第8話 蛮勇
とある路地裏でとぼとぼと辛そうな顔で歩いている男がいた。
「カイン…お前どうしちまったんだよ…」
そんなザインの元に知らない人が現れた。
その人の顔にはモザイクがかかっているようでよく見えない。
『やあザイン君、君の噂はよく聞いているよ。なんでもあの全滅した《七色のテラス》の副団長なんだからね』
無機質な声で言い放った。
「喧嘩売ってるのか?」
『いや、違うよ。君と取引したいんだ』
「取引?」
『ああ、君に力を与えよう。もう何も失わないような力を』
とても甘美な声で取引を持ちかけた
だが、
「あいにく今はそういう気分じゃねぇんだ。消えてくれ」
ザインはその提案を断った。今はそんな事を考える暇も無いくらい追い込まれていたからだ。
『そうか残念だ…じゃあ力づくでも与えよう』
想定通りといわんばかりの感情で言葉を発し、その直後上からローブを被った大男が降ってきた。
「ワガナハ『オーウェン』オトナシクトウコウシロ」
ローブの大男―――オーウェンは大剣を構え、投降するように命じた。
「っち…何なんだよ本当に…!!」
オーウェンが構えたのを見てザインも斧を構えようとしたが、次の瞬間自分の右腕が消えていた。
「…あ?ガァァァァ!!」
もがき、苦しむザインに無慈悲にもオーウェンは大剣を振り下ろした―――
「ハッ!」
ー第29階層ー
1人の女性が魔物と戦闘を繰り広げていた。
「おい!がむしゃらに走るな!!包囲されたら終わりだぞ!!」
走っているユルンに叱責を飛ばしたのはカインだった。
(彼女はおそらく俺に追いつきたいが為に焦りが見えるな。それを無くすにはどうしたらいいか…?)
そんな事を考えていると、ユルンが得意の弓で最後の敵を射った。
「どう?!カイン!」
褒めてほしそうだが、ダメなところはダメと伝えなければならない。
「んー30点ってとこだな。焦り過ぎてるのもそうだし、何よりその弓言っちゃ悪いが精度が悪すぎる!」
「ふぇっ?!」
「そんなんだと、矢の消耗が激しいからすぐ戦闘出来なくなるぞ」
ユルンはとても悲しそうな顔で俯いてしまった。確かに彼女には欠点が多い。だが、30点に値するいい結果も残した。
「だが、途中の走りながらの詠唱あれは良かったな。魔術の精度も落ちてなかった。」
そう、彼女は走りながら詠唱を行えていたのだ。
本来詠唱とはイメージを強く持つ為に行うものであり、走りながらだと別の事にも集中する為、とても精度が落ちてしまう。
カインはスキルで自分の意識を分ける事ができるので可能だが、彼女はスキル無しでやり遂げたのだ。
「本当!!やった!」
さっきの表情とは一転、とても嬉しそうだ。
「私ね!早くカインに追いつきたいの!」
「俺に追いついたって魔王は倒せねぇぞ?俺だって冒険者の中じゃ中堅って位置なんだから」
そう、あの時の力は今はもう無い。自分で力を取り戻し、奴に勝つためには前よりも更に強くなければいけないのだ。
「でも、ランクあがったじゃん」
「まぁな」
第40階層のフロアボスを単独で討伐した事で、俺はギルドからランク5に指定された。
まあ、実際はランク6なんだけどね。
「私もランク上げたいなぁ…」
「まぁそんな急ぐものでもねぇよ」
「急いでる君が何言ってるんだか」
確かに俺は急いでいる。今すぐにでもランク10へと戻り、オーウェンに復讐したいからだ。
団員達は殺され自分の居場所を奪われた。そんな奴には報いを受けさせなければならない。
「あのーカイン?殺意が凄いから一旦落ち着いて?ね?」
ユルンがカインの裾を引っ張り、上目遣いで伝える。
「ああ、悪い…」
迷宮内に沈黙が流れる。そんな空気を変えようと、ユルンはカインに気になっていた事を聞いてみた。
「ねぇ、カイン。なんでメルダさんの誘いは断ったのに、私とは一緒にパーティ組んでくれたの?」
「ん?単純にメルダが信用出来なかっただけだが?」
あっけからんとそう答えた。
「え?なんで?君の最初の理解者だったんでしょ?安心感とかなかったの?」
「確かに安心感はあった。でもな、あまり彼女の事を知らない俺はすぐに信用はできなかったんだ」
本当に初対面だったし、あの時のメルダはおそらく知っている事の大半を隠していた。そんな彼女をすぐに信用する事は出来ない。
協力すれば全て教えてくれたかもしれないが、まずは自分で調べてみようと思ったのだ。
「じゃあなんで私は信用したの?」
「…俺と同じ境遇で自分の鏡を見ているような感じになってな。ほっとけなかった」
「…そっか」
◇◆◇
ー第30層ー
カイン達はフロアボスがいた場所を素通りし、下へと進んでいく。
フロアボスは1度討伐されると、産まれるまで30日かかる。
丁度1週間前、カインがミノタウロスを討伐してしまった為今回はいなかったのだ。
そういえば、魔物って確か迷宮の壁から産まれるんだよな。しかも同じ魔物が何体もいる時だってある。
じゃあなんでフロアボスは毎回一体しかいないんだろう
カインは思考の海に沈もうとしていたが、そこにユルンからの制止がかかる。
「カイン?ボサっとしてると殺られちゃうよ?」
「ああそうだな…悪い」
そうだ、ここは迷宮内。変な思考で自らの行動を阻害する訳にはいかない。
そのせいで今までに多くの冒険者達が殺されている。
「じゃあ今日は第35層まで行って終わりにするか」
「えぇ…もっと行こうよ!」
「あのなぁ、蛮勇は自分の身だけじゃなくて他人にも迷惑かけるんだぞ?」
かつて《七色のテラス》に所属していた自分が何度も味わい、噛み締めたことそれは―
『蛮勇は自分だけでなく、周りを殺す』
自分だけが傷つくならそれは自己責任でかたがつく。だが、周りの人にも危害が加わる場合それはもう自己責任では済まなくなる。
過去にカインも何度も自分の身勝手な行動のせいで、団員達に傷をつけたことがある。
「『蛮勇は自分だけでなく、周りを殺す』…」
「…」
「俺の兄貴の言葉だ。蛮勇は絶対にしてはいけない。」
「…分かった」
少しなにか言いたげだったが、ユルンはそこで引き下がった。
「そんな急ぐなよ?急ぎすぎも身体によくない」
「…だって!明日で君の指導も終わっちゃうじゃない!私まだ全然強くなれてないのに…」
「ユルン…」
そう、このパーティは明日で終わり。
明日一緒に下層へと到達したら明後日からは友達ではありつつも、別々で過ごすのだ。
「あ、ごめん…」
「いや、いい」
2人は第35階層へ着いた後、少し寂しそうな雰囲気で地上へと戻ったのであった。
***
夕闇に染まる街に戻り、二人はギルドの前で立ち止まった。
「……じゃあカイン。また、明日。最後の日、よろしくね」
「ああ。最後くらい、100点満点の動きを見せてくれよ?」
カインは努めて明るく答え、ユルンの背中を見送った。
「じゃあ、俺もちょっとだけ行ってくるか」
くるりと、つま先を迷宮に向けて走り出した。
ー第9層ー
カインは魔物を狩り続けていた。
さっき迷宮に入ったのにまた入るの?!と言わんばかりの顔を門番にされたが。
この階層はカインのランクから見たら1人でも余裕で攻略できる為、殆ど汗をかいていなかった。
(…やっぱり、どの魔物も壁から出てくるな)
俺がこの場所に来た理由は明日の為の簡単な肩慣らしをしようと考えた事と、もう1つ
魔物は全て壁から産まれるのかこれを検証するためだ。
だが、何故魔物は自分達人類(魔人を除く)に襲いかかるのだろうか、その疑問が絶えなかった。
魔物は迷宮だけでなく、地上にも存在する。
しかし、奴等には親がいるのだ。こことは違い、生物から産まれる。
いや、もしかするとこの迷宮も生物なのか?
カインの思考はそれからも長い間続いていた。
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