#22
上履きからローファに履き替え、外に出る。
涼やかな風が髪をさらい、瞳はそれの行方を追って空に視線を移す。
見えるはずのない、自然現象に意識を向けながら校門までの道を歩き始めていた。普段なら、こんな微動作をする様な性格ではないのだが・・・・・・。
それもそのはずだ、無事にこの一日を切り抜けることが出来たのだから。
「ひとまず安心かな?」
何気なく、そっと呟いてみせた。後は零祓の住むマンションに帰宅するだけ。ほぐれた気持ちが眠気を誘い、着慣れない制服の襟元を緩める。
「帰って寝よ・・・というか、零祓って本当にクラスメイトと関わりないんだね・・・・・・私も人のこと言えないけど」
似た者同士ってわけじゃない、けど、彼女と私には外見以外にも共通点がある気がした。価値観・性格・趣味嗜好・その他諸々、挙げ出したらキリがない。でも、何かしら好みが一致するものがあってもいいのかもしれないと浅い思考を働かせていた。
「とりあえず、今日あった事をメモっとこう。 零祓が通い始めた時に辻褄を合わせないとだし」
ポケットに入れていた生徒手帳を取り出し____
「これ、あの子のだ____」
それは、昼休みに購買でぶつかった少女の生徒手帳だった。
「まだいるかな・・・? と、言っても学年もクラスも分からないしなぁ・・・」
一応、職員室に預けるという考えはあった。あったのだが、私は職員室が苦手だ。だから、一瞬だけ脳裏をよぎったその考えを意図的に無いものとして別の手段を考え始めた。
____~♪~♪~♪
風に乗って微かに耳に届いた歌声。
気持ち良さそうに校舎を舞う音色の発生源を探す。見慣れない街を探訪する様に、はたまた観光地を散策する様に好奇心に腕を引かれるまま私は歩き出していた。
そうして、徐々に近づきつつある音に感覚で校舎を見上げてみた。
(____屋上で歌ってたんだ・・・うん・・・? あの子っ__)
はっ!っと目を見開いた私。それもそのはず__。
(____生徒手帳の子だ)
今なら直接、返せると考えた私はもう一度、彼女の姿を視界に収めてから駆け出した。
靴を履き替え、階段を上り、二階まで到達した。ここから上は三年生の階層だ。そして、屋上はさらに一つ上。目的地までの道はここしか存在せず、行き違いになるとは考えにくい。だとすれば、ここで待っているのが最善策・・・っと思うが三年生のフロアに長居するのは気が引け、日光が届かず薄暗くなった最後の階段をゆっくりと踏みしめ、扉の前まで来てみた。
そろりと、ドアノブを回し一センチ程の隙間から外を確認する。
(・・・・・・いるよね?)
何だか怖くなった。歌声は聞こえないが確かに人の気配は感じ取れた。
「「今日は_____きましょうか」」
「「____ですね」」
「「大丈夫ですよ。 これでも私____」」
はっきりとは聞き取れないものの誰かと会話をしている。
(他に人がいるのか・・・今、出て行くの嫌だなぁ・・・・・・)
後一歩進むだけで解決するはずの事案を遮める第三者の存在。
(相手が誰か分かれば楽なんだけど・・・・・・よっと____)
もう少し様子を窺おうと近づけた体。扉に掛けた重心が均衡を失い、私を強引に前へ前へと押し進ませる。
「____はっ?」
この時の私の顔は絵に描いたような、キョトンとした顔だったに違いない。起こった出来事を受け入れるよりも先に、広大なアスファルトの床が姿を現わしていた。




