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26.黒炎

【希龍家・屋敷/帰還】


「ていうかさ。

 どうして希龍家に相談するんだ?」


「黒炎のことなら、親父か……

 兄さん(雨川光輝)の方が詳しいだろ」


拓弥

「いや……

 炎“全般”に詳しいやつがいるんだよ。

 希龍家には」


 そう言って、拓弥は扉を開けた。


拓弥

「ただい――

 ……って、なんだこの部屋!?」


 見慣れたはずの室内は、

 以前よりも広く、構造すら変わっていた。


魔佐

「おかえり、拓弥。

 この前、色々壊されたでしょ?」


魔佐

「だから、魔法でちょっと“改修”しておいた」


光輝

「いやいや……

 “ちょっと”で済む規模じゃないよね、それ」


「……兄さんも居るし。

てか、どうしてここに?」


光輝

「たまたま顔を出してただけさ」


 その後――

 拓弥たちは、グリフォンの世界で起きたことを語った。


 前世の記憶が完全に蘇ったこと。

 ヴァンパイアの存在。

 黒炎の力。

 そして、迫り来る“最終決戦”。


 すべてを、包み隠さず。


光輝

「…………」


 考え込むように、視線を落とす。


光輝(小声)

「……光の矢……エクストラ……

 ヴィルヘルム……」


「兄さん。

 そういうわけでさ」


「黒炎について、何か知らないか?

 技とか……使い方とか」


光輝

「………………」


「……兄さん?」


光輝

「あ……すまない」


光輝

「僕も、あの家を出た身だからね。

 黒炎は使えるには使えるけど……

 正直、体系的には分かっていない」


光輝

「叔父さんに聞いてみる。

 それと、家に残っている文献も調べてみるよ」


光輝

「……何か、手がかりがあるかもしれない」


 そう言い残し、光輝は静かに立ち上がった。


 そして、そのまま帰っていった。


拓弥

「……魔佐兄」


拓弥

「暁斗さんに聞こうと思ってるんだけど」


魔佐

「ああ……そうだね」


魔佐

「暁斗さんなら、分かるかもしれない。

 今なら……三十分くらいなら外にも出られるはずだ」


「……暁斗さん?」


拓弥

「希龍家の当主で、長男だよ」


拓弥

「――希龍・暁斗(あきと)


 【希龍家・奥の間/封火の部屋】


拓弥

「……ここだ」


「この部屋……前に来た時からありましたけど、

 ずっと謎でしたよね」


拓弥

「ああ。

 ――入るぞ」


 扉に手をかけ、開いた瞬間。


 ごう、と熱が噴き出した。


「あっ……!?

 あ、暑っ……!」


 息を吸っただけで、喉が焼ける。


 拓弥、雪、光は部屋へ足を踏み入れる。


 ――異常な暑さだった。


 空気そのものが熱を帯び、

 壁も床も、じりじりと赤熱しているように感じられる。


(光・心の声)

 竜人のハーフである僕でも……

 これは、正直きつい……。


 拓弥と雪も、無言のまま額に汗を浮かべていた。


暁斗

「……寒いからな。

 早く閉めてくれ」


 部屋の奥。

 炎の揺らめきの中に、ひとりの男が座していた。


 希龍・暁斗。


 静かで、落ち着いた声。

 だが、その存在そのものが――

 この熱を生み出していると、直感で分かる。


 扉が閉まると、

 逃げ場のない熱が、完全に満ちた。


暁斗

「やあ……光くん。久しぶりだね」


 暁斗は、穏やかに微笑む。


暁斗

「……と言っても、

 光は覚えていないかもしれないけど」


 光は一瞬、戸惑いながらも頭を下げた。


「はい……

 すみません。記憶には、ないです」


暁斗

「いいさ」


 暁斗は、どこか懐かしむように目を細める。


暁斗

「覇弥斗さんは……元気かな?」


「父さんとは、僕も少し会えていませんが……

 元気だと思います」


暁斗

「……そうか」


 短い返事。


 だが、その一言に、

 過去と因縁が、静かに滲んでいた。


 部屋の炎が、

 ゆらりと大きく揺れた。


 拓弥

「暁斗さん。ちょっと、聞きたいことがあって

 ――黒炎について、何か知ってる?」


暁斗

「黒炎か。

 ブラック竜人と邪竜だけが扱える炎だ」


 暁斗は淡々と続ける。


暁斗

「かつてはな、竜人の鱗の皮膚すら溶かした。

 “炎属性”というより、存在そのものを焼く炎だな」


暁斗

「……それが、どうした?」


「そこまでご存じなんですね。

 使いこなし方とか、技の体系みたいなものはあるんですか?」


暁斗

「……」


 暁斗は、雪を一瞥する。


暁斗

「光輝の弟だな」


「え?」


暁斗

「敬語はやめてくれ。

 オレは黒竜人と、無駄な壁を作りたくない」


 そう言って、軽く肩をすくめる。


暁斗

「技か……

 昔、見たことはある」


拓弥

「あるんだ!」


暁斗

「だがな」


 一拍置いて。


暁斗

「見た目は、普通の炎と大して変わらん」


「……え?」


暁斗

「違うのは“燃やしているもの”だ。

 形じゃない」


拓弥

「……外で、教えてほしい」


暁斗

「外?」


 暁斗は眉をひそめる。


暁斗

「……おい。こんな氷つくような場所(庭)でやるのか?

 この部屋から出るの、正直しんどいんだがな……」


 少し考えてから、苦笑する。


暁斗

「……仕方ない。

 可愛い弟の頼みだ」


暁斗

「翔がくれた薬を飲めば、三十分くらいは持つだろ」


 立ち上がり、外套に手を伸ばす。


暁斗

「準備する。

 先に外で待ってろ」


 【希龍家・庭】


「……暁斗さんって、何かあったんですか?」


拓弥

「二年くらい前かな。

 暁斗さん、もともと色んな世界を旅するのが好きでさ」


拓弥

「ある日、異様に寒そうにして帰ってきたんだ。

 本人いわく、“太陽の世界”に行って、一本の剣を持ち帰ったらしい」


「太陽の世界で……寒くなる?」


拓弥

「それ以来だよ。

 どこにいても、ずっと“凍えるような寒さ”を感じるって」


「……呪い、か?」


拓弥

「多分な……」


 拓弥は、庭から奥にある部屋を見つめる。


拓弥

「それ以来、ほとんどあの部屋に籠もりきりだ。

 翔さんは暁斗さんを治すために薬を作って、

 魔佐兄は少しでも外に出られるように、色々と装置を開発してる」


拓弥

「風魔は風魔で、材料集めとか、

 “その呪いを解く鍵がどこかにないか”を探し回ってる」


「……家族総出、か」


「でもさ。

 聞いてる限り、その剣を返せば解けるんじゃねぇの?」


拓弥

「俺も、最初はそう思った」


 少し間を置いて。


拓弥

「でもな、その剣――

 元から“剣の形”をしてなかったらしい」


「え?」


拓弥

「どこかに安置されてたわけでもなく、

 置かれてたというより……“転がってた”らしい」


拓弥

「触れた瞬間、剣が暁斗さんの体格に合わせて形を変えたって」


「……厄介だな」


拓弥

「呪いだとしても、相当特殊だ。

 正直、俺たちにもよくわからない」


 その時。


暁斗

「――お待たせ」


 背後から、低く落ち着いた声。


 三人が振り返ると、

 外套を羽織った暁斗が、すでに庭に立っていた。

 

 暁斗

「時間がない。手短にいくぞ」


 そう言って、暁斗は左手を軽く掲げた。


 ――次の瞬間。


 黒い炎が、何の前触れもなく掌から噴き上がった。


 揺らめくのに、熱がない。

 だが、空気そのものが“焼かれている”感覚。


拓弥

「……ちょっと待て。

 さっき、黒炎は“黒竜人と邪竜しか使えない”って……」


暁斗

「一度見たら、大体は分かるだろ」


 何でもないことのように言う。


雪(心の声)

「……この人、化け物だ」


暁斗

「ほら。二人とも出してみろ」


 拓弥と雪は顔を見合わせ、手のひらから黒炎を出した


 ――だが。


 拳に黒炎纏わすことは出来なかった


暁斗

「……難しいか」


 少しだけ、納得したように頷く。


暁斗

「まあいい。次だ」


 暁斗は黒炎を、拳に纏わせた。


 衣服の上から、

 炎が張り付く。


暁斗

「黒炎を拳に纏えたら、《黒焔爪こくえんそう》だ」


 拳を軽く振る。


 ――空気が裂けた。


暁斗

「言ってしまえば、“炎撃”みたいな技だな」


光(心の声)

「……多分。

 僕の《炎撃》とは、全然違う……」


暁斗

「で、これが次」


 暁斗は全身に纏わせた黒炎を一点に圧縮する。


 音が、消えた。


 そして――


 黒い衝撃波が、庭の奥へと放たれた。


 地面が一瞬、沈み、

 遅れて低い轟音が響く。


暁斗

「《黒焔撃こくえんげき》」


「こんな感じだ」


 暁斗はジャケットを直す。


暁斗

「黒炎はまだまだある。」


「だが全部覚える必要はない。」


「だから自分の戦い方に合わせろ。」

 

「寒い。俺は部屋に戻る」


 踵を返しながら、振り返りもせずに言った。


暁斗

「光。炎の纏い方は、お前が教えてやれ」


「え……?」


暁斗

「お前は、無意識でやっているみたいだけど。

 いつもお前がやってるやつだ」


  そう言い残すと、暁斗はそのまま屋敷の中へ戻っていった。


 庭には、黒炎の余韻と、微妙な沈黙だけが残る。


「……で、光は。

 どうしてるんだ?」


「いや……正直……」


 少し困ったように頭をかく。


「まさか僕が、拓弥さんたちに“教える側”になる日が来るとは思ってなくて……」


拓弥

「いいから。

 で、どうすりゃいいんだよ」


「えっと……その……」


 光は拳を軽く握り、宙に向けてジェスチャーする。


「こう……拳を握って……

 ボワァーって感じで……」


拓弥・雪

「……?」


「すまん、光。

 擬音が多すぎて、全然伝わらん」


拓弥

「教える才能ゼロだな。」


「えぇ……。」

 

 その時だった。


「まずは“血の流れ”を意識するんだ」


拓弥

「翔さん!」


 いつの間にか、翔が庭先に立っていた。


「力を出そうとするな。

 血が流れる感覚を掴め。

 その流れに沿って、力を送るんだ」


拓弥

「血液……」


「俺だって《炎撃》くらいなら使える」


「……なるほど」


 雪はゆっくりと目を閉じた。


 呼吸を整え、

 心拍に意識を向ける。


 ドクン――ドクン。


 そのリズムに合わせるように、

 拳へと意識を落としていく。


 ――ボゥ。


 黒炎が、薄く、膜のように拳を包んだ。


拓弥

「……おっ。

 すげぇじゃん」


「その感じだ」


 雪は軽く拳を振る。


「《黒焔撃こくえんげき》」


 ――シュッ。


 小さく、だが鋭く、

 空気が切り裂かれた。


「……まだまだだな。

 暁斗さんみたいにはいかねぇ」


「いや、十分だ」


 翔ははっきりと言った。


「正直言って、暁斗は破格だ。

 俺たちが使う《炎撃》の……

 軽く十倍はある」


拓弥

「くそ……

 雪に先、越された……」


「お前は昔から、集中力が足りないからだよ」


拓弥

「うるせぇ」


 だが、その顔は笑っていた。


 ――その頃、グリフォンの世界


【ルオ=ハルド 建設中の巨大橋】

 

 ジール「……これで最後だな」

グリフォニアの残党兵を叩き伏せ、ジールは鉄球をしまう。

 その背後では、キールが奴隷たちの鎖を次々と鎌で断ち切っていた。

 キール「リーナも手伝ってくれてもよかったのにな」


 ジール「里の復旧が忙しいからな」


 エルフ男「ありがとうございます。あの里いうのは?」


  エルフの男性が話かけてきた。


 キール「あんたエルフか。ちょっとあんたらの里襲われてな。でも安心しろそっちなんとか解決した。」


 エルフ男「里が……里には妻と子供が居るんです。」


 キール「もしかしてアンタ、アーロンの親父か」


 アーロン父「え、息子をご存知なのですか?」


 キール「なら安心しろアーロンたちも無事だ。ここに俺たちが来たのはアーロンとの約束だったからな」


 アーロン父「息子との?」


 キール「さぁ、帰るぞ」


 ジール「……聖獣騎士団の残党を倒したのはほとんど俺なんだが……」


 キール「細けーことはいいだろ」


 ――その頃、リーナは

 リーナ「ねぇナイア様コレ、落ちてたんだけどブリューナクだよね」


 ナイア「そうだなグリップは折れてしまってるが間違いなくブリューナクだ。この武器はヴィルヘルムの武器を一度ドロドロに溶かして再構築したものポルポトに命じられてファブロが12年かけて作ったものだ。」


 リーナ「ファブロが!」


 ナイア「彼もまたエルフだ。グリフォニア王国に留まり我々に情報くれるよき友だ」


 リーナ「そうなんだ…コレ貰っていい?」


 ナイア「良いとも。なんならファブロに持って行って直してもらいなさい。」


リーナ「うん。そうする」

 

 そして――


 拓弥と雪は、

 三日間、ひたすら修行を続けた。


 拳に纏わせる。

 維持する。

 暴れさせない。


 何度も失敗し、

 何度も焼け、

 それでも――


 少しずつ、

 確実に、

 黒炎は二人の“一部”になっていった。


 変えました。


【希龍家・庭/三日後・朝】


 朝の空気は澄んでいた。


 夜露が残る土。

 朝日を反射する、焦げ跡の残った地面。

 三日間の修行の痕跡が、庭のあちこちに刻まれている。


 拓弥は大きく息を吐き、拳を開いた。


 黒炎はもう暴れない。

 呼吸と同じ速さで、静かに揺れている。


拓弥

「……朝だな」


「三日間、あっという間だったな」


 雪の拳にも、薄く黒炎が纏わりついていた。

 完全ではないが、確実に“制御”に近づいている。


「二人とも……

 この数日また一段と強くなりましたね。

 正直、普通じゃないです」


拓弥

「褒めてんのか?」


「はい。

 半分はですけど」


 その時だった。


 ――ピシッ。


 朝の静寂に、不自然な音が走る。


「……?」


拓弥

「今の……」


 次の瞬間。


 空間が、裂けた。


 朝焼けの空に、

 硝子のひび割れのような亀裂が走る。


 光が歪み、

 風が吸い込まれ、

 世界の“裏側”が、口を開く。


「……空間……!」


 裂け目の奥は、深い闇。


 そこから――


キール

「おはよう…迎えに来たぞ」


拓弥

「……キール」


 キールが地面に降り立つと同時に、

 裂け目はゆっくりと閉じた。


キール

「三日。

 約束どおりだ」


キール

「で、どうだ相棒」


 拓弥は答えず、拳を握った。


 ――ボゥ。


 黒炎が、朝日に溶け込むように灯る。


 荒くない。

だが、確実に“黒炎の感触”を掴み始めていた。


キール

「……いい顔だ」


 満足そうに笑う。


キール

「ようやく行けるな」


拓弥

「ああ、みんなで出発だ。」


「俺と魔佐も行く。」


拓弥

「おお〜頼もしい」


「だけど魔佐がまだ準備してるみたいだ」


魔佐

「ごめん。僕はまだ行けそうにない先行っておいて必ず行くから」


「おい、ちょっとそこまで買い物に行くとかじゃないんだぞ。後から来れるのか?」


魔佐

「誰に言ってるのこの僕だよ。まぁ翔が先行っててくれるなら必ず行けるから。頼んだよー。」


「だそうだ俺は準備OKだ」


 キールが、再び鎌を構えた。


キール

「よしじゃあ行くぞ」


 ズズ……ッ。


 朝の空に、再び亀裂が走る。


キール

「次は――

 ヴァンパイアのところだ」


拓弥

「望むところだ」


 裂け目の中へ踏み出した。


 朝日を背に、

 みなの影が、世界の向こうへ消えていく。


 裂け目が閉じると、

 庭には静かな風だけが残った。


風魔(小さく)

「……行ったな」


魔佐

「……そうだね。

さて、僕は準備しますか。

風魔は念の為ここで留守番しといてね。カオスみたいな奴にここが留守中に襲われても困るから」


 空は、どこまでも澄んでいた。

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