#34
それが肉食か草食か、何てどうでも良かった。歪な生命体の生態系なんかに興味は微塵も無い。ただ、視界に入れるには気色が悪く、皮を剥がされた様に艶めく朱色の外観。意思が有るのか無いのかも分からない、醜い集団。
その中心で断末魔を上げながら、身体の至る所を食い千切る歪音が聞こえる。肉を裂く音、肉を破る音、肉を噛む音、不快に思えるありとらゆる全てを詰め込んだ行為が目の前で行われていた。
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____数分前
異分子の登場に最初は動揺していた狂兎だったが、私を獲物から天敵と再認識したのだろう、中華包丁を投げ捨てた彼女には、零祓を切断しようと楽しそうに高ぶっていた姿は無かった。
あるのは、退屈そうに面倒くさそうに手に持ったナイフをブラブラとさせ、ブーツのつま先を地面にぶつける仕草。
一方的に貪り尽くせる相手であることに意味があり、好き勝手に出来ない私は例外と認定されたのだ。
「それで? 他人の武器で何をしようっていうのかな?」
先に口を開いたのは向こうだった。
右に倒した首とそれに伴い、傾く身体。相手を舐めているのは分かる・・・・・・・・・だが、決して油断はしていない。ナイフを握った指の一本をブレードバックに添わせ、上腕から前腕までを一つの武器として成り立たせる。
無言。ただ、静かに息を殺して相手を殺す。瞬きを数回、呼吸を数秒、そして_______殺意を刹那に。
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勝敗は決した。
あんな低俗に手を煩わされるわけがなかった。軽々振り払った、刃の先端が音を置き去りにしていた。
デスサイズは最初の抵抗以降、大人しく私の鞘に収まってくれた。
「野生の火竜を手懐ける方がよっぽど難しい」
そんな、見たことも出会ったことも無い、存在するかも分からない、高知名度の生物を引き合いに出して苦笑いを浮かべた私。
____え
(わたし、今なんて言った?)
自覚のない発言に違和感が纏わりつく。
(能力を使ったから?)
と、そこまで考えた矢先で静寂に立っている私に気づいた。
置き去りにした下半身をそのままに、地面を這いずる存在に。
「・・・うっ、ぐッ_! ・・・お・・・・・・おま・・・え・・・・・・・・・」
冷たい。
何も思わなかった。
いつしか、周囲は死臭に引き寄せられた無数の肉塊で埋め尽くされていた。
「っ_!」
引きつった顔に恐怖を浮かべ、拒否反応を示す狂兎。状況は絶望の一言だというのに、潜在的な意識は彼女を正常に引き戻そうとする。
「その身体じゃ、まともに動けないね? このまま、放置したらどうなるか____」
(____さっきから、わたしは何を言ってるの?)
発言・声は私そのもの。
「・・・許さない・・・・・・! こんなことし・・・てっ_!、ただで済むと____」
恐ろしい程の生命力で暴れる半身。私を睨みつける明確な殺意。
そんな生存本能に対し、現状は相反するものだ。バケツ一杯の水を床にひっくり返した時の様にドボドボと内臓・血液・老廃物を地面に撒き散らし、最後の足掻きが私に近づく。
しかし、そんな些細な生存本能は無垢な純粋悪によって手折られてしまう。
狂兎は迫る死の足音に僅かに息を吸い込んで____
「は、ははははッ____!? そういうこと・・・はは゛・・・・・・ねぇッ_! あんたは、いつまで・・・こん・・・な・・・・・・・・・こと、続けるつもり・・・?!」
気が狂ったのか、狂気の中に彼女の素が見え隠れしていた。私は圧倒され、投げつけられた問いに沈黙を貫く。
「あ~ぁ・・・だんまりかぁ~・・・・・・いいよいいよ、それならべつ・・・に・・・・・・」
残念そうではない。むしろ、喜んでいる様に見えた。
「いい_!? あんた・・・はいつか、必ず・・・・・・・・・後悔するッ____!! 何も知らずにこんな事を続けたことを・・・・・・ね・・・_______」
いい気味だと表情で言われた気がした。
でも、彼女のその意図を理解する気はなかった。
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____現在
殺人狂の姿を覆い隠す程のネファスの群れ。勢いよく飛び散った血液。彼女を依り代にしていた存在が現れ、心臓から粒子を抜き取ってゆく。この後に何が来るのか私は知っている。
赤黒い雨が降った。
金切り声を上げながら、降りしきる生暖かさを浴びるネファスの群れ。
私は振り返って駆け出した。




