#29
交わす想いも、向ける目線も、全てを偽らないなんて出来やしない。それでも、今の私には彼女以外に信じる事の出来る存在がなかった。
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_______幼い頃、私は莫大な財産と権利を保有する数少ない名家の一人娘として屋敷に暮らしていた。
年中通して気持ちの良い気候、動植物の豊かな自然は生まれつき身体の弱かった娘の療養には打って付けの立地だったそうだ。周辺は全て私有地で人気のない《孤立した巨城》_そう呼ばれていた。
一つ一つの部屋が広く、内部の至る所に豪華な装飾が施され、父と母の三人での暮らしには十分すぎる程だった。自室から玄関に行くにも距離があり、よく息を切らしていた。来年には小学校への入学が控えている為、体力不足を補う意味では丁度良かったのかもしれない。
けれど、母親譲りの不可逆な特異体質だけは枷にならないか心配だった。
((麗亡お嬢様、ご気分はいかがですか____))
((よくお似合いですよ。 旦那様にお見せするのが楽しみですね))
両親共に多忙で海外出張が多かった事もあり、屋敷では常駐した使用人達が身の回りの世話をしてくれた。私は家族が居ないことを不満気に話したのを覚えている。そんな私を優しく宥め、話を聞いてくれた。
それは、【安定した精神の拠り所】だった。
少しの時間であったが、あの時、彼女がいなかったら私は夜以外でも泣いていただろう。
そんな、日々を一年過ごした頃_______
____父が死んだ。
入学式で着るはずだった制服は喪服の参列者の中に溶け込み、冷たい雨に体を打たれた様な寂しさがあったのを覚えている。
気持ちの整理がつかないまま葬儀に列席した私は幼いなりに周りの空気を察し、静かに時間が過ぎるのを待っていた。
母は感情をあまり表に出さず、伴侶の死を気に掛ける事も涙を流す仕草も無く、すぐに仕事に復帰した。酷く無関心で何を考えているのか分からない人。
そうやって、周囲の環境に気を張り巡らせているうちに私は部屋から外へ出られなくなった。
精神面で強い負荷を抱えていたのは私の方だった。
タイミングを見誤った私に友達なんて出来るはずがない。数ヶ月遅れの入室は、それだけで負担になる。仕方のない事だと分かっていても、教室で孤立する感覚は良いものではない。腫物を扱う視線と話し声、頭の中に木霊する払拭しきれない柵が形成られていった。中身のない学生生活に期待などしない。私はただ、名家としての品位を保るようにと強制されてきたのだから。
皮肉な事に父の残した財産目当てで私に近づく人間は少なからずいた。慣れたことだと分かっていても作られた優しさ・偽りの忖度が見え隠れする。
家に帰れば、いつもと変わらない日常があって_______。
高校に入学する前、私は母と進学の件で喧嘩をした。自分で言うのも何だが、学力に不安は無く、進学先で悩むことや妥協するという考えは一切なかった。
しかし、興味本位の背きが予想外の事態を引き起こした。
強く引っ張られた髪の毛の痛み・跡が残る程、握られた腕先・胸ぐらを掴まれる経験。抉る様な言葉の数々が私を壊していく。
酷く傷ついたのは覚えている。
そうして、自暴自棄になった私は_______
____あれ?
____この後ってどうしたんだっけ?
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「麗亡? おーい、れいなーどうしたの?」
「・・・・・・・・・」
「れいなー・・・・・・・・・?」
「・・・・・・っは!」
懐かしくも思い出しくない日々の情景と、現在進行形で蟠りのある母との関係性が意識を完全に遮断していた。
もし、・・・・・・・・・あのまま、続きを思い出していたら_______。
「何かあった? 気分悪い・・・?」
「気分は・・・・・・悪くないわけないけど・・・・・・・・・今の事とは関係ないから、気にしないで」
ネファス・敵の少女。容赦のない暴力。
私が直面しているのは____【生命活動を停止させる為の単純な殺し合いだ】
「そう? じゃあ今日は、この先でネファスを狩ったら終わりにしよ」
「うん」
時間にして一時間も経っていない。それどころか、奇襲による手間で実際に狩れた数は十匹程度。普段を知らないから、勝手なことは言えないが、零祓が私の体調を気にかけているのは明白だった。
「そう言えばさ、零祓って《死神》って呼ばれてるんだね」
「・・・・・・嫌な呼び名よね」
「・・・ごめん」
「別に謝る事じゃ・・・・・・・・・今はこんな見た目だけど、普段は外套姿に鎌でネファスを狩ってるわけだから、そう呼ばれるのも仕方ないよ」
そう言って、零祓は白のワイシャツに黒のサスペンダースカートの肩ひもを右手で張って見せた。確かにその見た目なら、咲凜に鮮明と言われていた意味も理解できる。
「傷は大丈夫なの?」
白い生地は彼女の血液を吸い込み四方に滲んでいた。
「心配してくれるの? _______優しいね」
「いや、だって・・・・・・ソレ・・・肩、貫通してるよね____痛くないの?」
口に出して言う事なのかと疑問に思いつつも、私が話に出さない限り零祓が触れる気配を感じなかったのだから仕方がないと自分に言い聞かせた。
「流石に痛みはあるよ。 ただ、もう慣れちゃったかな____」
作った笑みで返答をする姿は寂しそうでもあり、人間でない存在である事への諦めを感じさせる。
「止血ぐらいはした方がいいんじゃない? ネファスって、血の匂いに寄って来たりするかもしれないし」
「う~ん、どうだろう・・・私がネファスを見つけた瞬間は殺してる時だから、よく分からないんだよね・・・・・・」
「一応聞くけど、その時って返り血とかは・・・・・・」
「それなりにかな、お陰でシャツを新調しなくちゃいけなくなったけど・・・・・・ほんと、血って嫌だよねー」
「はは・・・そう、なんだ。 これからは極力、血は避けて____」
年頃の少女がする話じゃない・・・!
内心、思いっきりツッコミを入れたくなる気持ちを抑え、零祓の言葉を_______
_______契約者である以上、それは避けられないよ。
そう呟いた、彼女の瞳は硝子玉の様に透き通り、月の冷たい輝きを反射していた。




