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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第三章  『迷宮区グラン』

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第58話  『─ ─ ─』



 『ヴヴヴァァァ!!!!』


 「単純過ぎる。あいつ(オーウェン)に遠く及ばないな」


 俺は殴りかかってくる左拳に対して瞬時に『藍』を放ち─ ─斬断する。


 『ァァァア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!!!』

 

 「騒ぐなよ。片腕が飛んだだけだろ?」


 王猩猩(キングゴリラ)の赤黒い血が俺にも飛び散るが、全く気にせずに追撃に入る。弱った所を斬って斬って斬り刻む。


 『ヴァァァ!!!』


 「さっきまでの威勢はどうしたんだよ……」


 残念そうに呟くカインの瞳は紅く染まっており、非常に冷徹な雰囲気が感じて取れた。本能で恐怖しているのか、王猩猩(キングゴリラ)は先程から殆どが『逃げ』だ。一向に反撃してこない。

 どうしても危ない時は自分の腕で防いでいるが、顔は恐怖を示していた。

 やはり、オーウェンとは全然違うなと残念そうにカインは思った。


 「そろそろいいか? もう鬼ごっこは飽き飽きだ」


 『ホヴヴヴ………、ホヴヴヴ………』


 「そんな警戒すんなよ。俺はお前よりも格下なんだぞ?」


 全く信用のならない発言を王猩猩(キングゴリラ)は無視しながら、どうやって逃亡するか、それだけを考えていた。

 もう戦う気など無くなっていたのだ。身体に染み付いている恐怖はそれだけ深かった。


 だが、強者だからこそ分かる。

 コイツ(カイン)からは逃れられない、と。

 地の果てまで自分を追いかけてくるという確信があった。

 なら、なすことは決まっている。


 『ホッホッホヴヴ!!』


 「! 殺る気になったか─ ─」


 カインが喋り終える前に渾身の剛腕の打撃(ラリアット)が白銀の剣にぶつけられる。

 とんでもない膂力にカインの剣はどんどんと押されていく。


 「……『青』─ ─がっ」


 『ホッホッヴ!!!』


 『青』で受け流そうと考えていたカインだが、急に自分の腹に王猩猩(キングゴリラ)の右(・)膝(・)か(・)ら(・)攻撃を喰らい、悶えてしまう。

 その瞬間に剣は剛腕の打撃(ラリアット)に完全に押し切られ、吹き飛ばされる。


 近くの大木へと叩きつけられたカインは痛みに悶えるように腹を抱える。王猩猩(キングゴリラ)は一撃を喰らわせられたのが嬉しいのか、元気に俺をその巨大な図体で推し潰そ(プレスしよ)うとする。



 これで決まると、奴は思っている。

 あくまでも奴は猿。人の知能には敵わない。

 そう、罠(トラップ)になんて気づかない─ ─


 悶えている今しか攻め時らないと、王猩猩(キングゴリラ)は考えていた。─ ─否、考えさせられた。猿の考えなど、思考が澄んでいる今のカインなら手に取るように分かってしまう。


 『ホッホッホッ!!!』


 「─ ─覚えとけ。最後の攻撃が一番油断するんだよ」


 悶えていたカインはまるで急に痛くなくなったかのように、スっと立ち上がり、その事実に王猩猩(キングゴリラ)は驚愕する。弱っている筈だった!! 何故立ち上がる?! と驚きを表情に出してしまう。


 「─ ─『ポンス・イリディス』」


 『ゥゥヴヴヴア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛?!?!?!?!?!?!?!』


 この階層で一番強い魔物の絶叫が轟く。

 7連撃の奥義が迷宮(ダンジョン)を震撼させ、周囲の上位猛猿(メドコング)達は即座にバケモノ(カイン・ディペンダー)から退散する。

 自分達よりも圧倒的に強い奴(キングゴリラ)が殺られたのだ。敵うわけがない。

 本能のまま、猿共はその場から逃げ出すのであった。






◇◆◇ 






 「ハァ……ハァ……」


 肩で息をしながら皆の元へゆっくりと歩いて行く。

 自己境界(冷徹さ)は切ったため、異力の消費もそこまででは無くなった。

 少し歩いていくと、数名の人影が見え、こちらに首を傾けた気がした。


 「カイン?! やっと見つけたぜ!」


 「大丈夫?! 直ぐに手当てするから!!」


 「カイン! 大丈夫?! アイツはどうなったの?!」


 各々が俺に心配する声を投げかける。

 俺は安堵で、その場に座り込んでしまった。

 彼等の後続には、メルダと、兄貴がいた。


 「カイン……勝ったんだね?」


 「あぁ……勝った。まぁ、いい経験になったよ」


 「ほざくな雑魚。お前はまだまだヒヨっ子だ」


 メルダが優しく俺に勝敗を聞いてくる。俺は当たり前のように勝利を宣言する。

 今は兄貴の厳しい言葉ですら、優しく感じた。ていうか、多分二人共負けを疑ってすらいなかった。


 「……? アルバートさん達は?」


 「あ゛ー、置いてきた」


 「へ?」


 いやまあ独断行動に走った俺も駄目なんだけど。でも、第一部隊の貴方(メルダさん)は絶対単独行動しちゃダメじゃない?

 兄貴はともかく。


 俺達は兄貴の肩を借りてゆっくりとアルバートさん達がいる方へと向かおうとして─ ─

 

 「?! っ─ ─」


 『?!』


 急に俺目掛けて飛んできた凶器(ナイフ)を咄嗟にメルダが剣で弾く。突然の出来事に皆が足を止めて驚き、ナイフの出処を探ろうとする中、樹海に聞き覚えの無い声が響いた。


 「フフフ………凄いですねぇ。カインさん。まさか王猩猩(キングゴリラ)を倒せる程強くなっているとは思わなかったです」


 俺達の横の大木から薄らとした人影が出てくる。ソレは近づいていく度にゆっくりと濃くなり、やがて紫色の総髪を流しながらコツコツと高価な靴の音を響かせる男が現れた。


 「……誰だ? 見慣れねぇな?」


 「『剣豪』、カール・ディペンダーさん。貴方の事はよぉーく知ってますよ。クエストをこなさない所か、ギルドからの強制クエストすらも無視する『怠惰の最上位冒険者』」


 「……クソダセェ異名ついてんな……」


 確かに怠惰って言葉は兄貴にピッタリだと俺も納得してしまった。

 それはさておき、俺にナイフを投げてきたということは明確な敵なのだが………こんな【深層】まで潜れる奴なんて滅多にいないぞ……?


 「貴方、お仲間は?」


 「ごきげんよう、メルダさん。今日も貴方は美しいですね」


 「─ ─答えて」


 メルダは既に剣を抜刀状態にして全力で警戒しており、いつでも奴に斬りかかれそうだった。そんなプレッシャーをものともせず、奴は悠々と答える。


 「……仲間はいません。ワタクシ一人です」


 「そんなわけないでしょ。ここに一人で来れる人なんて、アルバートさんや、クリステラさんくらいしかいない」


 「─ ─『ランク0』。聞き覚えは無いですか?」


 『ッッッ!?!?』


 この場にいる全員の瞳が開かれる。─ ─否、ザインは分かってなさそうだった。

 『ランク0』─ ─冒険者の中で話題になっている隠語だ。

 ランクが無い=冒険者として正式に登録していない。


 その意味は─ ─『犯罪クラン』のメンバー。それを示唆していた。


 「貴方……まさか『犯罪クラン』の……」


 「その通り! ワタクシの名は『紫電』……とでもお呼びください」


 最悪だ。まさか『犯罪クラン』の奴とこんなところで出くわすなんて。

 『犯罪クラン』とはギルドに登録せずに活動を行うクラン。活動内容は、強盗、冒険者殺し、密輸等……多岐にわたる。その実態は、ギルドですら掴めていない。なんならメンバーの正式な名前ですら判明していない。

 その、強(・)さ(・)す(・)ら(・)も(・)明(・)確(・)に(・)は(・)分(・)か(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。


 「そこまで教えてくれるって事は、俺達なんか簡単に口封じ出来るってことか?」


 「まさか。最上位冒険者級の人達を3人も相手に出来るほどワタクシも強くは無い」


 「どうかな。貴方はランク9の、それもかなり上位の戦闘力を持っているみたいだけど?」


 メルダがスキル『絶対観測』を使用し、『紫電』の戦闘力を調べるが、少なくとも、自分や、カールよりかは格上だということは確実であった。

 つまり、目の前の敵は、迷宮(ダンジョン)内のアルバートに匹敵する実力を持つ可能性があるのだ。


 「さあ? それはご自身の目で確かめてみてはどうですかね?」


 次の瞬間、俺と兄貴の横で火花が散った。

 『紫電』が握る細剣と、メルダの白剣がぶつかり合ったのだ。

 『紫電』は男にしては意外と細身なのにも関わらず、メルダを完全に圧倒していた。


 「重っ……」


 「ふむ、残念ですね。ここまであの『天長の円卓』が弱っているとは……もはや『猛火の花びら』の方が強いのでは?」


 「おら、こっちも見ろよッ!!」


 メルダと剣をぶつけ合っているところに、兄貴の二本の剣が乱入する。ザインはリアを護る位置にいるため、動けない。俺は先程体力を消耗し過ぎたのもあるが、兄貴とメルダに混ざると明らかに足手まといになるため、動くことなど出来ない。


 「面倒くさいですねッ─ ─!!」


 「がッ?!」


 「カール?!」


 黒と白の剣が『紫電』を襲うかに思われたが、何故か一瞬、紫の閃光が迸り、次の瞬間には、兄貴がその場に倒れていた。

 その事実に瞠目しながらも冷静に『紫電』とやり合えており、『紫電』は流石に彼女を放置出来ないと思ったのか、兄貴にトドメを刺すことはしなかった。

 俺は急いで、兄貴を担ぎ、戦線を離脱する。


 「おいっ! 兄貴っ!!」


 「……っ、クッソ……、頭痛ぇ……。何だったんだ? 今の」


 まだ意識が朦朧としているのか、彼は動くことすら出来ていなかった。俺はザイン達に兄貴を任せ、メルダの元へと走る。


 「メルダ!! ─ ─なっ!!」


 「くっ……」


 俺はメルダの横へと向かおうとしたが、『紫電』のとんでもない速度で投げられた無数のナイフにより、行く手を阻まれる。


 「弱い、あまりにも弱いですね。やはり今(・)代(・)が一番弱いですね。カインさん、貴方もかなり成長が早いようですが……」


 「……! 駄目っ!! やめてっ!!」


 

 「─ ─頂きすら見えていない」


 「ぁ────?」



 何故か、自分の胸から鋭利な刃物が突き出ていた。


 熱い、ただ、熱い。


 一度経験したことがあるような、ないような痛み。

  


 でも、なんだろう



 ねむい、ただ、ただ、ねむい。 





 「ッ─ ─!! カインーーー?!?!?!」


 「では、そろそろ貴方も逝ってください!」


 下へと瞼を閉じて落ちていくカインをメルダは助けに行こうと、早まってしまい、すぐ後ろに近づく脅威に気づかない。


 「っ─ ─!」


 「させねぇよッ!!!」


 だが、間一髪でカールの剣が『紫電』の細剣を阻んだ。

 『紫電』は明らかに表情を曇らせ、少しの焦りも感じられた。


 「っ……本当に面倒ですね……仕方ないです、怒られますが、アレを使いましょう」


 「「?!」」


 辟易しながら呟く『紫電』がポッケから取り出したのは謎の立方体(キューブ)。見たこともないその得体のしれない道具に、カールとメルダは最大限の警戒をしていた。


 「それでは、またお会いしましょう」


 「何を言って─ ─?!」


 「魔法陣?! それもこんなに広範囲の!!」


 『紫電』が姿をブラし、そのまま消える。そのことすら気にすることを彼等は許されない。

 なぜなら彼等の下に急に巨大な蒼の魔法陣が出現したからだ。

 半径500mほどはあるだろうか。こんなに大きな魔法陣を使う魔術など、聞いたことがなかった。


 「まずいぞっ!! ザインとリア、ユルンは範囲外だが、下に落ちてるカインは当たっちまう!! メルダ! お前だけでも先に行けッ!!」


 「嫌っ!!」


 カールの忠告を無視し、メルダはこの場に留まろうとする。その事にカールは少し苛つき、言葉を荒らげる。


 「ッ!! さっさと行けッ! 巻き込まれるぞ!!」


 「─ ─もう、カインと離れたくないっ!!」


 「っ……、あ、おいっ!!」


 カールの目の前には昔のように瞳を潤した少女が映り、彼女はカールの手を思い切り振り払い、そのまま下へと降下して、落ちたカインの元へと向かった。

 当然、カールもその後を追いかける。


 (……この魔法陣、どこかで似たヤツを見た気が……?)


 だが、今はそんな思考をしている暇は無い。一刻も早く弟を救い、この場から退散しなくてはならない。

 その事を念頭に置いて、カールも全速力でメルダを追うのであった。 






◇◆◇






 ねむい─ ─寝るなッ!!


 もう、いいや─ ─立て!! 早く!!


 もう、むりだ─ ─お前は、まだ何も成せてない!!



 ぼんやりと浮かぶ右半分の視界には、一面が蒼に染まっていた。

 左半分は、暗くて見えない。

 熱い。熱い。熱い。

 酷く、苦しい熱さ。でも、どこかで一度同じような状況があった気もする。



 意識が段々と薄くなっていく。


 ああ、俺、死ぬのか─ ─





 『先に行って!! ■■ダっ!!』


 『で、でも! それじゃあカインが!!』



 ─ ─これは、走馬灯?


 ─ ─所々ノイズが走っているが、明らかに昔の俺の姿だ。


 ─ ─顔は見えないけど、あの白髪の女の子はもしかして……



 『大丈夫!! 足怪我してるでしょ? ちゃっちゃと倒して、直ぐに追いつくから!!』


 『ほ、本当? カインなら、勝てるの?』


 『……楽勝!』


 『……、わかった! 近くに人がいないか探してくる!!』


 『─ ─うん、じゃあね』



 

 熱い、苦しい。


 痛い、痛い、痛い痛い痛い。


 自分のお腹に真っ赤な花が咲いていた。

 目の前では異形の鳥が、俺をあざけ笑っている。

 

 夢だって、叶えられていない。あの、景色が見たかったのに。

 

 ─ ─そう、だった、のか? ここの記憶が無い。


 ─ ─こんな絶望的な状況で、一体どうやって……



 『─ ─ ─』


 誰かが、俺を呼んでいる気がする。

 ■■■? いや、違う。とても聞き覚えがあって、俺を包み込むような、優しさ。


 ああ、そうだ。


 やっぱり、────。


 ねぇ、───。


 俺、まだ諦めたくない!


 『────、──────』

 


 うん、大丈夫。


 二人でもやっていけるよ。だから、─────。



 ─ ─……は?


 ─ ─次の俺の視界では、既に異形の鳥はぐちゃぐちゃになっていた。 


 ─ ─一瞬、ほんの一瞬だ。見間違いかもしれないが……



 ─ ─閃光が瞳を走らせた気がした。



 ─ ─そしてゆっくりと、『俺』の視界もぼやけていって────


 



 『─ ─ ─』




 呼ばれた、気がした。



最後まで読んでいただきありがとうございます!


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