#31
迫りくる激痛に瞳を閉じて現実からの逃避をする。
「うぅ・・・う゛っ____」
____どうやら、逆効果だったらしい。
五感の八割を占める視覚を機能停止させた事で、それ以外の感覚が研ぎ澄まされ、暗闇の中でさえも自分の置かれている状況が嫌でも脳内に侵入ってくる。
「かはっ゛____!」
強打した身体が反発し、反射的に唾液を吐いた。ほんの一瞬、意識が飛んだ。背後には砕けた瓦礫が散乱し、内部から鉄筋を露出させる。
だけど____
(____痛みが無い?)
(____なんで?)
(____どうして?)
(____麻痺しているの?)
不思議な事に身体は良好で現状の把握を行おうとしていた。
不意に触れた唇に残った零祓の余韻。
理由を事情を正解を知りたい_ただ、それだけの欲求が再度、彼女への接近を促す。
ビチャッ____!
立ち上がろうとした私の身体に右上から左下にかけてスラッシュが刻った。微かに生暖かく、じんわりと広がったそれは衣服の生地へと滲んでいく。
同時にサバイバルナイフが転がってきた。
「____なにっ?」
手に取ったソレは直前まで使用されていたのか刃先に、ベットリと粘り気のある液体が付着しドロリと垂れた。
「____きゃっ!」
思わず投げ捨てた鋭利は不規則に光を反射させながら側溝へと落ちえていく。
____カアアアアァァァァァンッ!
____キイィィィンッ!
風に乗って轟いた金属のぶつかり合う音。
視界を一気に奪った土煙。片腕で顔を隠し僅かな隙間から前方を見据える。
「くッ____!!!!」
「____零祓っ_!」
聞き馴染みのある声。姿の見えない、彼女の名を必死に叫んだ。声色からして、戦況は不都合ものだと直感で察した。
(・・・・・・まだ、近くにいるはず____!)
得体の知れない未知に自らを寄せる行為。躊躇いが無いわけじゃない・・・むしろ、躊躇いの方が思考の優先権を取っていた。
(____そうか_______)
だけど、今は違う。
私には彼女が着いている。
(____見つからなければいいんだ)
肌を包み込む様に覆っていた外套。
この状況を打破できるのは私だけだ。
零祓に近づき、再度、認識対象として視認できる距離まで歩みを進める。何も難しい条件はない。
後は、私という一人の人間の行動次第で____。
(____さっきから音が消えてる?)
思考回路がうるさく気付かなかったが、頻繁に聞こえていた戦闘音は沈黙を告げていた。
(____この静けさは何? 零祓が敵を殺し・・・・・・・・・倒した____?)
徐々に鮮明になる視界に伴って、姿を現わした二つの人影。私は零祓と対峙する人物に存在を悟られぬように慎重にビルの隙間に身を隠した。
「あの髪・・・・・・」
路地を吹き抜ける風に薄ピンクの髪をゆらゆらと遊ばせる見覚えのある風貌。息を呑み、思い起こされる非情な行為に震えだす精神を支える。
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「ラビラビッ_!」
静寂を割ったのは、そんな場違いな挨拶だった。
(・・・・・・今のどこかで____)
不確かながら、確かな覚えのある発音。
「何?」
「もぉー、ノリ悪いなぁ・・・・・・・・・。 というか、やっぱり死んでなかったんだ____ 残滓が手に入らない時点で察してたけど・・・流石、死神って呼ばれる契約少女だね♪」
(契約少女・・・そう呼ぶの・・・?)
「____」
「お腹を裂いたのに、その回復力・・・・・・かなり高位い治癒魔法・・・・・・・・・あるいは_______」
_______【《契約破棄》】でしょ?
「でなきゃ、あれ程の致命傷を覆す方法なんてありえないよね? 本来、死んでるはずだし」
(また、私の知らない言葉を____)
「私的には無茶苦茶やっても、壊れない愛玩動物がいるってだけで幸運だけどっ____!♪」
言葉に乗せて、薙ぎ払った一本のナイフが空気を切り裂いて零祓の左頬を掠める。その場から動かず、首の可動のみで交わした死神に相手の少女は顔色一つ変えず、不敵な笑みを浮かべた。
「あなた、切断姫でしょ?」
(切断姫っ__!)
空気が変わった。ドンッと重力が一段階上がる様な圧迫感がその場を掌握する。
「だったら、殺す____?」
「さぁ、どうかしら?」
「なぁにぃ〜? その生かすも殺すも私次第って言い方? それじゃあ、私が弱いみたいじゃない・・・・・・」
芝居くさく落ち込んで見せたり、伏目で相手の反応を愉しむ少女に死神は携えた鎌を強く握る。警戒は怠っていない証拠だ。
「別に弱いなんて言っていないわ。 その軽装でよくもまぁ、百人も殺せたものね____? 一体、契約して何夜なのかしら____」
(ひゃく・・・にん・・・・・・)
「へぇー、他人に無関心の死神さんにまで私の噂が届いちゃってたのかぁー♪ もしかして、私を調べる理由でもあったのかなぁ~?」
キラキラと瞳を輝かせ両手で祈る様にポーズを取り顔を傾ける。あからさまな態度に微動だにしない零祓。そんな姿を見て、切断姫は冷めた瞳で小さく溜息を吐く。
「見た目はお互い様じゃない? いつもの、フードはどうしたの? 洗濯しちゃった? 失くしちゃった? それとも、誰かに貸してるのか、な?」
「殺人鬼には関係のない事よ。 これ以上、私の邪魔をするなら容赦しない」
冷静さを欠いていないように見えてはいるが、外套の話題が出た瞬間、零祓の口調に微弱な揺れを感じた。
「もう少し、お喋りしてくれてもいいじゃん? 私、可愛い女の子と話すの大好きなんだけどなぁ・・・・・・ネファスばっかり狩るのって単純作業でつまらないぃー・・・・・・・・・そう思うでしょ?」
ね____
_______【都立 天嶺高校 二年-Aクラス 夜ノ舞 零祓ちゃん!】




