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人は視認たものと思考たことを結び付け結論を出すのが得意ではない生き物だ。仮に思いを寄せていた人間がいるよしよう。もし、その思い人が別の誰か_異性と親しく、あるいわ一緒に歩いている場所を目撃する。そうすると、真っ先に思いつくのは彼氏・彼女の可能性。そう思うのが一番、自然で辿り着きやすい思考の終着点だ。
だが、それをどうにか否定したくて・・・そうじゃない・・・・・・思っていることが本当であってほしくなくて、平気で脳に嘘を吐く。逆に言えばそれは、真実を知った上で誤魔化しているに過ぎない人間の都合のいい解釈だ。
「自殺ならまだしも、誰かに殺されるのだけはごめんだな」
スマホの画面に視線を落とし、ぽつりとそう呟いた。
「うわっ、画像上がってる・・・」
淡白な文章と共に添付された画像はモザイク処理どころか、プライバシーの観点の欠片も見当たらなかった。このサイトはそういう所と分かっていても、こうして誰かの慣れの果てを見るというのは気分のいいものではない。惨殺死体と一括りにしてしまえば話は早いのだが見た所、そんな生易しい物には見えなかった。全身を何か鋭利なモノで抉られ、顔に至っては眼球が刳り貫かれ頬を伝った血が流れ零れていた。
ここまで悲惨な事件なら公にされていない事にもも合点がいく。被害者は私たち同じ女子高生で犯人が捕まっていない以上、不安の種が育つ一方だ。そのことで起こりうる二次被害は容易に想像がつく。事態を大きくしてもメリットはないし、話が拡がれば学校自体が休校になるはずだ。こういった、事件は警察に任せて、出来る限りの自己防衛をした上で日常を普通に生活するのが妥当だろう。
とんだ殺人鬼がいたもんだと私はため息交じりの呼吸をし、他の記事にも目を通した。
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《発見情報求:闇夜に紛れる少女》
《生体部品販売:郵送・引き渡し》
《情報買取者募集:天使になれるクスリ》
《消耗繊細繊維:年齢要相談》
《転売同行者譲渡:ラビラビ》
《個人情報交換:生死不問》
《愛玩動物急募:未成年可》
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多少の隠語で伏せられてはいるものの、ここで求められているのは快楽とその場しのぎの関係。ざっと見ただけでもこの手の募集はごまんと存在する。あまり、声を大にしては言えないが使い方次第、間違えなければ秘特典覧板は人生を有利に進めることの出来る術が数えきれない程、存在する。
私はただ目立たず、波風を立てないように生きていけたらそれで充分だと言い聞かせ、鞄にスマホをしまい、脳裏によぎった澪の顔と共に委員会をしている教室の方を見て下駄箱を後にした。
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帰路はいつもと同じ道、いつもと同じ歩幅で歩く様にしている。見慣れた風景は自律神経を整えるいい薬だ。
私の横を他行の女子生徒が横を通り過ぎて行く。制服から察するに天嶺高校の生徒だろう。一般入試は無く、特別な人間からの推薦のみで入学を許されている都内屈指の進学校。
「はやく、はやくー! 急がないと無くなっちゃうよ」
「ちょっと、待ってよ~って、アレ?」
「私、先に行ってるからね!売り切れてないといいけどー?」
「・・・あの子どこかで・・・・・・あっ、ちょっとーひどい~っ!」
厳格な印象が強い反面、彼女たちのやり取りを聞くに、そんな感じは一切しなかった。小走りに浮足立った様子で駆けてゆく彼女たちの顔はどこか楽し気でとても、あの天峯の人間だとは思えなかった。
「今日って、何かあったけ?」
ピンッ_!
不意にスマホの通知音が鳴り、背筋が跳ねる。
《私、絶対行くからね!!! 用事済ませたらそっち行くから待ってて・・・出来れば、コレ買っといてくれたら助かる・・・・・・な? 貸し一つでもいいから!》
メッセージは澪からだった。
「あぁ、そうか」
前々から話には聞いていたが今日は澪の好きな《Rabbit・Rabbit》の専門ショップのオープン初日だった。手のひらサイズのカラフルなウサギのソフビフィギュアでブラインドパッケージな事もあり、目当てのカラーが出るまで買う人もいれば、友達同士で交換する場合もあるという。
「____って、何で私が先に行ってることになってるの!?・・・・・・・・・はぁ」
これは澪から私へのいわゆる、友情接触だ。彼女の強引さは今に始まった事ではない。むしろ、前より酷くなってる気がする。
でも、私は彼女の時折見せる今ここではないどこか遠くを見る瞳と表情を____。
だからかな、少しだけこの友達ごっこを本当にしてみたいと思えたのは。
「お店はここからすぐのところか」
わざわざ、送信されたメッセージには店への進路と商品の画像が添付されていた。数分歩いたところで該当場所に到着した。円柱状の建物で窓は全面 硝子張り。外から中の様子が確認でき、様々な施設が併設して設置されている。オシャレなショッピングモールといったところだろうか。
中に入ると、照明の光が磨かれた床のタイルの反射し眩しさを覚えた。清潔感のある白色のそれと、アンバランスな色鮮やかな店の数々。澪の言っていた店は三階に位置し備え付けられた螺旋状の階段を上る。
「ラビラビ!」
ショップの前まで来たところで視界に店員と思しき女性が勢いよく現れ言葉を放つ。思わぬ不意打ちにビクッ_!とした心臓。
「お客様、ようこそいらっしゃいました!こちら、Rabbit・Rabbitの専門店、ラボラビです!どうぞ、ごゆっくり見て行ってください!」
元気な店員に促されるままに店内入った私は澪の言っていた限定ラビラビフィギュアを取りあえず探してみることにした。見渡す限り、どこもかしこも同じようなグッズで目眩を覚える始末。
ピッ_!
スマホで決済をし、友人から頼まれていたウサギのフィギュアを購入する。
「これとこれって、何が違うの?」
似たり寄ったりのソフビを手に取り違いを探るが色合いは愚かポーズまでも完全に一緒で私には澪のいう魅力とやらが分からなかった。
「・・・・・・って言ったら、絶対怒るだろうなぁ」
一通り見まわった後、他の店に寄ったり、休憩所で時間を潰したりして澪の到着を待った。そうこうしているうちに時刻は十九時五十分。ここの閉店時間は二十時で後、十分しかなかった。
どうやら、澪の委員会は長引いているらしい。私にメッセージ送って以降、未だに連絡がない。彼女の性格上、約束を反故にするとも思えない。残り数分しかないが店が閉まるまでは待つことにした。
しかし、閉店時間が過ぎても澪が姿を表すことはなく残されたのは友人の我儘に振り回されたあげく、良く知りもしないウサギのグッズを鞄に入れた少女一人。外は暗く肌寒ささえ覚える始末に「____何で私が・・・・・・・・・」と吐き捨て帰りの道を歩き始めた。
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《お店閉まったから、帰るね。頼まれてたやつ買っといたからまた明日渡す》
文章の続きに《また今度一緒に行こう》と繋げようとする指を意思で静止させ、最低限を送る。
「この時間だと____えっ」
どうやら今日は巡り合わせが悪いようだ。スマホに表示された電車の時刻表には人身事故の為、運転見合わせの表記があり復旧の目処は今のところ立っていないらしい。店に寄った事も災いし、帰宅が何時になるか完全に分からない。公共交通機関を使うという手もあるが皮肉にも生命線の充電は切れ画面は暗転の一途を辿っていた。
そして、一番事態を大きくしているのが手持ちの有無だ。スマホが機能を果たさない以上、あらゆる決済が封印されたことになる。
となると、歩いて自宅まで帰るのが一番、基本な考えだろう。
「全く、何で私がこんな目に・・・これで貸し一つじゃ、わりに合わないじゃない」
ぶつぶつと文句の様な独り言を呟きながら歩く道は暗く街灯によって作り出された影が不気味に揺れる。普段なら人気の多い通りの方を選んで帰るのだが、いかんせん家に着くまでの時間に大きな差があるのは明確だった。だとしたら、外的要因を負ってでも早く帰れる方を選んだまでだ。
例の殺人事件が脳裏によぎるのはごく自然な生理現象だ。身を護る意味でも少しばかり脳の供給をそちらに回してもいいだろう。
路地裏の細い道に一歩足を踏み入れると空気が一変した。鼻を突く錆びた鉄の臭い、日中の日の光が一切当たらないここは冷たく静かで人気が一切感じ取れない。反響する足音が空気中に溶ける。
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(・・・・・・はぁ、早く帰りたい)
落胆し肩から脱力した私は壁に手を付き深く息を吐いた。呼吸の調子を整えるのえるのには丁度いいタイミングだ。言ってしまえば路地裏は静かで誰の視線も気にならない完全に日常とは切り離された隔離世界だ。それでも、好んでこんな所にいたいとは思わないんだけど。「そんなこと考えるより早く帰ろ・・・・・・・・・」と苦笑いを浮かべ再び歩き出した。
その時だった、見上げた視線の先で何かが蠢き、それと同時に足元に感じた違和感。
「____なにっ!?」
グチャリ_ッ____!
(うっ・・・!)
ローファーの重みとも重力の圧とも違う、足先から太ももまでを縛られている様な歪な拘束。
さらに、靴底に水とは言い難い粘り気のある感触。側面までをも覆う不快感が次第に足首までも硬直《侵食》した。
「____ッ____!」
気味の悪い出来事に夢であってほしいと思ったのはこれが初めてだった。頬をつねれば夢から覚め、気づけばベッドの上で汗ばんだパジャマ姿の自分が荒い呼吸をしながら意識を覚醒させているはず____むしろ、そうであってほしい。
だから、無意識のうちにソレから逸らしていた瞳に気づかないフリをしていた。
心臓が沸騰する程の行き場のない思い。
(震えてる・・・・・・・・・?)
上腕から指先までが微かだが小刻みに震えていた。未知なる恐怖への体の拒絶反応。憶測として思考が処理してくれていた視覚的要素。望まない現実《事実》を自ら受け入れることはないだろう。
それでも、可能性が有るのなら喜んで眼前の光景を瞳孔に焼き付けよう。
だから____だから_______だから______________
だからあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ________________っ!
「嘘だって言ってよっ____!!!」
酷い怒りと悲しみの感情が交差して情緒を掻き乱していく。右脚に込められた力が前へ進むことを拒否する。それ以上、進んではいけないと・・・・・・これ以上、視界にソレを入れてはいけないと。
でも、それでも、私は_______
_______友達として傍に居てあげたかった。




