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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第一章

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第7話  『■■■■■■』



 暗闇の中とんでもない速度で迷宮を駆けているものがいた。

 その者は仲間もいないのにたった1人で中層を降って行っていた。


 その者の名はカイン・ディペンダー。

 元は《七色のテラス》団長であったが、団員を殆ど殺害され、今はクランを解散し、1人で迷宮に挑んでいる。



ー第30層ー



「っち、流石に1人だと処理がめんどくせぇな…」


 今のランクは4。オーウェンを撃退した功績を貰えると思ったが、ギルドに証拠が無いと言われ門前払いされてしまった。おそらくあそこも何者かの意思が介入していると見える。

 

 まあその事は一旦置いといて、


 本来中層の適正ランクは5以上、だが今は常にスキルを使用している。このおかげで、実質ランク6

 これに加えて少しだけだがランク10へと至れた事があるおかげで力の乗せ方、受け流し方等色々な事を学習できた。

 まあ基礎能力があの時と次元が違うが。

 これら全てのおかげで問題無く中層を走れていた。

 目指すは下層。あの日行けなかった屈辱を晴らしてやる。


 そんなこんなで地図を見ながら走っていると、

 第30層のフロアボス、ミノタウロスが現れた。



「1ヶ月ぶりか…あの時の俺とは違ぇぞ?」



 一閃。たったそれだけでミノタウロスは倒れた。


「今となっちゃそんな怖くねぇな。だが、」


 今のままでは()()()に勝てない。

 彼はそれを胸にずっと留めている。



ー第49層ー



 この階層を突破すれば下層だ。現在地は中盤程である。


 それにしても、あいつは本当に何だったんだ?

 オーウェン…あいつは何の為に俺達を襲った…?しかもどっかで聞いた事ある名前だと思って調べてみたら、400年前、この国を救った英雄


 《剣聖》『オーウェン・ランフェル』


 彼の名前と全く一緒だった。これが偶然とは思えないし、あいつの言葉が嘘だと考えようとしても、持っていた二本の大剣…歴史書にあった

 『天魔』『獄魔』と同一の見た目をしていた。

 あれがレプリカで、偽者だったとしてもあいつは強すぎる。

 今の人類だと、一体一では殆どの人が太刀打できない程に。

 だから考えられるのは、ガチで本当に強い奴か…



 《剣聖》が自分の能力、もしくは何者かのおかげで蘇生したか。



 前者の場合だと、英雄と呼ばれていた彼が非人道的な事をしている事になるが、そんな事をする人とは思えない。

 となると、後者…何者かに蘇生され、操られていると考えた方が妥当だ。

 おそらくそいつが思考を操作する系の能力を持っているんだろう。


 そうやって頭を回していると、


「誰か助けてぇーー!」


 女性の悲鳴が聞こえた。俺は声の元へ走り出した。そしたら、そこに居たのは


「そこの人助けてぇ!!」


 今にも泣きそうな声否、既に泣いている女性だった。彼女はオーガ10体に襲われている真っ最中だった。

 そんな彼女の願いを聞いた瞬間動き出し、2秒もかからずに、全てのオーガを屠った。


「大丈夫ですか?」


「えぇ、助けてくれて本当にありがとう!」



 俺が助けた女性はとても美しい赤色の短髪と、目をしていた。


「私の名前は、『ユルン・アテラント』ランク3の冒険者よ!」


「ユルン…さんでいいんですかね?」


「呼び捨てでいいわよ。後敬語も無し!」


「分かりまし…分かったユルン。俺はカイン・ディペンダー、ランク4だよろしくな。」


「ええ、よろしく」


 俺は彼女の細い手と握手を交わした。


「それで、ユルン。なんでランク3なのにこんな階層に?」


「ランク4の貴方に言われたくないけど…パーティメンバーが私を置いていったのよ…」


「…」


「自分達じゃ太刀打ち出来ないから、私を囮にして逃げるって」


「クソどもだな…」


「ありがとう。で、囮にされた私は必死に抗ったんだけど…力及ばずって感じで…」


「なるほどなぁ…」


 カインの元クランでは『囮ダメ!絶対!』というルールがあった為そんな事は起こらなかったが、他所ではよくある事なのだろうか。


「あの…助けて貰った身で非常に言いにくいんだけど…私を地上まで送ってくれない?」


 カインは少し考えた。この層を越えれば念願の下層だが彼女を置いていくと、まず死ぬ。

 そしてカインの出した結論は


「分かった。ただ、腹減ってるから地上着いたら飯奢ってくれ。」


「……もっちろん!任せて!!」


 その後、カインは自分の腹を満たす為、割とガチで地上までユルンをおんぶしてまで駆け上がった。




***




「あー、意外と疲れたな。」


「ほ、本当にありがとう…オェッ」


 あまりの速さに酔ってしまったユルンはその場で少し吐いてしまった。


「じゃあ約束通り、奢ってな!!」


「う、うん、分かったから少し休ませて…オェッ」


 再度吐き、そこから彼女が動けるようになるまで多少の時間がかかるのであった。




「うめぇ…」


 とても幸せそうな顔でカインはハンバーグを食べていた。それに対しユルンはピザを注文し、とても上品な食べ方をしていた。


「ふ、ふふん!ちょっとお金がまずいけど…まあお礼だしね!」


 実際彼女の手持ちでは後1000ボルガ(日本円で約1000円)足りないので、以外とまずい状況であった。

 カインはふと気になったことについて彼女に聞いた。


「突然だが、なんで冒険者目指したんだ?」


「…両親を殺した魔物達の長《魔王ザギルス》を殺す為よ。私は幼い頃に魔物軍勢(モンスターパレード)のせいで両親を殺されたの。だからその復讐で魔物の長の魔王を殺したいって事」


「俺も親を魔物に殺されたな…その点では俺達は一緒だな」


「そうね…」


 悲しい沈黙が流れる。そんな空気を変えようとしたカインは


「……その魔王ってのは、あれだろ?確か最北部『魔国ベネム』の長で、ギルドで《星9》にされてるクエストだろ?」


 クエストにも難易度が設定されており、星1〜星10まで存在する…もうレベルだかランクだか、全部の数字一貫しちまえよ。


 カインは彼女の空になった財布をチラリと見た。


「復讐の前に、まずは明日の飯を食う為にもっと稼げるようになれ……もしお前が本気なら、下層へ降りるまでの間、俺が稽古をつけてやる。囮としてじゃなく、俺の『後ろ』を守れるようになるまでな」


 ユルンは驚いたように目を見開いた。

 この男は、自分を囮にしたパーティーメンバーとは正反対のことを言っている。


「……いいの? 私、ランク3よ? 足手まといになるだけじゃ……」


「足手まといなら、さっきみたいにおんぶして走るだけだ。だが、魔王を殺したいんだろ? だったら、誰かの後ろで震えてる時間はねぇはずだ」


 カインはハンバーグの最後のひと切れを口に放り込み、立ち上がった。


 ふと、窓の外の通行人たちが、一瞬だけ()()()()ような気がした。


(……まただ。この、世界がバグったような感覚)


 メルダが言っていた「世界の嘘」。


 何者かが編み出す強制力が、自分たちをどこへ導こうとしているのかは分からない。

 だが、今のカインには、自分と同じ「奪われた者」の瞳をしたユルンを放っておくことはできなかった。


「決まりだな。代金、1000ボルガ足りてないみたいだけど……それは俺が『先行投資』しといてやるよ」


「えっ!? ちょ、ちょっと待って! なんで知ってるのよ!?」


 顔を真っ赤にするユルンを背に、カインは店を出た。

 

 夜の町並みは、相変わらず美しく、そしてどこまでも白々しい。

 行き交う人々は皆、幸せそうに笑っている。仲間を殺された者も、世界に絶望している者も、まるで最初から存在しなかったかのような平穏。



 ……吐き気がする。


「……カイン、一つ聞いてもいい?」


 横を歩くユルンが、少し不安そうに上目遣いで尋ねてきた。


「なんだ」


「あんた、さっき『世界がバグった』みたいな顔してたけど……あんたも見えるの? 時々、空の色が変になったり、人の動きが一瞬人形みたいに見えることが」


 カインの足が止まった。


「……お前、それが分かるのか?」


「ええ。でも、誰に言っても信じてくれないの。みんな『疲れてるだけだ』って。でも私は忘れない。両親が殺されたあの日、魔物たちが襲ってきた瞬間だけ、世界が凄く……『不自然』だったことを」


 カインは確信した。彼女もまた何者かが作る嘘の世界の歪みに気づいた人間なのだ。


 ただの偶然で彼女を助けたのではなく、もしかするとこの「嘘の世界」が、共通の毒を持つ二人を引き寄せたのかもしれない。


 カインは腰の剣を軽く叩く。


「…その『目』は大事にしろ。みんなが見ている景色が正しいとは限らねぇ」


「カイン……?」


「行くぞ。今は宿を取る金もねぇから迷宮の入り口付近で野宿だ。特訓は――明日から始める」


 カインは再び歩き出す。


 その背中を見つめ、ユルンは自分の拳を強く握りしめた。

 




 

 ――その様子を、どこからか見下ろす者がいた。

 

 現代的なデスクに座り、無数のモニターを眺めている。

 

『おやおや。カイン君、新しいヒロインを拾ったのかい? 僕のプロットにはなかった展開だけど……まあいい。適度に希望も与えた方が、物語は盛り上がるからね。』


 何者かは、楽しそうにキーボードを叩く。


 その指先一つで、人の意識が書き換えられていく。


 そんな『■■■■■■』の悪意を、カインはまだ知らない。



 ただ、背負った剣だけが、静かに復讐の熱を帯びていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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