#14
「嘘っ・・・何で鏡の中に・・・・・・魔法でも使ったの・・・?」
ありえない現象にそれしか見当がつかなかった。
だが、事実はもっと簡単で____
「れーいな、こっちだよ?」
意識の硝子を割る様に耳に届いた、聞き馴染みのある声に思わず肩が跳ねた。
「そんなに驚く?」
勢いよく振り返った背後には、遂さっきまで目の前にいた少女の姿があり、「大袈裟だなぁ」とでも言いたげな顔をして笑って見せた。
「れい・・・は?」
「零祓だよ? まさか、忘れちゃったの・・・・・・・・・シクシク」
そうやって、あからさまな嘘泣きをする演技は彼女を本物だと瞬時に理解させる。
「じゃ、じゃあ・・・・・・鏡に映ってたのって____」
「麗亡だよ」
返答を聞くや否やすぐに向き直り、鏡を凝視した。訝しむ眼差しで覗き込まれた向こう側の少女も同じ反応を返す。右手を上げると、右手を上げ、髪を触ると髪を触る。
「何で私と同じ動きを・・・・・・」
「鏡なんだから、当たり前でしょ?」
分かり切った回答に受け入れがたい現実。髪色一つでここまで似るものなのかと納得の出来ない自分がいた。
だが、どれだけ否定しても、その拒否反応こそが潜在的な認知を確定させてしまっていた。
「麗亡、こっち向いて」
「うん?」
傍で私のリアクションを見学していた零祓に呼ばれ、彼女の方へ歩み寄る。すると、数メートルあった距離を瞬く間に三十センチ程までに縮め若干低くした視点で私を見つめ始めた。
上下左右、主に顔の周辺を審査するかの如く観察する。
「・・・・・・・・・恥ずかしいんだけど」
友達同士でもこんなに顔を見られた事はない。ましてや、ここまで真剣に吟味されたら、むずがゆくてしょうがない。
しかし、そんなことお構いなしに、己が意志を押し通す少女。
その、あまりにも自分勝手で意味不明な行動に痺れを切らし欠けた時____
「うーん・・・やっぱり、ここなんだよなぁ・・・・・・」
悩ましい面持ちで目を細め、何かをじっと見つめる零祓。
「ここ?」
「そう、ここ」
ぷにっ____
零祓の右手人差し指が私の左眼斜め左下に触れた。
「は、はぁ? 急に何?」
意表を突いた行動に私は怪訝な顔を浮かべる。
「ホクロ」
「ホクロ?」
「麗亡の左眼って泣きボクロがあるじゃん? 私には無いから、どうしたものかなって」
三文字の単語に込められた彼女の意図を汲み取るのに時間はいらなかった。
「泣きボクロ? あぁ、そういえば・・・・・・流石にホクロまで消す必要ないんじゃない?」
「そうなんだよねぇ・・・麗亡の泣きボクロって可愛いし、消しちゃうの勿体ないんだよね」
制服の時といい、彼女は私に一体何を期待しているというのだろうか・・・・・・?
「いや、そう言う意味じゃなくて・・・・・・・・・はぁ、そんなに人の顔なんて見ないでしょ?」
「万が一って事もあるし・・・・・・それに私ならすぐに消せるよ?」
「いやいやっ! 「消せるよ?」じゃないのよ・・・・・・・・・簡単に言うけど、今まで自分の体にあったものを、そんなすぐに「はい、そうですか」とはいかないに決まってるでしょ?!」
とんとん拍子で改造されていく自らの容姿に愛着が無いわけではない。ただ、髪色ならまだしも、ホクロといった不可逆的な変更には多少の抵抗はある。
「そっか、分かった。 まぁ、麗亡が嫌がることはしたくないしね」
「意外と素直なところもあるんだ」
ある程度、他人への思いやりが感じ取れた彼女の発言に私はひとときの安心感から安堵する。
「何、その言い方! ひどいっ_!!!」
「だって、本当に意外だったんだもん。 零祓って、初めて会った時と比べたら、かなりキャラ崩壊してるよ?」
「なっ・・・! キャ・・・・・・キャラ崩壊・・・だと・・・・・・・・・なんてことを・・・!」
急激に強張った顔と身体を痙攣させながら、ショックを受ける少女に私はさらに追い打ちをかける。
「あれ、図星だったのかな? 自覚はあったんだ~」
「うぅ・・・それ以上は言わないでっ・・・・・・・・・!」
「だったら____」
赤面し、涙目になった零祓を見て愉悦に浸る。
私はこの状況を楽しんでいた。こうして、誰かと深く関わりを持てたことが嬉しかったのかもしれない。
たとえそれが契約で繋がった縁だとしても、言葉を交わし意思を尊重することの出来る、この関係を大事にしたいと思ってしまう。
彼女に対しての警戒心を完全に払拭出来たかと言われれば嘘になる。けれど、少しでも私から歩み寄ろうとしたのも事実。人付き合いは得意な方では決してない・・・・・・でも、彼女が私との距離感を縮めようとしてくれているのは肌で感じ取れていた。
だから、本心を伝えてみることにした。
「代役も辞退させて____」
_______【それはダメ、 殺すよ?】
氷の様に蒼く冷たく標的を視認つめる零祓の瞳。
それは、まるで____
発せられた言葉が嘘偽りない行動の前兆だと思い知らされるようで____。
死神そのもので____
右手にジリジリと黒い影を纏わせながら焔え上がる大鎌を出現させ、一振りで私の首筋を鋭利が通り過ぎた。
その瞬間、これまで彩に満ちていた世界が、灰色に支配された虚空の鳥籠へと塗り替えられた。
時間の止まった感覚が五感を蝕み、次第にその全てが喪失くなってゆく____。
そう感じてしまう程、降りかかった非現実的行為は何の前触れも無く、私の身体を凍りつかせていった。呼吸を忘れた体は生命機能を停止させ、失意と失望の感情が口から零れた。
_______えっ____。




