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黒少女  作者: 真冬 白雪
第4章 ❖_『契約少女』

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32/37

#30

 「えっ・・・と・・・・・・そういう意味で言ったんじゃなくて_______」


 悪気があった訳じゃない。むしろ、気づかって____。


 「分かってる」


 言葉を続ける彼女。


 「それに、私だって血を見るの怖いよ・・・・・・? 自分のだって、躊躇っちゃったりするし・・・・・・・・・」


 「そう、なの?」


 「なに~? その意外って顔は・・・」


 「いっ、今のは・・・! 深い意味とかなくてっ・・・・・・! 私がそう思い込んでたっていうか・・・・・・・・・あっ____」


 薄っすらと含みのある微笑《えみ》と共にジリジリと這い寄る零祓に寒気と恐怖心を覚え後ずさる。

 だが、彼女と私の移動距離は一定で一向に進展がなかった・・・・・・・・・。


______________________________________


 外灯代わりに雲の切れ間から差し込む月の光が青白いサーチライトの様に時折、道を照らす。幸い、道中でネファス・敵対存在(契約者)に出くわすことはなく、安全に進行することが出来た。

 その際、私はちょっとした興味を頭に浮かべながら歩みを寄せる。


 「ねぇ、聞きたいんだけどさ」


 「何?」


 前を行く少女がくるっと振り返る。


 「あの日、零祓は私を殺そうとした____《目撃者》として。 そういうのを《クチドメ》って言うんだよね?」


 詰まることなく、しっかりと伝えたい内容を口にしていく。


 「そ、《クチドメ》。 本来、《目撃者》は即座に始末《ころ》すのが妥当だからね」


 マニュアル通りの回答。


 「でも、零祓は私を助けてくれたよね・・・・・・本当なら私も澪と同じであの場所で_______」


 それは、起こるはずだった結末《じじつ》。

 本当に聞きたかった事は別にあったけど、成り行き的に、ここから聞くのが無難だろう。


 「あの時、私が拾ってあげなかったら、今頃、『麗にゃん』は殺処分されちゃってたかもね~」


 「変な呼び方やめッ____! それじゃあ、まるで猫みたいじゃない・・・!」


 「飼い主さんが見つかって良かったねーヨシヨシ~____」


 っと、苛立つ私の顎下を撫でる零祓。


 「引き換えに代役してもらってるけど・・・・・・・・・生命《いのち》に比べたらって思わない?」


 「・・・・・・そう言うのって、受け取り手の気持ちが尊重されるべきだと思うんだけど____?」


 「____・・・でも、痛いのは嫌でしょ?」


 思い出される腹部の酷痛。治癒によって外傷《キズ》跡、痛みは完全に消えていたが感覚は今もなお、脳内映像《イメージ》として鮮明に呼び起こされる。咄嗟に両手でお腹を押させ身構える私を「____大丈夫だよ」っと、優しく包む彼女の抱擁(温もり)。


「・・・・・・思い出させたのそっちじゃん・・・・・・・・・」


 不貞腐れながらも、夜ノ舞 零祓という拠り所に身を委ねる終繭 麗亡という寄る辺。


 「____こんな所、誰かに見られたりしたら・・・・・・・・・」


 「____それは大丈夫だよ。 ここに来た時からずっと《索敵》を張り巡らせてたから。 それとも、別の意味で何か心配事でもあったのかな~?」


 「____はっ! 違うし!」


 「____ごめんごめん。 ちゃんと、分かってるって・・・ふふっ。」


 「____こんな時に何考えてるの・・・全く! ・・・・・・・・・じゃあ、さっき襲われたのは?」


 「____ワ(・)ザ(・)と(・)だよ」


 当たり前と言いたげな口調で言い切った余裕。


 「遭遇《エンカウント》は想定外だったけど、あの瞬間《とき》は、ああするのが一番最適かなって思っただけ」


 「じゃあ・・・敵がいるのを知った上で?」


 「弾丸は音速を超えてた。 けど避けられない程じゃない。 ただ、あそこで私が斬らなかったら____」



 _______【麗亡、死んでたよ】



 淡白に語られる事象に瞳孔の収縮を覚える。


 「その後のやり取りだって、私に都合がいい様に行動《うご》かしてたんだけど。 初めに仕掛けてきたのは向こうなんだし、多少の融通は利かせてもらうわ」


 「・・・・・・心理戦____」


 「心理戦って・・・そこまで大層なものじゃないって・・・・・・強いて言うなら、契約者故の慣れ」


 (____まただ、また、零祓はそんな表情《かお》をする)


 見え隠れする本質。


 「零祓はさ____いや、いい」


 卑怯だって分かってる。こういう言い回しは他人の気を引く上で最も効果のある手法だ。

 だから、ワザと遠慮がちに振る舞って見せていても所詮は演技(嘘)。契約者として対等な立場を形成できないというのなら、私は人間《ヒト》としての最大限を活かす。


 「そこまで言ってやめるのって卑怯じゃない? なんか、ワザとそ(・)っ(・)ち(・)の(・)方(・)に仕向けてない?」


 (_______ッ!)


 高所から急降下した時の、あの体全体が宙に引っ張られるような感覚が襲う。


 「・・・・・・別にそんなんじゃ、ない・・・よ?」


 苦し紛れの言い逃れ。こんな事で誤魔化せるわけがない。むしろ、この返答《はんのう》こそが思惑を確実なモノにしている。


 「はぁ・・・・・・自分でもわかってるでしょ? そう言うか返しが一番、愚策だって」


 「____」


 思わず口を閉ざしてしまう。そして____




 _______ 人間《ヒト》を殺した事ある?

 



 関係性を壊滅に追い込む質問。

 【殺す、殺すよ、殺すね、殺してやる、殺したい】、それは知名度・使用頻度共に人が最も軽はずみに口にする実行力の可能性が限りなく皆無の動詞。


 私の質問に一瞬驚き顔を曇らせた零祓。数秒の沈黙を経て、開かれた口。


 「_______私は」


 言ってほしくない。言われなければ、有耶無耶《シュレディンガー》でいられるから。


 「零祓っ、わたし____」


 口を塞がれた。それも、人差し指で「しーっ」っとやる様な優しく夢願望《ロマンティック》なモノではなく・・・・・・・・・手のひらで強引に・・・・・・私の身体を弾いた____。


 は?


 理解が追い付かない。


 抗えない。

 

 風の速さで目線の横を過ぎ去ってゆく風景《けしき》。数秒後には、どこかの人工物《アスファルト》へとぶつかり、体を激しく損傷するだろう。その程度で済めば、まだいい方だ____。


 疑問(なんで?)と結果(どうして!)、瞬きさえも許されない隙間の時間。

 離れ行く物理的距離の中、私は視界に入った零祓の口元を精一杯になぞった。








 _______生きて。


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