#3
血液凝固が起こした足止めを気にも留めず、彼女だったモノへとゆっくりと近づいた。左手を通り過ぎ、右脚を横目に側溝にあったそれを一瞥した。注視することはとてもじゃないができなかった。今にも込み上げてきそうな吐き気と崩れてしまいそうな四肢を辛うじて立たせているだけで限界だったからだ。
整っていなければいけない筈のモノが上下左右ゴチャゴチャに散乱し、辺り一面が異臭に満ちている。
これはもう、後戻りできない何かに触れてしまったのだと瞬時に理解した。先程感じた不気味な存在。それがこの現状を引き起こした元凶だと理解するのに時間はかからなかった。現在進行形で感じる奇妙な異音が耳の奥に絡みつき、姿を見せずともその存在感は確かなものだった。
結局のところ、私は何もできないまま、ただただそこに居合わせた人間で何が起こっているのかも説明されないまま時期に澪と同じ道を辿るのは容易に想像できた。彼女が何故、ここにいたのかは恐らく私との待ち合わせ場所に少しでも早く着く為だったのだろう。遅くまで続いた委員会での遅刻を縮めようとこの路地裏に足を踏み入れた、その時、彼女の運命は決まっていたのだと思う。
私が行かなければ・・・・・・いや、行かなかったところで彼女はいずれにせよ私を信じてあの場所に向かったはずだ。せっかく、友人のこの惨劇に責任を見出そうとしたのにかえってそれを潔白の基にさらしてしまった。
「いるんでしょ・・・・・・・・・? 出てきなさい」
冷たい怒りが全身を覆った。
「_______殺してあげるから」
ハイライトの灯っていない枯れた瞳で私はその場を掌握する何かに告げた。殺意を抑える感触を初めて味わった。静と動が一気に押し寄せてくる抗いがたい条件反射。
だが____
_______ッ!?
次の瞬間、眼前に飛び込んできたのは滲み出る血液を重力の浮遊感で携え空中に飛ばされた左腕だった。咄嗟に自らの欠損を確認する。____痛みはない。
だとすると、あの腕は澪のものだろう。
ひと時の安心は人に大きな隙を作る。未知がいるこの場で動くはずのない腕が勢いよく飛ばされたというのなら、それが何かしらの行動を起こした事を意味していた。そうなれば、事は一刻を争う。目の前に広がるのは先の見えない暗がりで後方も同じようなものだった。
私はこの惨状を前にしても、俯瞰的思考を手放せずにいた。時間にして数秒、体感にして一分の静止をした後、意を決して駆け出すことを決めた。運動神経はいい方で疾風れば突破口を開けるかもしれない。微かな希望を見出し、脚に力を込め地面を強く蹴った。
しかし、靴が地面から数センチ浮いたところで私は走り出すという行動に移すことができなかった。背後に感じたあまりにも醜く混沌で奇怪な存在に身体の自由を奪われたからだ。
朱く艶めかしい生ぬるい感触が左足首を貪り絡む。
「ひっ____」
声を出そうにも恐怖が勝ってしまい思うように自分自身をコントロールすることが出来ない。そうしている間にも、締め付けは強くなり、ジリジリとアスファルトの地面に膝をつかされていく。
振り返ることはできない。振り返ってしまえば、全てが終ると思ったからだ。相手が何であれ、人間が到底、適うわけのない異形。
いつしか世界とから意識を遮断し、両目を閉じていた。
_______その時だった。
冷たい疾風が吹き抜け、次に聞こえたのは____
サッ_!
シュンッ_!
ズシャッ_!という何かが高速で風を切る音だった。
ベチャッ_ベチャッベチャッベチャッ____
_______ブシャアアァァァアアアァアアアアァァァァァアァアァァァァァアアァァァアアアァアアアアァァァァァアァアァァァァァアアァァァアアアァアアアアァァァァァアァアァァァァァアアァァァアアアァアアアアァァァァァアァアァァァ!!!!!!!!!
粘膜性のある物体が叩きつけられる音と水道管が破裂し液体が四散した時の様な音が突如、耳を突いた。
ふぁっ!っと瞬時に開いた瞳は何が起こったのかをすぐには理解できず辺りの状況を精一杯取り入れようとする。
そして、真っ先に視認できたのは黒い外套に身を包み、その華奢な見た目とは不釣り合いな鎌を携えた少女が立っていた。
「あ____」
声を掛けようとした体が左にブレ、貧血気味な目眩がした後、私はゆっくりとその場に倒れてしまった。
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「この死体、貴方の仕業?」
「まぁいい、どうせ、ボクっ____私には関係ない事だし」
「さてと、この娘をどうするか・・・・・・うん?」
少女は路地裏にいた第三者の存在を警戒しつつ、意識を失ったもう一人の少女へと歩み寄った。
そして、倒れた少女の背後には無残に切り刻まれ、血だまりの中で脈打ちながら奇声を発する肉塊がウネウネと意思なく動き続けていた。
_______ザシュッ!
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