#6
顔を見合わせた少女二人。
驚いた様子の少女に対して、満足気にうっすらと笑みを浮かべた少女が一人。向こうはとっくに気付いていたんだろう。それもそのはず、フードで顔を隠した彼女と違って私は学校帰りの制服姿なのだから。
「そっくり_______」
無意識にそう呟いた。
「神の巡り合わせかな・・・・・・・・・この場合は神といっても_______」
「巡り合わせって、そんな簡単に片づけられるの!?」
動揺を隠しきれないまま私は感情の勢いに任せ問いかけた。
「そんなに驚く事じゃないでしょ? 他人の空似って言葉があるんだから、これもその内の一つってところじゃない」
彼女に反論したい気持ちと肯定したい自分。鏡に反射される私たちは誰がどう見ても瓜二つで否定のしようがない。
しかし、完璧とは言えなかった。ある一点をどうしても看過できなかったからだ。
「真逆ね。 少しぐらいは違いがあるものだけど、白と黒は流石に誤魔化せそうにないわね」
そう、黒髪の彼女に対して私は銀髪に近い白髪。生まれつきの特異体質だった。そのせいで回りから奇異の目で見られることも、しばしば・・・・・・。
「「誤魔化せそうにない」ってどういう意味?」
「あなたには、これから私の代わりをしてもらいたいの」
____突飛な答えが耳に飛び込む。
予想だにもしていなかった斜め上の宣言。当然、私は否を唱える。
しかし、状況的に考えて彼女の命令に背くことが本当に最善策なのかと自問自答する。「代わりに」と言った彼女の意味を再思考してみた。
永続的なものか、一時的なものかでも私の出す応えに大きな影響が出るのは明確だ。前者の場合、用途は恐らく彼女の影武者、後者の場合は有事の際の捨て駒と考えていいだろう。だとすると、私にとって最低でも前者を提示された方が・・・・・・都合がいい。
「・・・・・・単位を落としそうなの。だから、代わりに行ってもらいたくて」
「・・・・・・・・・・・・は? 学校?」
「そう」
あんたって、学校行ってたの?と返したくなる気持ちを押さえ続きを聞いた。
「ワケあって先週から休んでてね・・・流石にそろそろ行かないと・・・・・・・・・」
体の前で両手の人差し指の先ををぶつけ合いながら視線を逸らし、ばつの悪い顔でぺらぺらと口ずさむ。
先程までの冷静・冷酷、無慈悲さとは比にならない程・・・・・・彼女の存在自体が小さく見えた。
(本当にさっきまでの人と同一人物・・・・・・?)
「・・・・・・・・・・・・」
その変貌ぶりに唖然としていると彼女の方から再度、アクションがあった。
「私の《キズ》が治るまででいいから・・・さ? 制服も多分、サイズぴったりだし」
「ふざけてるの? 私にだって学校があるんだよ? それに、何で私が_______」
あぁ、そうか____一瞬で理解した。
「____だから、殺さなかったのね」
問い詰めるまでも無く、答えは簡単だった。
見た目が似ているという利点を活かした最大限の使用用途。
「助けてもらった事には・・・感謝するけど、そこまでする義理はない」
偶然であっても命を救ってもらった事実は変わらない。だけど、それとこれとは話が別だ。いくら見た目が似ているとはいえ、それ以上でも以下でもない。
「あんたの性格だって知らないし。 立ち振る舞いとか、完璧にこなせる気がしない」
問題はそこだった。代わりをするという事は同時に彼女を演じなければいけないことを意味する。出会って数十分しか経っていない彼女の素性・性格・口調、その他もろもろを明日までに身に付けるなんて不可能に近い。もしかしたら、彼女自身も気づいていない、他人から見た癖があるかもしれない。
いくら見た目がどうにかなってもそれ以上に解決しなければならない課題は山のようにある。
「外見の方は大差ないじゃない。一部を除いては・・・・・・・・・ね」
なのに、外套の少女は余裕そうな面持ちで、あろうことか私に挑発してきたのだ。
「それって、髪のことだよね・・・違うって言ったら____ぶっ飛ばすから」
いつの間にか距離感は曖昧なままに解れていた。まるで、友達と会話をする様に投げられた言葉を投げ返す。ちなみにだが、今まさに彼女が私に言おうとしていることを推測すると恐らくそれは____
「む____」
「きっ____!」
顔に影を落とし細めた瞳で睨んだ。
「____って結構、物騒な事を言うのね」
いつもは内面の方を突っ込まれていたから体の事について茶化されたのはこれが初めてだった。などと、女の子どうし特有の会話を済ませた後、話は一気に本題に入った。
「で、代役をする代わりに私に何をしてくれるわけ? まさか、「さっき助けたでしょ?」とは言わないわよね?」
「本心を言うと、それで了承してほしいところだけど・・・・・・今回は特別サービス。 後一回だけ、あなたを守護ってあげる」
「それって、異形からってこと? 私はもう、あんな路地裏に行かないし、放課後は直ぐに帰るからその必要はないよ」
正直なところ、あの歪な世界と関わり合いを持ちたくないのが本心だ。友人を殺したのは人間ではない。
だから、不意に襲われでもしたら私はきっと抵抗も虚しく殺されるだろう。それも、本望だった。これといって生きたい理由もないし、いつ死んでも別に良かった。それに澪に会えるのだと思えばそれは悪くない感触だった。
「もしかして、わざと自分を危険に晒して死のうとしてる____?」
能天気に振る舞っている様に見えて、届く言葉は心臓の中心を正確に貫いた。
「なんで、そう思うの? エスパーか何か?」
「そんなんじゃないよ____」
質問に対して寂しさを秘めた彼女の両目は私の追跡を逃れ、そっと姿を消した。
「・・・・・・・・・でも、本当にその必要は無いからね」
「まぁ、麗亡がそう言うなら無理強いはできないか。 せっかく、私の鎌が役に立つと思ったんだけど」
と、残念そうに壁に立てかけてあった大鎌を一撫でし落胆した様子で椅子に腰かけ、いじけた様子で故意に私に不機嫌な態度を見せる彼女。____ちょっとだけ、可愛いと思ってしまった。
だけど、一つだけ気になることもあった。
「何で私の名前、知ってるの____?」
「えっとー・・・それは・・・・・・・・・」
暗黒微笑で目の前に立ちふさがった私の影で狭まる視界。言い逃れが出来ないようにかけた圧。
「ここに運んでくるときに学生証を・・・見た」
案の定、私が想定していた回答が返ってきた。彼女は互いの容姿の酷似を重要視していたことを踏まえ、分かることは私たちは同じ高校生で大学生ではない。大学生なら、わざわざ制服を気にする事も無いだろう。
そして、出身校の違い。彼女が私と同じ高校ならどこかで顔を合わせているはず。この目立つ白髪を彼女が知らないはずがない。それに、似た様な見た目なら学年は違えど校内で有名になっていてもおかしくないのではないか?
だとすると、学校自体が違う____容易にその結論を出すことは出来るが依頼を受けるにせよ受けないにせよ、確認を取っておいた方が良さそうだ。
「学校って私と同じじゃないよね?」
「そうね」
「やっぱり・・・・・・それで他に何か見た?」
「スマホと鞄の中は一通り。 スマホはロックが掛かってたから中までは確認できなかったけど」
「・・・・・・・・・分かった」
言いたいことはあるが、いちいち問いただしていたら聞きたくないことまでも知ってしまいそうで私は自己防衛の為に喉まで出かかっていた声を吞み込んだ。
「で、代わりをするとして私はどうすればいいの?」
「普通に学校生活を送ってくれたらそれだけでいいよ。 単位を落とさないでくれれば」
条件は簡単だった。むしろ、そのシンプルさが逆に怖く思える。
「けが人に言うのもなんだけど、その程度の傷なら問題ないんじゃない?」
ネファスと対等に戦える人間を私は彼女意外に知らない。というか、ネファスの存在自体今日という今日まで知る由も無かったのだ。だから、彼女がどれだけ強くて、どれだけの戦闘をしてきたのかは分からない。
それでも、あの化け物を倒せるだけの能力が有るのなら負傷の一つや二つ簡単に治療できたりするものじゃないのか?
「秘特典覧板って知ってる?」
聞き馴染みのあるサイト名が聞こえた。
「ま、まぁ・・・・・・見たことはないけど」
「嘘。 誰も見るものなんて言ってない」
「うっ____」
「まいいや。 そのサイトにね私の事を捕まえようとしている何者かがいるの」
「何者かって、そんな記事なんて_______」
記憶にノイズが走る。
ザザッ____!
ザ_______!!
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