕留める。」
拓弥「よし。じゃあグリフォンの世界にもう一度行くためバルゴの洞窟にあるゲートを使うか」
【バルゴ洞窟・奥】
光「……アレ? 何もないですね。前は確かに、ここにあったはずなのに。」
拓弥「……ゲートが閉じちまったんだな。
そういえば――雪。お前と再会したのって、グリフォン世界だったよな?
お前、どうやってあっちに行ったんだ?」
雪「……ブラック竜人界にも、グリフォン世界と繋がるゲートがある。」
拓弥「悪いけど、案内してくれ。」
雪「……わかった。」
(雪、心の中で)
雪(心中)
「(キール……コイツは一体、どうやってこの世界に来たんだ?
このゲートを使ってないのか?
それとも……偶然、閉じた“だけ”ってことなのか?)」
【ブラック竜人界・山中】
雪「ここだ!」
拓弥「この世界にこんな祠あったんだ。」
雪「お前はこの世界のこと、あまりわからないまま家出したからな。
逆に、竜人界(イディアの世界)のゲートを知ってたのが驚きだよ。」
拓弥「……それはノーコメントで。」
光「では、行きましょう。」
麻里奈「また知らない世界に行くなんて……ドキドキするね!」
――一人、また一人と、ゲートを潜っていく仲間たち。
雪「……先にどうぞ。」
キール「……俺か? じゃあ、行くぞ。」
キールが静かにゲートに向かって歩き出す。
雪「…………。」
その背中を、雪はじっと見つめていた。
目は笑っていない。心のどこかが、警鐘を鳴らしていた。
雪(心中)「(……やっぱり、何かおかしい。キール……お前は、どこから来たんだ?)」




