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9.雷の剣

拓弥「光、そろそろ帰るか」

 

光「はい」

 

雪「もう行くのか?」

 

拓弥「ああ、親父には俺の気持ちは話たし」

 

雪「またグリフォンの世界に向かうのか?

 

拓弥「そうだな、ヴァンパイヤの動きも気になるし」


雪「……そうか」


 雪は少しさみしげに目を伏せたあと、ゆっくり顔を上げた。


雪「だったら、俺も行く」


光「え?」


拓弥「……雪、本気か?」


拓弥は一瞬、複雑な表情を浮かべたが――やがて、苦笑いしながら頷いた。


拓弥「……わかった。雪、ありがとう。」


こうして3人はブラック竜人界を後にし竜人界ことイディアの世界に向かった。



 【イディア世界・希龍家 本館/広間】


 夕暮れ時、静けさが満ちた希龍家の広間に、拓弥たちは帰還していた。旅の疲れが残るが、どこかホッとした空気が漂っている。


麻里奈「おかえりー。」


拓弥「麻里奈もう着いていたのか。紹介するよ。希龍 光と双子の雨川 雪」


麻里奈「こんにちは、土田麻里奈ともうします。」


光「(綺麗な方だな)」


拓弥「ツッチー、お兄さんは?」


麻里奈「お兄ちゃんはもう少し世界をみたいから1人で旅するみたい…でも後で合流しょうって」


拓弥「ふーんそうなんだ…」


???「ただいまー!」


 玄関から聞こえた元気な声に、全員の視線が向く。


拓弥「あれは……」


 バタバタと駆ける足音とともに、ホコリまみれの旅装束をまとった少年が姿を現した。


風魔「うおっ、なんか人いっぱいいる!? ……あ、兄さん!」


拓弥「……風魔!」


光「え、兄さん……?」


麻里奈「……誰?この子?」


拓弥「俺の弟、希龍 風魔。旅ばっかしてる冒険バカだ」


風魔「紹介雑すぎるだろ兄さん! ……えっと、みなさん初めまして。希龍家の末っ子、風魔です!」


麻里奈「へぇ、若くてなんか、目がキラキラしてるね」


風魔「えへへ。今ちょうど旅から戻ったとこでさ。いろんな世界見てきたんだけど――これは暁斗兄さんに使えるかなって」


拓弥「お!翔さんや魔佐兄に渡したら喜ぶぞ」


風魔「あとさぁ面白い場所、見つけたんだ!スターリーから西ある洞窟で雷の洞窟があるみたい」


雪「雷の洞窟……?」


風魔「そうそう。洞窟の中は空気がずっとピリピリしてて、入った瞬間に全身の毛穴が開く感じ。洞窟の奧には“雷の剣”が眠ってるって噂だよ」


拓弥「雷の剣……!きっと俺にとって、意味のあるものだと思う」


風魔「なら、兄さんたちに譲るよ。俺はちょっと休みたいし……次の旅の準備もしなきゃだしね」


拓弥「俺たちも今日はもう遅いし明日にするか」


【希龍家・門前/出発直前】


 空が白んできた頃。冷たい朝の空気の中で、旅支度を終えた4人が門前に集まっていた。


風魔「じゃ、みんな気をつけてね!また話、聞かせてよ!」


拓弥「ああ。雷の剣――必ず手に入れて戻ってくる」


光「行きましょう」


 その時、風魔がふと光に駆け寄った。


風魔「……あのさ、ちょっといい?」


光「ん? なに?」


風魔「もしかして……君って、希龍 覇弥斗さんの……息子?」


光「……ええ、そうです」


 光が静かに頷くと、風魔の目が一気に輝いた。


風魔「やっぱり……すげえ……!俺、覇弥斗さんのこと、めちゃくちゃ憧れてるんだ!小さい頃から、父さんや暁斗さんの話でよく聞いてて……戦場で一人で敵軍を止めたとか、拳一つででリヴァイアサンを殴り飛ばしたとか、まさに伝説の人!」


光「……ありがとうございます。でも、あまり過度な期待はしないでください。僕は、父とは違うので」


風魔「ううん、そんなことないよ。さっき門前に立ってた時の姿――像で見た、あの覇弥斗さんにそっくりだった。背中から、覚悟っていうか……“何かを守ろうとする強さ”がにじみ出てたよ」


 風魔はまっすぐに光を見つめ、手を差し出す。


風魔「……頑張って!」


光「……うん。ありがとう」


 二人は軽く握手を交わし、光は仲間の元へと戻っていった。


風魔(……あれが、伝説の息子か。やっぱりすげぇや)

 


 四人の姿が朝霧の中、イディアの大地へと溶けていく。


 【雷の洞窟・入口】


 雲が渦巻く空の下、雷の気配が漂う山中の一角。雷の音に導かれるように、四人の姿が古びた岩窟の前に立っていた。


麻里奈「ここが……雷の洞窟かな?」


雪「そのようだな。空気がピリピリしている」


光「洞窟の外なのに……まるで雷に触れているみたいです」


拓弥「ああ。……この中に、“雷の剣”が眠ってる。行くぞ!」


 拓弥がゆっくりと洞窟の奥へ足を踏み入れる。それを追うように、麻里奈、雪、光が続いた。

……


【雷の洞窟・内部】


 洞窟内は青白い光に包まれ、空間全体がかすかに震えていた。壁面には古代語のような文字や、雷を模した装飾が刻まれている。


麻里奈「なんか……思ったより神聖っていうか、ただの洞窟じゃないね」


光「これは……意図的に守られている」


雪「つまり、歓迎されてないってことか……」


 進んでいく一行の足元で、突然「カチッ」と何かが作動する音が鳴った。


拓弥「――ッ、罠か!?」


 咄嗟に身構えるも間に合わず、岩壁が雷光(らいこう)をともなって一気にせり上がり、ルートを遮断する。


麻里奈「キャッ!」


 岩壁によって、二手に分かれてしまった。


 左側に拓弥と麻里奈。右側に雪と光。


拓弥「……くそっ、雪!光!そっちは大丈夫か!?」


雪「大丈夫だ!とりあえず進んでみる!」


光「きっとまた合流できます。気をつけてください!」


拓弥「……ああ、お前らも気をつけろ!」


 雷の音が一層強まる中、それぞれ別の道を進み始める。


 【雷の洞窟・北西ルート/光と雪】


薄暗い通路を、光と雪が慎重に歩いていた。奥へ進むごとに、空気中の静電気が強まり、壁面を小さな雷光が走る。


光「……怪我はないですか?」


雪「問題ない。だが、ここの“気”は妙だ。生き物の気配がないのに……誰かに見られてるような感じがする」


光「確かに……でも、大丈夫ですよ」


雪「お、頼もしいな。……」


 ふと、目の前の空間が歪んだ。


 白い霧が渦を巻き、そこから一人の男の幻影が現れる。


雪「……!」


光「え?……誰ですか?」


 静かに現れたその男は、鋭い眼差しと威厳ある風格を持つ。だが、どこか懐かしさも漂わせていた。


雪「雨川悠弥。俺たちの親父だ!」


 光が驚いて横を見ると、雪の顔が青ざめていた。幻影は、雪の心の奥を抉るような声で語りかける。


幻影「拓弥は“選ばれた”子だった。それが何故受け入れられない? あの力、お前はすべて見ていたはずだ」


雪「知ってるよ……分かってる……でも! 俺だって見てほしかった! どれだけ頑張っても、父さんは……!」


幻影「お前は何者にもなれない。所詮、拓弥の影だ……」


 その言葉が、洞窟の静寂を切り裂くように響いた瞬間――


 雪の頭に、過去の記憶が鮮烈に蘇る。



【回想・幼少期/雨川家】


 静かな庭。訓練場の片隅で、幼い雪は木刀を握り締めていた。


 何度も素振りを繰り返す少年。その視線の先では、父・悠弥が、幼い拓弥の型を丁寧に指導している。


悠弥「そうだ、拓弥。その動きの中に“意志”を込めろ。お前は雨川の“後継”になる男だ」


拓弥「うん……分かったよ、お父さん!」


 それを、陰からじっと見つめていた雪。


雪(……僕だって、父さんに見てほしい……)


 だがその時、近づこうとした雪を、父の視線が冷たく止めた。


悠弥「……雪。今は邪魔をするな」


雪「……っ」


 振り上げた木刀を握りしめたまま、雪は一人、影の中に戻っていった。



【現在/雷の洞窟】


雪「……あのときの気持ち……忘れてないよ……」


 幻影は、まるで雪の心の内を読み取ったように静かに語りかける。


幻影「そうだ。お前は“与えられなかった者”だ。選ばれなかった子。だから拓弥に勝てない」


雪「…………」


 その時、光が一歩前に出た。


光「それでも、雪さんは前に進んでる。自分の意志で」


幻影「……なんだと?」


光「誰かに選ばれなくても、自分の力で立ち上がってる。それってすごいことだと思います」


 光の声に、幻影がわずかに揺らぐ。


光「少なくとも、僕は……雪さんを信じてますよ」


 幻影が崩れ始める。霧のようにほどけながら、かすかに笑ったようにも見えた。


幻影「……ならば、その強さ……見せてみろ」


 幻影が完全に消え去ると、洞窟の空気が少しだけ軽くなった。


雪「……俺は……ずっと、親父の幻を引きずってたのかもな」


光「でも、幻影が消えたのは雪さんの中に(ひかり)があったからですよ」


雪「……ああ。ありがとう、光」


 初めて見せる、穏やかな笑顔だった。


雪「さあ、行こうか。“雷の剣”は……まだ先にある」


光「はい!」


 【雷の洞窟・南東ルート/拓弥と麻里奈】


 雷が轟き、狭い通路を照らす中、拓弥と麻里奈は岩壁を背に慎重に進んでいた。


拓弥「くそ……完全に分断されたな。ツッチー、大丈夫か?」


麻里奈「へーきへーき、これくらいじゃ動揺しないっての。……それより、前。なんか来るよ」


 麻里奈の目が鋭くなる。その先――雷光に照らされて、獣のような影が浮かび上がった。


拓弥「魔獣……?」


 四つ足で這う雷獣。体表からビリビリと雷を発し、口元からは火花がほとばしっていた。数は二体。


麻里奈「来るよ!」


 咆哮とともに、雷獣が襲いかかってきた!


拓弥「《雷攻》ッ!」


 拓弥が瞬時に前へ飛び出し、雷撃を纏った拳で一体の動きを封じる。しかしもう一体が横から麻里奈に迫る。


麻里奈「《アースフィスト》!」


 麻里奈が地面に拳を叩きつけると、床から巨大な土の拳が突き出し、雷獣の横腹を強打!


 ゴッ……という重い音とともに雷獣が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。


拓弥「……ツッチー、やるな……」


麻里奈「えへっ。こう見えても、修行はサボってないんだから」


 だが、雷獣たちはまだ動いていた。痺れたように体を震わせながらも、なおも唸り声を上げて立ち上がる。


麻里奈「じゃあ、これでもう一発いくよ!」


 麻里奈が再び地面に集中し、両手を構える。


麻里奈「《アーススパイク》!」


 地面から無数の石槍が飛び出し、雷獣たちを串刺しにしていく。雷獣たちは断末魔を上げ、その場に崩れ落ちた。


拓弥「……ツッチー、マジで強くなったな」


麻里奈「ふふん、じゃあ行こっか。」


 2人はまだまだ続く道を歩いて行った。


【雷の洞窟・中央広間】


 雷のような轟音が反響する中、拓弥と麻里奈は複雑な石階段を下り、大きな空間へと辿り着いた。そこは天井が高く、あちこちに雷光が弾ける広間だった。


麻里奈「……ここ、もしかして中心部?」


拓弥「ああ、多分な。……ん?」


 奥の通路から足音が駆け寄ってくる。その気配に振り返ると――


光「――拓弥さん!」


拓弥「おお、無事だったか!」


雪「……少し寄り道をしたが、なんとかな」


麻里奈「あたし的にはこっちのルートの方が大変だったと思うけどね~?」


拓弥「罠だらけだったしな……でも、ようやく全員そろったな」


 拓弥がホッと息をついたその時、広間の中央から眩いばかりの光が放たれた。青白い雷光が収束し、ゆっくりと形を成していく。それは、台座に突き立てられた一振りの剣だった。柄には雷の文様が刻まれ、刀身からは絶え間なく微弱な電気が放たれている。

 

麻里奈「あれが……雷の剣?」

 

雪「確かに“気”を感じる。ただの武器じゃないな」


拓弥「そうだな……アレが雷の剣だ……!」


 彼の目がその剣に吸い寄せられるように向かう。その時だった。


 バチバチバチッ!!


 雷の剣から放たれる光が一気に広がり、台座の周囲に雷紋の陣が浮かび上がる。その中心で、大地が割れた。


麻里奈「なにこれ……地面が……!?」


 雷をまとった巨大な爪が、岩を砕いて地中から現れる。その後に続いて姿を現したのは、鋭い角と鱗を持つ巨大な竜。


 雷獄竜――雷を纏う守護の竜。


 その双眸がギラリと光り、空気を震わせる咆哮が広間を揺らす。


雷獄竜「グオオオォォオ……!!」


雪「……来たか。」


麻里奈「何かは、来ると思ったよ!」


拓弥「……行くぞ、みんな!」


麻里奈「アースフィスト!!」


 地面から巨大な土の拳が現れ、竜の脚をガツンと殴りつける。竜が一歩よろめく。


麻里奈「そっちは雷、こっちは土! 相性はばっちりだね!」


雪「アイシクル」


 冷気がうなりを上げ、複数の氷の槍が雷獄竜の脚を正確に貫いた。雷獄竜が動きを止める。


雪「……今だ、動きが鈍った!」


光は直接戦わず、竜の動きを一歩引いて観察していた。


光「……おかしい。あの角が放電していない……?」


 光は目を細めて、数秒後にすぐ叫ぶ。


光「拓弥さん! 角じゃなく、左胸を狙って下さい!おそらくそこが核です!」


拓弥「了解!」


拓弥「サンダージャベリン!!」


 雷の剣に電気が集中し、鋭く尖った雷の槍が形成される。そのまま拓弥が跳躍し、雷の放電とともに雷獄竜の左胸へと突き立てた。


 ――ズバァァン!!


 雷と共に爆音が響き、竜の体が大きくのけぞる。心臓部から閃光が走り、竜が一瞬ひるんだ。


雪「今だ……!凍てつけ……《アイスフィールド》!」


 竜の足元が氷。滑ってバランスを崩す。


麻里奈「アースフィスト・連打ラッシュ!」


 地面から次々と土の拳が現れ、竜の巨体を下から殴打する。竜の体が一気に傾き、膝をついた。


光「今です、拓弥さん!」


拓弥「うおおおおおッ!!」


拓弥「グランドサンダー!」


雷獄竜「グオオオ……!!」


 雷光が体内で暴れ回り、竜は咆哮と共に崩れ落ちた。


 雷獄竜の巨体が地に崩れ落ち、洞窟全体が轟音と共に震える。雷気が徐々に収束し、空間が静寂を取り戻していく。


 中心に浮かぶ台座──その上にある剣が、再び眩い光を帯び始めた。


 拓弥は静かに歩み寄り、その剣の前で立ち止まる。刀身のない柄だけの剣。だが、その柄からは強烈な“雷の鼓動”が伝わってきた。


拓弥「……やっとこの剣を手にすることができる……」


 彼は深く息を吸い、柄に手を伸ばす。


 ──バチィッ!!


 瞬間、雷光が彼の全身を走った。だが、拓弥は動じず、まっすぐ剣を握る。その瞬間、柄の先から雷が迸り、空間の“気”が震えた。


 そして、刀身が──現れた。


 雷光のエネルギーが一筋の刃となって伸びる。実体を持たぬはずの雷が、まるで意志ある刃のように輝きながら。


光「……刀身が……雷の力で構成されている……!」


雪「これは……持つ者の力によって、剣の姿が変わるのか……」


麻里奈「すっご……」


 剣を握る拓弥の瞳には光が宿っていた。


拓弥「……これが、俺の雷」


 雷の剣は静かに、だが確かに、彼の雷を受け入れていた。

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