29.光の拳
【ヴァンパイア城・中層部/死兵統括間・戦闘】
骨が、鳴る。
ガシャ……ガシャ……
砕けたはずの骸骨兵たちが、再び立ち上がる。
欠けた頭蓋が戻り、折れた腕が繋がる。
終わらない。
光
「……っ、キリがない……!」
炎撃で吹き飛ばす。
だが次の瞬間には、もう再生している。
ジール
「再生速度が異常だ……!《鎖打》」
殴り払い砕く。
だが――
“減っていない”。
数が、変わらない。
その奥の高台。
ジェネラルは、一歩も動かず見下ろしていた。
ジェネラル
「無駄だ」
静かな声。
ジェネラル
「それは“兵”ではない」
ジェネラル
「私の“延長”だ」
雪
「……そうかよ」
雪が前へ出る。
氷が、空気を凍らせる。
雪
「だったら――」
踏み込む。
雪
「お前を潰せば終わりだな《アイスランス》」
ガキィィン!!
剣と氷刃がぶつかる。
火花ではなく、霜が散る。
ジェネラル
「判断は正しい」
受け流す。
軽い。
あまりにも軽い。
ジェネラル
「だが――」
次の瞬間。
消えた。
雪
「……っ!?」
背後。
斬撃。
ズバッ――!!
雪の肩が裂ける。
雪
「ぐっ……!」
ジェネラル
「遅い」
低く呟く。
剣を振る。
ジェネラル
「光雷は、もっと速かった」
雪
「……!」
氷が爆ぜる。
雪
「俺は……あいつじゃねぇよ!!」
氷槍を一斉に放つ。
だが――
すべて弾かれる。
一太刀。
それだけで。
ジェネラル
「似ているな」
踏み込む。
ジェネラル
「だが、決定的に違う」
斬撃。
連撃。
速い。
重い。
正確すぎる。
雪
(強い……!)
受けるので精一杯。
攻めに転じられない。
一方――光とジール
光
「くそっ!!《紅炎》」
炎を放つ。
骸骨兵を焼き払う。
だが――
骨が、再び組み上がる。
ジール
「核があるはずだ……!」
光
「でも見えない……!」
骸骨兵が一斉に襲いかかる。
槍。
剣。
盾。
波のように。
ジール
「くっ……!《旋鎖円陣」
防ぐ。
だが押される。
完全に、押されている。
光
(このままじゃ……)
視線が、ジェネラルへ向く。
あいつが原因。
間違いない。
だが――
届かない。
再び雪へ
ドンッ!!
雪が壁に叩きつけられる。
雪
「……っ……!」
立てない。
膝が震える。
ジェネラル
「終わりか?」
ゆっくり歩いてくる。
ジェネラル
「所詮は“次の世代”」
ジェネラル
「光雷の影にもなれん」
⸻
雪
「……うるせぇ……」
血を吐く。
だが、立つ。
雪
「俺は……俺だ……」
⸻
ジェネラルの目が、わずかに細まる。
ジェネラル
「……ほう」
圧倒的劣勢
骸骨兵は減らない。
雪は押されている。
時間をかければ――
確実に負ける。
⸻
光
(……どうすれば……)
拳を握る。
炎が揺れる。
だが――
まだ足りない。
ガシャァァァン!!
氷と鋼がぶつかる。
空気が凍りつく。
ジェネラル
「その程度か」
剣を払う。
氷が砕け散る。
雪
「……まだだ」
血を拭う。
呼吸を整える。
目が変わる。
ジェネラル
「いいだろう」
ゆっくりと構えを変える。
剣を、両手で握る。
ジェネラル
「少しだけ、“戦い”にしてやる」
次の瞬間。
消えた。
ズバァッ!!
斬撃が走る。
雪の頬が裂ける。
雪
(速い……!)
さっきまでと、次元が違う。
ジェネラル
「くらえ!《冥連・無尽斬》」
連撃。
途切れない。
迷いがない。
雪は、防ぐ。
だが。
押される。
完全に。
光
「雪さん!!」
雪
「来るな!!」
一喝。
氷が爆ぜる。
雪
「こいつは……俺がやる」
雪、覚悟を決める
深く息を吸う。
吐く。
周囲の温度が、一気に下がる。
ジール
「……空気が……凍る……」
雪の足元から、
氷が広がる。
床を這い、
壁を覆い、
天井まで侵食する。
雪
「……お前、言ったよな」
ゆっくり歩く。
氷の中を。
雪
「俺は光雷じゃないって」
ジェネラル
「事実だ」
雪
「ああ」
笑う。
雪
「だから――」
氷が、共鳴する。
雪
「“俺の戦い方”でいく」
《氷界展開》
一瞬で、
空間が“氷の世界”に変わる。
骸骨兵すら、動きが鈍る。
ジェネラル
「……ほう」
初めて、興味を示す。
雪
「終わらせる」
両手を掲げる。
氷が、収束する。
空気中の水分すら凍らせ、
一点へ。
雪
「《絶対零界・氷皇断》」
――静寂。
一瞬、音が消える。
次の瞬間。
巨大な氷刃が、
空間ごと斬り裂いた。
⸻
ズドォォォォォン!!!
一直線。
逃げ場なし。
ジェネラルを、完全に捉える。
⸻
光
「……入った……!」
⸻
氷が、全てを凍らせる。
骸骨兵も、
床も、
空気すら。
⸻
麻痺する静寂。
⸻
雪
「……はぁ……はぁ……」
膝をつく。
全力。
完全な一撃。
だが――
パキッ。
氷に、ヒビが入る。
⸻
雪
「……え……?」
⸻
パキパキパキ……
音が広がる。
⸻
ドンッ!!
氷が、内側から砕けた。
⸻
ジェネラルが、立っている。
だが無傷ではない。
ジェネラル
「……見事だ」
明らかに、傷ついている
⸻
ジェネラル
「だが――」
一歩、踏み出す。
氷を踏み砕く。
ジェネラル
「届かん」
その瞬間。
雪の視界が揺れる。
膝が崩れる。
ドサッ――
光
「雪さん!!」
雪が、倒れた。
動かない。
ジェネラル
「次は――」
ゆっくりと、光の方へ向く。
ジェネラル
「貴様だ」
⸻
光
「……っ……」
拳を握る。
震える。
思い出す。
暁斗の言葉。
翔の言葉。
雪の背中。
光(心の声)
(……出せ)
炎が、揺れる。
光(心の声)
(纏え……!)
炎が、拳に集まる。
だが――
まだ不安定。
まとまらない。
光
「くそっ……どうして……!」
力はある。
だが――
“形”にならない。
暁斗の声(記憶)
「光。炎の纏い方は、お前が教えてやれ」
脳裏に浮かぶ。
暁斗
「お前は、無意識でやっているみたいだけど」
光(心の声)
(無意識……?)
翔の声(記憶)
「力を出そうとするな。」
翔
「“血が流れる感覚を掴め。
その流れに沿って、力を送るんだ”」
光
「……っ……!」
呼吸を整える。
ゆっくり。
深く。
炎を見る。
“外”じゃない。
“内側”。
光(心の声)
(流れ……どこから来てる……)
⸻
ドクン。
⸻
心臓。
⸻
ドクン、ドクン。
⸻
血の流れと一緒に――
“熱”が巡っている。
光(心の声)
(……ここだ)
拳を握る。
ギリッ……
熱が、集中する。
炎じゃない。
“光”。
じわり、と。
拳が――
白く、輝く。
ジール
「……何だ……あれ……」
眩しい。
だが、熱は暴れていない。
“収束している”。
光
「……これが……」
拳を見る。
光
「僕の……」
その瞬間――
ドォンッ!!
ジールが骸骨兵の群れに突っ込む。
ジール
「道は開ける!!《鎖嵐》」
複数の鎖が暴風のように振り回りだす。
骸骨兵が吹き飛び、
一直線の道ができる。
ジール
「行け!!光!!」
光
「――はい!!」
踏み込む。
一気に距離を詰める。
ジェネラル
「……来るか」
構える。
迎撃体勢。
だが――
その足が、止まる。
パキィッ――
氷。
足元から凍りつく。
ジェネラル
「……!?」
下を見る。
そこには――
雪
「……逃がすかよ……」
倒れたはずの身体。
血まみれ。
だが――
腕だけで、掴んでいる。
ジェネラルの足を。
完全に凍らせながら。
ジェネラル
「まだ動くか……!」
雪
「一発……入れろ……光……!」
光
「……っ!!」
拳が、さらに輝く。
白光が、脈打つ。
怖くない。
迷いもない。
光(心の声)
(これでいい)
踏み込み。
一直線。
ジェネラル
「……遅い」
剣を振るう。
だが――
動けない。
足が、完全に固定されている。
ジェネラル
「……チッ」
その一瞬の隙。
光(心の声)
(流れ――掴んだ)
一瞬、世界が静止する。
光の拳だけが、脈打っている。
光
「――届けぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
拳が、振り抜かれる。
ズドォォォォォン!!!!
白い閃光が、空間を貫いた。
壁を砕き、
奥の闇ごと――
一直線に消し飛ばす。
轟音のあと、
すべてが――
止まった。
ガシャ……
ガシャ………
骸骨兵たちの動きが、鈍る。
そして――
崩れた。
バラバラに。
力を失ったように。
ジール
「……止まった……」
骸骨の山が、音を立てて崩れていく。
もう、再生しない
光
「……はぁ……はぁ……」
拳の光が、ゆっくり消えていく。
静寂。
その中で。
奥の瓦礫が、わずかに動いた。
雪
「……まだか……?」
緊張が走る。
だが――
現れたのは、
崩れた身体。
ジェネラル。
胸を貫かれ、
剣を支えに、
かろうじて立っている。
ジェネラル
「……見事だ……」
声が、かすれている。
再生もしていない。
ジェネラル
「理解した……」
ゆっくりと、光を見る。
ジェネラル
「それが……貴様の“光”か……」
光
「……」
答えない。
ただ、見据える。
ジェネラル
「未熟だが……」
ふっと、口元がわずかに緩む。
ジェネラル
「……確かに、“届いた”」
剣が、手から落ちる。
カラン……
そのまま。
膝が崩れる。
ドサッ――
完全に、動かない。
同時に。
部屋中の骸骨兵が、
一斉に崩れ落ちた。
完全停止。
ジール
「……終わった……のか……?」
雪
「……ああ……」
力が抜ける。
氷が、ほどける。
雪も、その場に崩れる。
光
「雪さん!!」
駆け寄る。
雪
「無理すんな」
短く言う。
雪
「今は……勝ったことだけ考えとけ」
それ以上は、踏み込まない。
だがその目は――
確かに見ている。
“違い”を。
その時。
奥の通路から、足音。
リーナ
「みんな!!。
下層がめちゃくちゃになって水が引いたから、急いで上がってきた!」
駆け寄ってくる。
麻里奈
「無事……!?」
二人とも、息を切らしている。
ジール
「遅い…」
リーナ
「そっちは無茶しすぎ!」
言い返すが――
すぐに、周囲を見る。
崩れた骸骨。
抉れた壁。
そして――
リーナ
「……倒したの?」
光
「……はい」
短く答える。
麻里奈
「……本当に……?」
信じられないように、ジェネラルの残骸を見る。
ジール
「どう見ても終わってるだろ」
軽く肩をすくめる。
少しの沈黙。
全員が、
“今の戦い”を噛み締めている。
雪
「……で」
ゆっくり顔を上げる。
雪
「ここで終わりじゃねぇだろ」
ジール
「ああ」
視線が上へ向く。
さらに上層へ続く階段。
重く、
禍々しい気配が、流れている。
麻里奈
「……強い気配……上から……」
リーナ
「……いるね」
光
「……」
拳を、握る。
もう光は出ない。
だが――
“さっきの感覚”は、消えていない。
光(心の声)
(まだ……いける)
麻里奈
「少し休もうか?」
誰にともなく言う。
一瞬の沈黙。
雪
「……いや」
首を振る。
ジール
「リーダーたちが待ってる」
リーナ
「同感」
麻里奈
「……うん。行こう」
全員の視線が、揃う。
上へ。
光
「……行きましょう」
一歩、踏み出す。
瓦礫を越え、
階段へ。
その先。
ヴァンパイア城・最上階。
待つのは――
“本体”。




