#13
リビングの窓を開け、吹き抜けた爽やかな風がレースカーテンを揺らし、微かに届いた陽の光がテーブルの天板に反射する。
「朝ごはん食べよ?」
零祓の自然な提案に返事をし、私は椅子に腰かけた。不思議と落ち着いた心で朝の時間を過ごしながら、ネットニュースに目を通す。
「・・・・・・・・・」
「こんな感じか____」
一通りの確認を終え、スマホの画面を閉じた。安心したわけではないが、現時点でこれといって大きな事件は確認されていない。秘匿典覧板も変わらずの掲載状態だった。
「麗亡?」
一応、教室では私と澪が仲がいいことを知っている生徒もいる。だからこそ、その二人が同時期に行方不明となったら・・・と嫌でも考えてしまう。
まず、保護者への連絡、こればかりは避けられない。澪は両親と一つ年上の兄がいたはずだ。
対して私の両親・・・主に母の方は学歴・成績・功績といった面でしか娘への興味が無く。一人暮らしを始める際にも心配どころか関心を示す事はなかった。多少の反抗期とでも解釈するのだろう。だから、学校から連絡があっても気にも留めないはずだ。
今はその関係性を有効活用させてもらおう。
「ううん、ごめん。 ちょっと、考え事してた」
一息吐き、朝食をとることにした。零祓はルームサービス専用の受話器を片手に「何がいい?」と自然に聞いてきていた、あまり食欲が無かった私は彼女が適当に頼んでくれたサンドイッチを口に運んだ。
時間は過ぎ、現在 午前七時三十分。
「そう言えば、学校って何時からなの?」
「八時三十分だよ」
「後一時間弱か。 通学はどうしてるの電車?」
「電車通学だよ。 駅はここからすぐだし、着いてからは十分もあれば間に合うよ」
そう言って、零祓は最寄りの駅が印字された定期券を私に見せた。
「一応、聞いておくけど学校名は?」
一番聞いておかなければいけない事だった。
「天嶺高校」
「えっ_」
その学校名を聞いた事がある。彼女の言っている通り、周辺の高校では知らない人の方が少ないほど名の知れた高校だ。私も、生徒を街で見かけたことはあるが、傍から見る分には普通の高校生と差ほど変わりはなかった。
「どうかした?」
不思議そうな顔で尋ねる少女。
聞いた話によれば、特別な入学方法を導入しているらしく、一般入試などの試験は一切行われていないらしい。その代わり、入学条件は厳しく成績が優秀であることを前提としプラスαの才能が必須とされている。どこまでが本当でどこからが嘘なのかは分からないが、もし、その高校に入学することが出来れば大抵の将来は約束されていると言ってもいいだろう。
「いや・・・ちょっとね」
だとしたら、この夜ノ舞 零祓という少女もその学校に見合う程の成績と才能を持ち合わせていることになる。
「制服、取って来るね。 それとも、私の部屋で着替える? 鏡もあるし、丁度いいから」
「うん」
別に新しい生活が楽しみなわけではない。単に極度の緊張と不安・焦りがひしひしと体中を巡っていただけ。
気持ちここにあらずとはまさにこの事、いつの間にか零祓の部屋で着替えの準備をしていた。彼女はクローゼットの扉を開け、中から制服一式を取り出すと、ベッドシーツの上に置いた。それらは真新しく、シワ一つ付いていない。
「あっ」
「もしかして、ブレザー着るの初めて?」
「前は黒セーラーだったから。 青いラインの入ったやつ・・・・・・リボンもか」
「黒セーラー! 何か、漫画とかでしか見たことなかったけど、実在したんだ!」
「麗亡に色々、着せるのってコスプレみたいで楽しい____うへぇ」
とろけた表情で服を着させてくる少女。
・・・・・・・・・この反応を見る限り、天嶺の噂は嘘だと思う。
ワイシャツ・スカート・ベスト・リボンと新鮮な制服に身を包むと
「後は、髪の色だね」
「そこまでするの!?」
「当たり前じゃん? 急に白髪になったら、クラスの人に「悩みがあったら言ってね?!」って言われちゃうかも・・・・・・・・・」
「あ゛?」
「てっ・・・ていうのは冗談で流石に変えた方が良いかなって・・・?」
「でも、今から黒にするって言われても時間が・・・・・・」
「それは心配いらないよ。 ちょっとこっち向いて」
言われた通り、背後の零祓へ振り返った。
「なに?」
右手を顔に近づけてくる零祓。思わず目を瞑ると、次に感じたのは前頭部へのふんわりとした感触と、じんわりとした温かさだった。どうやら、彼女が指先を置いているようだ。
サァ____
気持ちの良い風が吹いた。額に触れていた手も、気づけば両肩に置かれ軽く捻る様にして、そのまま百八十度回転させられ____
「もう目を開けていいよ」
言われた通りに目を明ける。
「えっ____」
姿見の中に幻影を映す。
寸分違わず、どこからどう見ても【夜ノ舞 零祓】が眼前に立っていた_______。




