#4
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・_______ッ!
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浅い眠りが続いていた、ハッキリとしない意識の中で体が浮いている様な感覚に捕らわれ、急速に速くなる鼓動に魘されて私は目を覚ました。
「ここは、どこ!?」
咄嗟に声が出た。それも、大きな助けを求める様な悲痛な声で____。
見渡す限り近くには誰もいない。気づけば簡素なベッドに寝かされており、誰かがここに私を運んだのだと瞬時に理解した。唐突に覚えた腰の痛みに左手を添え、服の乱れ、髪の質、外傷、下着の違和感の有無・・・・・・身体の至る所を検査した。
「目が覚めた?」
「誰っ_!?」
聞こえた声に体が反応する。
「君をここまで運んでき恩人に対して「誰っ_!?」とは失礼だな」
(恩人・・・? ここまで運んできた・・・・・・?_______ッ!)
脳天を撃ち抜かれたかの様な感覚が瞬時に襲い、私の体は頭部を起点に後方へ仰け反った。一時的に忘れていた記憶が目まぐるしい速度で呼び起こされ、閉ざされていた感情の扉が勢いよく開いた。
「あっ・・・あぁ・・・・・・あがっ____!」
天井の一点を見上げる眼球は痙攣し、口元から微量ながら唾液が流れ落ちる。一気に注ぎ込まれた過剰な情報に拒否反応を起こしていた。
時間にして数分、耐えがたい苦痛に見舞われた体は消耗しきっていた。
「・・・・・・・・・み、お・・・みお・・・・・・澪はどうなったの!?」
辛うじて発した言葉がそれだった。
「澪? あぁ、あの死体のこと? あの娘なら今頃、処理されてるんじゃない」
「・・・・・・処理」
その単語は人間に使われていいものではない。死体と言われた瞬間、私の中で何かがプツリと切れた。ましてや、私と仲良くしてくれていた友人にそんな、あっさりとした返しをされたことに静かな怒りを覚えずにはいられなかった。
「そ、あの場に置いておくのも余計な厄介事を起こしかねないし。 下手に使われでもしたら、あなただって嫌でしょ?」
さっきから彼女は何を言っているんだ?あんな状況下で私をここへ運び、冷静にこちらの質問に答えている。まるで、それが当たり前かのような態度に圧倒的な温度差を感じていた。
「いって・・・る・・・・・・言ってる、意味が分からない! それに、さっきのは何っ____!?」
泣きかけの顔で私は感情を込め、投げかけた。
「____ 《ネファス》」
聞きなれないワードを割り込む様に口にした少女。
「・・・・・・ネファス・・・?」
「夜の街に零れた魂や怨念、それに伴って引き寄せられた霊の総称。 普通、一般人には見えないはずなんだけど・・・・・・・・・」
少女は面倒くさそうに俯いてから顔を上げ、私の方へ視線を写した。
「あなたも視認たでしょ? アレがそう____」
彼女の説明は極端に削られ、最低限の事しか口にしない。ネファスというのは恐らく、私の脚に纏わりついていた朱色の触手の事を指しているのだろう。しかし、何故、彼女は触手を知っているのだろうか?そもそも、それを認識っていて当たり前かの様に会話をする、その精神状態に疑念を抱いていた。
「普通の人間はって・・・・・・じゃあ、何で私は____」
「それは私の理解の届く範囲ではないわ」
「そんな簡単に言われても、信じられないよ・・・・・・だって、澪の事だってまだ・・・・・・・・・」
無理もない言い分だと私は思った。朝まで普通に会話をしていた人間がその日の内に死ぬなんて思いもしない。
「そういえば、どうして私を助けたの____?」
「助けた? 私はただ、《目撃者》を確保しただけ」
「確保って・・・・・・どういう意味・・・・・・・・・」
それは私に向けられていい言葉ではないはずだ。
「文字通りの意味だけど。 あなたは、あの瞬間・あの場所にいた。 それだけで確保する理由は十分。 もっと、違う言い方も出来るのだけれど」
一方的な押し付けに抵抗する暇なく、その場に身を固めるしかなかった。私は助けられたのではここに連行れて来られたのだと悟った。確認するまでもないが目の前にいる少女は普通の人間とは違う存在だ。そうでなければ、路地裏の惨劇に説明がつかない。
そして、彼女が言っていた《ネファス》と呼ばれるモノの正体。未だ、覚醒ききっていない思考で断片的な記憶を繋ぎ合わせてみる。
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私は澪に頼まれていた物を購入し閉店間近まで待った後、メッセージを飛ばし帰宅することにした。生憎の人身事故でいつもの帰路を絶たれた私はそこで歩いての目的地到着を選んだ。その際に、あの事件は起こった。
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ここまでの経緯を整理した限りでは確保されるような行為はしていないはずだ。それでも、彼女言っている言葉には「それが当たり前」と言わんばかりの説得力と冷酷な眼差しが窺えた。
だとすると、確保しないといけない理由は私ではなく、彼女の方にあるのではないか?。
それに、おもむろに放たれたネファスという聞きなれない単語が関係してないとも思えない。むしろ、そっちが本命の可能性だってある。
「・・・・・・私をこのまま家に帰してくれるってわけじゃなさそうね」
強張った顔で質問交じりの独白を口にする。
「えぇ、あなたには____死んでもらうもの」




