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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第一章  『青年は復讐を抱く』

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第9話  友達



「じゃあ、今日で最後だ」


「うん…」


 とても悲しそうな声でユルンは応える。

 今日はカインがユルンに指導する日の最終日、初の下層に到達するのだ。


「今日こそは100点で頼むぞ?」


「…」


「ユルン?」


 ユルンは急に黙ってしまい、俺何かしたか?!と考えてると


「カイン……私ね、今日が終わっても、また君に会いに来てもいい?」


 俯いたまま、ユルンが消え入りそうな声で尋ねる。

 カインは門番にギルド証を提示しながら、一度だけ彼女を振り返った。


「……ああ。強くなったお前なら、歓迎するさ」


 嘘ではない。

 だが、カインの脳裏にはオーウェンが写っていた。


(悪いな、ユルン。明後日からは――お前をこの危険に巻き込むわけにはいかないんだ)


 カインは自らの決意を隠し、暗い口を開ける迷宮へと足を踏み入れた。







 ―その背中を、ギルドの屋根の上から見下ろすローブの影が3つ。


 そのうちの1人の手には、不自然に蠢く黒い斧が握られていた。




◇◆◇




ー第35層ー


「よし、一旦休憩にしよう」


 俺が提案すると、ユルンは


「分かった」


 やはりまだ悲しそうな声で答えた。



 …これは雰囲気を変えなければこの先危ないな



「なあユルン」


「何?」


「魔王に復讐する為にお前は力をつけてるんだろ?」


「うん」


「じゃあさ、それって1人で倒すつもりなのか?」


「当たり前じゃん、私の仇だもの。誰にも渡すつもりは無いわ」


 これが原因か、彼女が力をつけるのを急いでいるのは。

 確かに自分の仇は誰にも渡したくない、それはわかる。


 だって俺も最初はそうだったから


「そうか、でもさ昨日も言っただろ?蛮勇は禁物だって」


「…蛮勇をしてでも強くなって仇を打つの!!」


 少し怒った声でユルンは言葉を放った。

 彼女にとって仇は自分の命よりも大事なのかもしれないな。


「じゃあさ、その蛮勇のせいで周りに心配をかけること分かってるか?」


「周り?そんなものいないわ全員死んだもの、他でもない魔王のせいで」


「何言ってんだ?ここにいるだろ?」


「…ふぇ?」


 彼女は驚きで目を見開き、素っ頓狂な声をあげた。


「こ(・)こ(・)に(・)俺っていう友達、周りの人間がいるだろ?だからそんな蛮勇で勝手に死なれたら、俺が悲しむ!」


「…はぁ?!」


 ユルンは実際カインの事はたった数日一緒に協力するだけの関係だと思っていた。

 だが、カインは違った。

 ユルンの事を大切な弟子でありながら、友達としても見ていたのだ。


「俺はお前っていう大切な友達に死んで欲しくないんだよ」


 そんな優しい表情、優しい声でユルンに想いを伝えた。


 ――もう仲間を失うのはごめんだ


「わ、分かったわよ…もう焦ったり、1人で挑もうとはしないわ。ちゃんと仲間を探して一緒に仇を討つ」


 とても真っ赤な顔でユルンは答えた。


「ん? ユルン顔赤いぞ? 熱でもあるのか?」


 カインが真面目な顔で、あろうことか彼女の額に自分の額を寄せようとした。


「……っ!!  バカ!  どんかん!!  死ねっ!!」


 耳まで真っ赤にしたユルンの全力の罵声を浴び、カインは呆然と立ち尽くす。


「なんで?!」


 カイン・ディペンダー(どんかんバカ)は何故自分に暴言を吐きかけられたのか、分かるのはずっと先である。



 …否ずっと分からないかもしれない。









ー第49階層ー



 「フッ!」


 カインが前衛で前の敵を蹴散らし、ユルンが取りこぼした敵を弓で射ている。


 そんな調子ですすんでいると、目の前にオークが現れた。

 それも20体も


 この前のトラウマがあるユルンはどうするのか

 そう考えていると、彼女は既に弓を引いて敵に囲まれないように走りながら詠唱を行っていた。



「我は欲する。風を、空を覆う風を、害を蹂躙する風を、絶望を撒き散らす風を。混沌をもたらす黒風を天より降り注ぐ嘆きを束ね、地に渦巻く慟哭と共に羽に変えよ。因果の螺旋を歪め、光なき空虚より出(い)でて全てを無に帰さん。我が願いに応えよ四大精霊シルフ! 静止した時を切り裂く黒き牙よ、吹き荒べ!

『暗黒嵐(ダーク・ストーム)』!!」



「は、はぁ?! 上級魔術を並行処理?!」


 彼女が放った魔術のおかげで全てのオークだけでなく、この先にいた魔物までも屠ってしまった。




「どう?!カイン!」


「ア、ウン、スゴカッタネ」


 カインは驚き過ぎて、声がカタコトになってしまった。

 ユルンは規格外にも程がある事を行っていたからだ。


 普通の魔術士は基本的に中級魔術が限度だ。

 上級魔術からはイメージだけでなく、四大精霊に自らの願いを届けて力を借りなければならない為、強い意思を持たなければならないのである。


 それを彼女は並行処理していたのだ。

 しかもランク3の彼女が


 『天頂の円卓』クラン所属『ベーラ・メリキス』ですら


「何かをしながら魔術を使う並行処理は難しいよー(笑)」


 と発言していた為(彼女は当たり前のようにできる)どれ程ユルンがヤバい事をしていたのかカインには分かる。



 ちなみにベーラは既存の特級魔術なら全て並行処理できる。

 流石『天頂の円卓』(バケモノの住処)



「あの…うん、300点あげるよ」


「本当?! やった!」


 満面の笑みを浮かべ、ユルンが駆け寄ってくる。

 その姿は、復讐に燃える魔術士ではなく、ただの年相応な少女に見えた。


「てか、なんでそんな力あるのにオークに敵わなかったんだ?」


「連戦続きで魔力と、体力が尽きてたのよ」


 そう、万全の状態ならあの瞬間ユルン1人でオークなど倒せていた。

 しかし、度重なる連戦のせいで魔術を使い過ぎたり、走り過ぎで魔力と、体力が枯渇していたのだ。

 




◇◆◇




「ついに下層だな」


「そうだね」


 カイン達は第50階層の終盤まで来ていた。


(ギルドの情報によると、次にフロアボスが産まれる(リポップ)まで後20日。案外簡単に着きそうだな)


 フロアボスを討伐した場合ギルドに討伐した日時を伝えなければならない。

 フロアボスがいつ出現するか分かれば冒険者達が下の階層に行きやすいからだ。


 カインがフロアボスが居る部屋へと続く扉を開けようとした瞬間―



「ーーッ!!」



 後ろへと飛んだ。


 扉の先から身の毛がよだつ程の、とんでもない気配が感じられたからだ。


「ユルン! 今すぐ引き返…」



『ドゴォン!!』



 カインの声を遮り、巨大な石扉が礫のように飛んできた。



 扉を飛ばした正体は…



「あれは…第50層フロアボス『魔術の亡者(リッチ)』…なの?」


 リッチは漆黒の祭服を着ていて、赤い宝玉が埋め込まれている杖を持っているとギルドの情報にあった。


 だが、目の前の怪物は、鮮血のように紅い騎士装束で身を包み、一振りの長剣を手にしている。



 もはやリッチというより、騎士の亡者(デスナイト)といえるだろう。


 だが、そのプレッシャーは国の精鋭騎士達とは比べ物にならない程圧倒的だ。


「リッチのはずが、剣を持った騎士……!?  ギルドの情報と違うじゃないか!」


 カインは冷や汗を拭い、剣を構え直した。


 奴の手にした長剣から放たれるのは、迷宮の岩盤を震わせるほどの苛烈な剣気だった。


「カイン、あいつ来るわよ……っ!」


 ユルンが叫ぶと同時に、デスナイトが地を蹴った。

 

 速い。


 残像すら置き去りにする踏み込み。振り下ろされた凄まじい一撃を、カインは剣を斜めに滑らせて辛うじて逸らす。


 ――ガギィィィィィィン!!


 凄まじい衝撃がカインの腕を痺れさせる。


(……出力で負けるのは慣れっこだ。だが、この『速さ』は異常だぞ?! 速(・)さ(・)だ(・)け(・)な(・)ら(・)ランク8にも匹敵するくらいじゃないか?!)


 カインはバックステップで距離を取りながら、左手で魔力を練った。

 

「ユルン!  300点の続きを見せてみろ! ――上級で足止めを頼む!!」


「え、ええ……分かったわ!!」


 ユルンが再び上級魔術の詠唱を開始する。


 カインはその隙を作るため、あえて敵の剣筋の中へと飛び込んだ。




 戦いはまだ始まったばかりだ。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


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