#16
姉妹じみたやり取りを終え、息を切らしたお互いの有様を見て落ち着きを取り戻した。頬が赤く腫れあがった零祓と、新品同然の制服を着崩した私。
どちらも、致命傷は避けられたが、それでも酷い姿だと自然に笑いが零れる。
登校時間は間近だというのに、何をやっているんだろう?っと、自問自答を繰り返しては何かと理由を考え正当化しようとした。
襟を正し、服に付いた埃を払いのけると改めて学校への意識へと切り替える。通学鞄には教科書・ノート・飲み物・折り畳み傘など、私が通っていた時と差ほど変化はない内容を入れチャックを閉めた。
「____あれ、おかしいな」
傍で零祓が、ぽつりと呟く。
「どうかしたの?」
「あ、ううん、気にしないで。 独り言だから」
挙動不審な零祓を横目にスマホの時間を見た。
「ちょっと早いけど、私そろそろ行くね」
浮足立った心が行動を催促する。
「もう行くの?」
「一応、初めて行く学校だしね」
もちろん、それも理由の一つであることに変わりはないのだが、同じ場所に居る方がかえって緊張と不安を増幅させていた。
「そっか。 わかった、気を付けてね」
「うん。 零祓も、外出は避けて安静にしてないとダメだよ?」
最重要事項は、しっかりと言っておかなければいけない。じゃないと、何の為に私が代役を強制いられているのか分からなくなる。
「分かってるって! というか、朝は苦手なんだよね・・・だから、都合がいい____」
「____今、何か言った?」
久々の暗黒微笑を引きずり出してくれたのは、彼女の言葉だった。
「う、ううんっ_!? なにもっ____!!」
「そっ_」
あからさまな反応にらしいなと思いながら彼女に背を向け部屋を出る。
玄関には見慣れたローファーが置いてあり、すぐに私の物だと分かった。
「靴までは別にいいよね?」
「うん、特に指定はないよ。 制服とかも自分なりに着こなしてる子とかもいるし」
「そうなんだ」
噂でいろいろと言われていても、こうして当事者の話が何よりも答えだ。
「そういえば、零祓は学校でどんな位置なの?」
「キャラ? 何でそんなこと聞くの?」
「いや、まぁ・・・・・・なんというか、立ち振る舞いとかって意外と大事かなって」
彼女が学校でどんな人間で交友関係は広いのか狭いのか、多少なりとも知っておいた方が有利に立ち回れると考えた上での質問だった。
「クラスは2-Aで席は窓際の一番後ろ。 クラスの人とは話しかけられたら話すくらいかな。 特別仲がいい子はいないよ。 麗亡、以外はね?」
最後の台詞を言う為だけに瞬間よく、ぐいっと身を乗り出した少女。耳元で甘言を呟き漏れる吐息が鼓膜にそっと刺激れた。
「なっ_! ちょっと、今はそうゆうのナシ」
「ごめん、ごめん。 でも、本当にそれだけだよ? 他に聞きたい事ってある?」
他人からしたら、教室に姿を表した夜ノ舞 零祓は先週までの彼女と同一人物で誰も疑いはしないだろう。だけど、あまりにも目に見えた違和感は避けたい。
「じゃあ、学校で何て呼ばれてる? 一人称は?」
「夜ノ舞さんって呼ばれることが多いかな。 一人称は私」
「さん付け・・・もしかして、零祓って教室で浮いてたりする? 友達はいるの?」
さん付けが必ずしも、そうであるという裏付けはない・・・が彼女との会話の中で、そう感じてしまった。口に出したつもりは微塵も無く、聞いてしまえば傷つけてしまうと理解していた。
だが、この偽装登校を確かなものにするには限りなく忠実に近づけておく必要があると感じていた。たとえそれが内情な事であっても共犯関係を結んだ中なら躊躇う事は許されない。
「ウイテル・・・? ナ、ナニヲイッテルノ? ト、トモダチハイルヨ?」
「____おい」
反応でおおよその察しはついた。
「うっ・・・浮いてないもん! 本当に・・・い・・・いいい・・・・・・いるよっ_!」
「うんうん、無理しなくて大丈夫だよ?」
女神の様な微笑みで優しく彼女を宥める。
「ちょ、ちょっとー! 何かそれ、すごーく嫌なんだけどっ_!」
ポカポカと両手に作った拳を私の胸元に交互に当て続ける少女の頭部をゆっくりと撫でる。この小動物の優位に立つには、少しばかりの戯と一つまみの想が必要。
「だって天嶺は通い始めたばっかりなんだから、仕方ないでしょ!」
今度は開き直りか?ぷんぷんと子供みたいな感情表現で頬を膨らませた零祓。
(・・・・・・・・・うん?)
何か引っかかる言い回し____。
「でも、少なからず一年生の時からの知り合いとかいるでしょ?」
「正直に言うと、二年生で転入したから、これといって親しい人はいない」
「____転入」
「そう。 だから、私が初めて教室に入った時には既に仲間が出来てたからさ」
(そう言う大事な事を今言うっ_!)
噛み殺した声をそのままに話を続ける。
「だったら、あんまり気を使わなくて済みそうね。 下手に交友関係がある方が話しを合わせるのも面倒だし」
正直な話、零祓には悪いと思ったが今の私にはそっちの方が好都合だ。
「言うね・・・・・・」
苦笑いを浮かべた零祓の顔を見ながら、学校に付いてからの行動を考えていた。まず、人間関係においては心配は無さそうだ。彼女の立ち位置的にこちらから行動を起こさない限りは話しかけてはこないだろう。授業・その他の活動での交流は事務的なやりとりをしていれば大丈夫のはず。
前提として、二年生から転入してきた少女が瓜二つの少女を代役にするという事自体、誰も想定しないだろう。
「あ、これ鞄に付けたら!」
深い思考に集中していると零祓が目線の先で見覚えのあるシルエットが飛び込んできた。
「それって____」
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《私、絶対行くからね!!! 用事済ませたらそっち行くから待ってて・・・出来れば、コレ買っといてくれたら助かる・・・・・・な? 貸し一つでもいいから!》
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澪に頼まれ購入した、Rabbit・Rabbitのソフビフィギュアだった。頭頂部にボールチェーンが付いており、零祓は人差し指に掛け揺らして見せた。
「これ可愛いね。 鞄の近くに落ちてたから麗亡のかなって、拾っておいたんだけど____」
意図的なのか、偶然なのか彼女の顔は私の反応を観察ていた。この時、私は一体どんな表情をしていたんだろう。
(ほんと、そうゆうところばっかり無駄に気が利くと言うか____)
軽く噛みしめた奥歯を解放し、少女からそれを受け取った。
「あ、それ探してたんだ! 拾ってくれてありがとね」
「ううん、別にお礼はいいよ。 大切なモノかなって思ったから、一応拾っておいただけだから」
_______そう。
受け取ったキーホルダーを鞄に付けた。
コネクターのカチッ_という音がやけに目立って聞こえた。
扉に手を掛けた。私の新しい人生が開始する。
_______ねぇ、麗亡。
近くで聞こえた、零祓の声。
_______何?
振り返ることはしなかった。
_______私を頼んだよ。
それは____
そっと、囁く様に____。




