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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第一章

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第6話  動き出した歯車



────先に膝をついたのは、



 ランク10すら凌ぐはずのオーウェンであった。


 カインは満身創痍なものの、立ち続けていた。

 それに対し、オーウェンは膝はついているが致命的な攻撃では無かった様子だ。



「フッ、ワレニヒザヲツカセルモノガイルトハ…」


 当の本人はとても感慨深い様子だった。



「ハァ、ハァ…や、約束だ。この場を去れ…!」


 肩で息をしているカインがそう言い放った。

 ここで彼が引いてくれなければまず間違いなく死ぬ。

 そんな恐怖をスキルでしまいこみ、返答を待った。




「…ソウダナ、ココハイサギヨクマケヲミトメヨウ…イツカサイセンヲキタイシテイルゾ。」



 そう言い残し彼は姿を消した。



 最後の彼は少し笑っていたような気がした。




 緊張の糸が途切れたカインはその場に倒れ、意識を手放した────















「次は何して遊ぶ?」


「うーん…じゃあ、村を散歩しようよ!!」


「…適当に答えたでしょ」


「バレた?」


「分かりやすすぎだよ!!もっと真面目に考えてよ!」


「そうだなぁ、じゃあ久々に戦おうよ!!」


「戦闘か…いいよ!今回こそ私が勝つからね!!」


「いーや、今回も俺が勝つから!!」



────黒髪の少年と、白髪の少女がそんなやり取りを楽しそうに行っていた。



────この後何が起こるかも知らずに。














「カイン!!」


 そう呼ばれた瞬間、俺の意識は覚醒した。


「あれ?俺はどうして…」


 起こしてくれたのはザインのようだ。


 ここは第38階層の『庭園』と呼ばれる休憩地帯の町の中にある病院だった。

 

 先刻の状況を思い出す。

 最強の敵、オーウェンと死闘を繰り広げたあの光景を。


「心配したんだぞ?3日も寝てたんだからな?」


「3日も?!」


「ああ、あのイレギュラーの()()()()()()のせいで皆…皆が…」


 カインは彼の言っていることが理解できない。という表情だった。

 

「何言ってんだザイン?アイツらを殺したのはオーウェンだろ?」


 カインは意味不明な事を話しているザインにそう言った。


「お前こそ何言ってんだ?あぁ、お前は俺を庇ってぶっ倒れたからな。記憶が混濁してんのか」


 ますます頭がこんがらがった。


 自分の知らないイレギュラー、自分の知らない行動。その全てに吐き気を催すような感じだった。


 頭がパンクしそうだったカインは自分が休んでいた病室をザインの制止も振り払って外に出た。


(何がどうなってるんだ?!団員達(アイツら)()()()()()に殺されたはずだろ?!イレギュラーのミノタウロス?そんな奴いなかったはずだ!!)


 そう頭を無理矢理にでも整理しようとしているカインの目の前に、ある人が通りかかった。


「アルバートさん!!」


 そう、一緒にオーウェンを討つために共闘した

《天頂の円卓》クラン団長、アルバート・ヘリオスだった。


 彼ならあの時の状況を覚えてるはずだ!!


 そう思ったカインはその件について聞こうとしたが、アルバートの次の一言で凍りつくこととなる。


「ん、あぁメルダがイレギュラーのミノタウロスから助けた少年か、元気になって良かったな。」



 そこまで興味が無いといった様子でアルバートはすぐにその場を去ってしまった。


(アルバートさんも覚えてない…?じゃあ、あの記憶はなんなんだ?俺は一体どうなってしまったんだ?!)


 自分を問い始めたカイン。


 そんな中、彼に白い光が現れた。



「カイン…さん?目が覚めたの?体調は大丈夫?」


 とても心配していた様子だったメルダがカインの体調を案じる。


「メルダさん…」


 心がおかしくなってしまいそうなカイン。最後の希望にかけてメルダに聞いてみた。


「その…3日前の事って覚えてます?」


 とても不安そうな様子で聞いてみた。

 そしたら、以外な返答が返ってきた。


「…着いてきて。」


 と、道を案内された。


 カインと、メルダが辿り着いた場所はこの病院の会議室。お金を払うことで貸し切ることができる部屋だ。


 彼女がお金を支払い、俺を中へ入れ鍵を施錠した。

 両者向かい合った状態で椅子に座り、話し始めた。




「さっきの貴方の発言だけど…私はあの日の事を覚えているわ。ランク10の怪物、オーウェンを追い払った事」


 それを聞いたカインはとても安堵した様子だった。


 良かった。俺の記憶は間違っていないんだ。と



「じゃあ何で皆あんな事を言ってるんですか?」


 そう聞いたカインにメルダは驚愕の事実を伝えた。


「…何者かのスキルの効果によって記憶を書き換えられてるんだ。」


「は?」


 何を言ってるんだと言わんばかりの表情で彼女を見つめる。


「てか、本当にそうだとしてなんで貴方はその事が分かるんですか?」


「うーん…カイン…さんになら話してもいいか」


 妙な距離感に俺は思わず


「呼び捨てでいいですよ」


 それが自然な気がしたのだ。なぜかは分からないが。


「そっか、じゃあカイン。私のスキルは《絶対観測》。私を中心とした半径20mの物や、生物の情報を原子レベルで観測できる。まぁ色々と条件はあるんだけどね」


「だとしてもえぐい性能ですね…」


 思わずそう言葉を零してしまった。こんな能力があれば例えば相手の筋肉の動きを見るだけで、次どのような行動を取るのか予測出来るのだから。


「ありがと、でもこの能力の本質はそこじゃないの。」


「?」


「このスキルの本質はーーー『()()()()()』。観測した事象を、脳ではなく私の魂に『不変の記録』として刻み込むこと。だから、たとえ世界の理や人々の認識が捻じ曲げられても、私の観測した『真実』だけは書き換えられることがないの。」


 彼女の言葉は静かだったが、その内容はあまりにも重かった。


 世界、もしくは何者かが意図的に俺たちの記憶を奪ったというのだから。


「……じゃあ、俺が覚えているのは何故なんですか?」


「貴方が覚えているのは……恐らく、貴方が一瞬でもランク10に至れたことで、スキルの熟練度がとても増えて常時使えるようになってるからじゃない?多分貴方の能力は精神系統のスキルを無効化できる能力でしょ?」


 まるで自分を見透かしているようなそんな様子で教えてくれた。

 確かにスキル《自己境界》が常時発動している感覚がある。

 だが何故彼女は俺の能力について知っているのかそこが疑問ではある。



驚いた様子の自分に、メルダは少しだけ目を伏せ、話を続けた。


「カイン、驚かないで聞いて。ザイン君から色々聞いたんだけど、貴方たちの最高到達階層は第26層なのに急に下層へ向かうことになった、あの不自然な行動。……覚えている?」


 その言葉に、心臓が跳ねた。


 そうだ。ずっと引っかかっていた。いくら若気の至りとはいえ、実績もない俺たちがなぜあの時、あんな無茶な作戦を決行したのか。


「あの時から、始まっていたの。何者かによる『思考の誘導』が。貴方たちは行かされたの。あの日、あの場所に。そして今回のオーウェンとの戦いも……誰かにとっては『無かったこと』にしたい不都合な事実だったと仮定できる。」


(……俺たちは、最初から誰かの手の平の上だったっていうのか?)


 吐き気がした。だが、それと同時に霧が晴れていくような感覚もあった。

 あの強引な決断も、今のこの孤独な状況も、すべては繋がっている。


「カイン…大丈夫?」


 メルダが俺の手をそっと握った。自分の手は少し震えていた。


 ふと、うっすらと昔の記憶を思い出す。

 

 いつも自分の隣にいてくれたあの白髪の少女の事を


「メルダさん……いや、メルダ。俺たち、昔どこかで会ったこと……ある?」


 唐突な問いだった。だが、今の彼女との距離感、そして妙な懐かしさ、どうしても他人とは思えなかった。


 メルダは一瞬、目を見開いた。

 そして、悲しげに、それでいて慈しむような微笑みを浮かべて言った。


「……さぁ、どうかな。でも、もしそうだとしたら……」


 彼女はそこで言葉を切り、真剣な眼差しで俺を見つめた。


「今の貴方には、まだ教えられない。世界に牙を剥く覚悟ができた時、また私に聞いて。それまでは、この『嘘の世界』で上手く立ち回るしかない。」


 彼女は立ち上がり、施錠していた扉に手をかけた。


「忘れないで、カイン。貴方の名前……『ディペンダー』には、まだ貴方の知らない意味がある。そして、私だけは貴方の『真実』の味方だからね。」


 そう言い残し、彼女は会議室を出て行った。

 一人残された俺は、自分の震える手を見つめる。



 記憶を書き換えられた仲間たち。



 冷徹な目で俺を見た世界最強の冒険者。



 そして、すべてを知る謎の女性、メルダ。



 俺の『叙事詩(ものがたり)』は、ここから本当の意味で動き始めたのだと、確信した。




***




 メルダの話の後俺は自分の病室に戻っていた。そこにザインの姿は無く、静けさだけが残っていた。


(俺、これからどうすればいいんだろう)


 仲間が死に、残った仲間はそれは真の仲間と呼べるか怪しい存在だった。


 窓の外に広がる第38階層は、自然豊かな光景がとても美しかった。


 だが、今の俺にはその美しさが、塗りたくられた安っぽいペンキのように白々しく見える。


(ザインも、ノーラも……あんなに必死に戦っていた団員たちの死を、『ミノタウロスにやられた』なんて偽物の記憶で片付けているのか?)


 込み上げてくるのは、怒りよりも先に、底知れない寂しさだった。

 自分が命を懸けて守った「真実」が、誰にも共有されない。それは、彼らの死そのものを汚されているような気がしてならなかった。


 ふと、枕元に置かれた『ファトゥム』に手を伸ばす。

 あの大男、オーウェンの大剣を受け止めた時の痺れが、まだてのひらの奥に残っている。


「……お前だけは、覚えているんだよな」


 (ファトゥム)は何も答えない。だが、その刀身に触れた瞬間、微かに熱を帯びたような気がした。


 コンコン、と控えめなノックの音が響く。


「……入れよ」


 入ってきたのはザインだった。その顔には、先ほどまでの困惑の色は消え、代わりに親友を気遣うような、ひどく「普通」な表情が浮かんでいた。


「カイン。……さっきは悪かったな。まだ頭がはっきりしてないのに、色々と喋っちまって」


「……いや、いいんだ。俺の方こそ、取り乱した」


 喉まで出かかった「お前こそ、何を言ってるんだ」という言葉を、無理やり飲み込む。


 メルダが言った通り、今は「嘘の世界」で立ち回るしかない。


「あいつらの……葬儀の予定が決まったよ。ギルドの方でも、今回のイレギュラーのミノタウロスについては調査を入れるらしい」


 ザインが淡々と語る。その一言一言が、鋭い針のように俺の胸を刺す。


 死んだ仲間たちの名前。彼らが最期に叫んだ言葉。


 俺が知っている「気高い死」はどこにもなく、公式記録には「不運な事故」として処理されていく。


「カイン……お前、これからどうするんだ? クランも、実質解散みたいなもんだろ」


「……そうだな」


 俺は視線を落とし、自分の手を見つめた。

 オーウェンに届いた、あの一撃。ランク10に肉薄したあの瞬間の感覚。


 もし、俺に本当の力が、この世界を元に戻せるほどの力があれば……。


「俺は……もっと下に行こうと思う」


「なっ?! バカ言うな! あんな目に遭ったばっかりだぞ?!」


 ザインの反応は正しい。一般的に見れば、命からがら逃げ出した直後の発言としては狂気の沙汰だ。


「……ザイン。俺は、守りたかったんだ。誰も死なせたくなかったし、誰も……忘れさせたくなかった」


「忘れ……? 何を言って――」


「なんでもない。とにかく、俺は決めたんだ。自分の『意味』を確かめるまで、止まるわけにはいかないんだよ」


 ザインはしばらく呆然としていたが、やがて大きなため息をついて、自分の頭をガシガシと掻いた。


「……お前のそういう頑固なとこ、昔から変わらねぇよな。分かったよ。お前がそのつもりなら、俺も……」


「いや、ザイン。お前はここに残れ」


「……あ?」


「お前には、死んだあいつらの家族の世話とか、やるべきことがあるだろ。それに……」


 俺は心の中で付け加えた。


(これ以上、お前を『嘘の戦い』に巻き込みたくない)


 ザインを説得し、部屋を出させた後、俺は装備を整え始めた。


 病院の窓から夜の町を見下ろす。


 メルダの言っていた『ディペンダー』の意味。

 思考を誘導した黒幕。

 そして、あのオーウェンという男が、去り際に浮かべた笑み。


 全てが深い霧の中にある。


 だが、俺の心には一点の曇りもなかった。


「……まずは、力を取り戻さないと」


 寿命を削り、ファトゥムから得たあの強大な力。

 今の俺はその時の力を失い、元のランク4に戻っている。(スキルのおかげで実質ランク6だが)


 だが、一度でも「頂」を見た俺の魂は、かつての弱かった自分とは違う。


 「今度はあの力に自分の足で辿り着くんだ。」


 そう宣言した俺はファトゥムを背負い、静まり返った病院を後にした。


 目指すは第38階層よりも更に下


 深層


 この「庭園」の更に更に下にある深淵だ。





 病院の門を出たところで、夜風に吹かれる白い髪が目に入った。


「……やっぱり、行くのね」


 メルダだった。彼女は最初から、俺がこうすることを知っていたかのような顔で立っていた。


「……止めるんですか?」


「まさか。私は貴方の『味方』だって言ったでしょ?」


 彼女はそう言って、小さな革袋を俺に放り投げた。


「中身は最高級のポーションと、最低限の食料。貴方がここで終わったら、私の記憶が寂しくなっちゃうもの」


「……恩に着る」


 俺は袋を腰に下げ、彼女の横を通り抜けようとした。

 その時、彼女が耳元で小さく囁いた。


「気をつけて、カイン。世界は、貴方の『覚醒』を恐れている。次はオーウェンなんて比じゃないかもしれない」


「……上等だ。全部、ぶっ壊して先に進むだけ。」


 俺は一度も振り返らずに、夜の闇へと駆け出した。









 暗い町中を1人で歩いてる女性がいた。

 とても美しい白髪をたなびかせて。



「…」




「気づいてるんだからね?()()()()





 そう、()()()()()()()()に言葉を放った。



最後まで読んでいただきありがとうございます。

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