#17
高層階から一気に下層まで降りるエレベーターの作動音を耳にしながら、眼前に広がる街並みを見ていた。こうやって、じっくりと景色を見たのはいつぶりだろう?私の日常と言えば、家と学校の往復のみで休日もこれといって遠出をする様な性格ではなかった。
一階に着き、私はマンションを出ると振り返った。昨日はいきなり、最上階の部屋に連れて来られ話でしか聞いていなかったが改めて見る全貌に何倍もの衝撃を受けた。
「ほんと、どうやってあの生活を送っているのやら・・・・・・・・・」
零祓の《朝の生活》と《夜の生業》、あまりに真逆を生きる彼女は何を以って、その人生を受け入れたのだろうか。謎多き少女への言及は今後も行っていくとして、まずは天嶺への対抗策を保つ方が先決だろう。
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駅に着くとホームに女子学生が立っていた。
(あの制服って・・・・・・)
それはかつて私が通っていた高校の制服だ。かつてと言うには少しばかり期間が早すぎる気もするが。
「うっ・・・____」
一秒にも満たない視界のズレが立ち眩みを引き起こす。景色に残像が入る様な奇妙な現象。額に手を置き、左足を後方にズラし体勢を取った。
(疲れてるのかな・・・・・・・・・?)
俯けた頭で症状が治まるまで目を瞑る。若干、不調気味の身体を労わりながら、取り出したスマホには零祓からのメッセージが届いていた。
《麗亡、私の代役引き受けてくれてありがと。 私も早く傷を回復できるようにするね》
彼女らしくない、真面目な文面に少しだけ口元に笑みが浮かぶ。
ほどなくして、電車がホームに入った。駅から学校までは数駅と通学には丁度いい距離だった。
他人の生活を自らに投影している様な感覚が未だに消えなかった。それも当たり前だ、ほんの数十時間前までは私は、どこにでもいる女子高生の一人に過ぎなかったのだから。完全に染まってしまったら私はどうなってしまうんだろう?
(いやいや、それはないっ____!)
強く閉じた瞳で被りを振った。
「「____夜ノ舞さん?」」
車窓から見える景色を眺めていると、どこからから声が聞こえた。
五秒ほど、聞き覚えのある名前だなぁっと漠然に思っていたが、それからすぐに自分の事を言われているんだと気付いた。
(・・・・・・噂されてる? でも、話を聞く限り、あまり交友関係はないって言ってたよね・・・・・・だったら、一体?)
声の聞こえた方に振り返るか、それともこのまま無視を決め込むか____。結果、私は後者を選択した。
そうして、張りつめた緊張を保ったまま解放の瞬間を待った。
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電車を降りて駅を出ると、天嶺の制服に身を包んだ学生が学校へと歩みを寄せていた。その流れに紛れる様に私は平常心を装い、身を潜めた。
____乾いた風が頬を掠める。
____指先に感じる微かな怯え。
____地面を踏む感触が無い。
精神的に大分、来ていたんだと思う。何かをするという事は何かを疎かにすること。均等を取るなんて器用な真似は私には出来ない。
もし、出来ていたのなら生きるという行為自体、もっと円滑く出来ていたと思う。
ローファーが普段よりも重く感じられ、気の進まない足取りを無理やり前へ前へと動かす。気持ちが歩幅を小さくし目的地までの時間稼ぎを始めた。
それでも、前進している限り、いつかは終着点へ着くものだ。
いつしか見えてきた、天嶺の校門。
覚悟を決める時間はない。数歩進めば私はここの生徒の一人となる。周囲を警戒しながら、くぐった門の先で私を怪しむ存在は確認できなかった。同じ場所に留まる方が目立つのではないかと考えた私は思考を停止させ、何食わぬ顔で校内へと入る。
(確か、クラスは2-Aだから・・・・・・ここか)
下駄箱で靴を履き替え、零祓に言われたクラスのプレートを見つけた。廊下を行き交う生徒とすれ違うだけで、緊張が一気に増してくる。
後ろ側のドアに掛けた手が硬直まった。
(・・・・・・・・・)
落ち着かない心で勢いに任せ、腕に力を入れると、ガララッ_と音を立ててドアがスライドし始めた。
微かに聞こえる室内からの談笑がかえって精神を抉る。私が教室に入ることで、その時間を止めてしまうのではないかと過剰なまでの不安が次から次へと溢れ出し飽和状態だった。
そして、この先にある光景に飛び込む決心がつかないまま、私はその全てを開いた_______。




