第56話 竜の都
【深層】へ潜り初めてまだ、たったの数時間。
現在地は第82階層─ ─『竜の都』と呼ばれる場所の中域。
「ッ─ ─『覇断』!!」
『グキャウ─ ─』
『覇断』を使い過ぎてる─ ─いや、異力の使いすぎのせいで身体がヘトヘトだ。今も青竜に使ってしまった。
ユルン、リア、ザインは近接戦闘が得意なザインを筆頭にスリーマンセルで行動を共にしている。
ユルンが魔術で相手を牽制し、そこにザインが斧を振り下ろす。怪我をしたらリアに回復してもらう。かなり連携が取れていた。
ちなみに俺も一緒にやろうとしたのだが、兄貴に「お前は一人だ!!」と元気よく目が笑っていない笑顔で言ってきので、無言で従っていた。
だが、俺と違って、最上位冒険達はやはり流石だ。
竜一匹に『覇断』など使わず、楽々と一匹、また一匹と倒していく。
特にアルバートさんは圧倒的だ。
一匹倒すのに10秒もかかっていない。
赤竜や、青竜よりも強いとされる黒竜ですら相手にならないほど強い。
俺達は第81階層よりもかなり横幅が広がった道を進んでいた。
周りには火山が連なっており、数秒に一度噴火していた。天を見上げても、暗いモヤがかかっており、よく見えない。
ベーラさんが言うには、あそこにはとんでもない量の『幻覚魔術』が何重もかけられているらしく、『夜空の灯火』を使っても見えないらしい。
この階層はそこら中に竜が飛び回っており、できるだけ戦闘を避けたいのだが、それを可能とさせてくれない。
竜を一匹倒したとて、また次の竜が俺達に襲いかかる。
ちなみに過去、第一部隊の人達は、ここで素材集めをしていたらしい(換金するとかなり高額なため)。
………死の危険とか感じないのかな。
更にこの階層で、最もヤバい事がある。それは─ ─
「出たね! 龍!」
『ォォォオオオオオオオオオオ!!!!!!』
そう、龍が出現する確率が他の階層と比べてかなり高いのた。流石に英龍がこの階層で出た事例は無いらしいが、古龍は稀に、劣龍はかなりの確率で出現するという。
「今回は劣龍か。じゃあ、私とメルダだけでじゅーぶん」
「いけるかい? ベーラ、メルダ」
「「もちろん!!」」
彼女達は掛け声と共に、目の前の蒼い龍へと武器を向ける。
ベーラさんがメルダに強化魔術を付与し、メルダは龍へと駆け出す。
龍は凍てつく程のブレスを彼女に吐き出すが、握る白い剣は赫へと染まっており、吹雪は簡単に溶けていく。
「─ ─【装填・火の加護】──『炎炉の斬』」
「【爆ぜろ、太陽】─ ─『核炎撃覇』」
『オオオオオオオオ!!!!』
メルダの炎斬が龍のブレスと、片目を奪う。
その隙を見逃さず、ベーラさんが特級魔術を放ち、周囲一帯に大爆発を引き起こす。
劣龍は必死になって回避しようとしたが、流石に全ては避けられず目に見えて重症を負う。
激痛により怒り狂った龍は自らの尾をメルダへと振り下ろすが、彼女はそれを剣で受け止める。
当然尾でこいつはやられるだろうと思っていた龍は一瞬その事実に驚愕する。
驚くだろうと分かっていたベーラは事前に2つの詠唱を唱えており、更に脳内で、同時に3つの魔術の詠唱を完了させていた。
本来詠唱とは口に出して行わないといけない筈なのだが、詠唱はあくまで『イメージ』を確固たるものにするために行うのであって、必ず必要では無い。
まあ、脳内詠唱が出来る者など、迷宮区には彼女しかいないが。
ちなみに神聖国家にいるランク9の冒険者、『リルカ・アスメリカ』もできたりする。あの国の冒険者達は皆、口を揃えてこう言う。
『リルカちゃんは凄いんだ!!』
ちなみに本人曰く、ほんっっっとうにやめて欲しいらしい。理由は単に恥ずかしいからである。
ベーラは奴に向けて5種類の色が違う魔法陣を展開し、そのまま奴に向けて─ ─ぶつける。
『氷葬の檻』、『焦熱の嵐』、『懺悔の宴』、『断罪の光剣断罪の光剣』、『暴風波』。
氷の槍、灼熱、闇の手、光の剣、極風……とんでもない威力の特級魔術が5つも、龍へとぶつけられる。
龍は絶叫をあげ、迷宮に轟く声を必死に出すが、どの竜や、この階層のどこかにいる龍達も誰も助けに来ない。
竜や、龍には仲間意識が無いからだ。
稀に竜の群れはあるが、単に食料を求めて探す場所が偶然同じだっただけである。
奴らは縄張り争いは比較的少なく、喧嘩もしないが、助けたりもしない。
自分でどうにかしろの精神である。
目の前の劣龍はその事実に痛感し、逃げようとするが、風のように移動したメルダが奴の前に立ちはだかり、剣を振るう。
「─ ─【装填・風の加護】」
『ォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!』
何故邪魔をするのかと言っているような雄叫びをあげ、龍はメルダに向けて自分の鉤爪で切り刻もうと思ったのだが─ ─
『ォァ?』
「『旋風の斬』」
不可視の風の斬撃が逆に龍を切り刻み、見ることすら叶わなかった龍は自身に何が起こったのか分からず、そのまま目覚めることのない眠りへと誘われるのであった。
◇◆◇
第83階層、『海淵の魔窟』。
この階層では主に魚類の魔物が出現する。
基本的に地上の海には信じられない程強い魔物がいるから近海以外は行かない。
そもそも海の先には世界の果て─ ─断崖絶壁があって、それを見たが最期。激しい海流に呑まれて身動きなど取れず、そのまま崖に落下して二度と地上に戻れないのだと言う。
まあそもそも多分死ぬんだろうけど。
だから漁師の数はとても少なく、料理で魚類が出るのは滅多に無い。
「……疾ッ─ ─」
『グァッ?!』
ケリオスさんが素早い速度で先頭を追い越し、最前線へと立って敵を簡単に屠っていく。
ちなみにこの階層は他の【深層】の階層に比べてかなり簡単らしい。そこまで力を使う必要も無いのだと。
………え?
あの『魚怪人』一体でランク7くらいあるよね……? それも数十体が固まって動いてる。各々が武器を所有しており、普通のランク7魔物よりも知能があるため、かなり脅威である─ ─筈なのだが、ケリオスさんは一瞬で三体も持っていき、一人でも充分だと言わんばかりに楽々と攻略していく。
「あ、あの、手伝ってあげないんですか?」
「多分大丈夫だよ。この階層は楽だしね。休憩もできる」
その恐ろしい発言にドン引きしながら、俺達は先程の二階層とは違い、スイスイと先へ進んで行くのであった。
◇◆◇
「ここが、第84階層─ ─『黒緑の樹海』……」
一帯は漆黒の樹木に覆われており、鼻を木の心地よい香りが埋めつくし、油断へと誘う。
今回の『潜攻』の目的はこの階層でのみ採取できる『黒の樹皮』と、『黒の枝木』を数百集めること。ちなみに『黒の樹皮』一個で10万もギルドで売れるらしい。
……一個くらいポッケナイナイしてもバレなさそう
……いや、しないけど。
「……じゃあ各自このバッグに指定した入れてください」
メギアさんに手渡されたのは、アーティファクト『天の御袋』。
入れた物質の質量を10分の1まで軽くしてくれるという。
俺はそれを持ち、少しづつ素材を集めていった。
当然、ここにも魔物は出現する。
特に多いのは『上位猛猿』と、『王猩猩』。
上位猛猿はランク7で群れて活動し、更に魚人よりも知能がかなり高いためランク8とも言われている。
でも、もっとヤバいのが王猩猩だ。
あいつはランク8に指定されているが、個体事にかなり差があり、ランク9の個体も度々確認されているらしい。
奴の破壊力は直撃を喰らえば、ランク8でも即死する可能性があるほど恐ろしく、足がそこまで速くないため大体は遠距離で殺すらしい。
『ウッキャウッッ!!!!』
「『覇断』─ ─」
兄貴が二振りの緑に輝く剣で猿共を斬っていき、俺達の道を切り拓く。リアや、メギアさんは戦闘能力がそこまで高くないため(特にリアなんてランクはまだ2。ここにいる時点でそもそもおかしい)、俺達で囲いながら採取を行っている。
ここで採取を完了させたら、一度休息を取り、第80階層へと戻って後続と合流し、そのまま帰還するらしい。
ほんの少し、ほんの少しだが─ ─俺に一抹の不安が何故かよぎった。
◇◆◇
「フフフ……来ましたね。アルバートさん。この日を心待ちにしてましたよ……」
紫色の総髪の男がただ一人、樹木に座っていた。騎士団団長の薄紫色の髪よりもかなり濃い紫だった。
彼の周りには大量の食料や、水分などの物資が存在している。
横には焚き火の跡が残っており、焦げた炭が木の心地よい香りを侵食していた。
「確か……リア・シリオンさんでしたっけ? なんでそこまでして彼女が欲しいのやら……あの方々の考えはいつも分かりません」
男が所持している細剣は髪色と同じく紫の瘴気を漂わせており、相当な業物だと見て取れる。刀身は未だ素肌を露わしていないが、レイピア意思があるかのように虎視眈々とその機会を伺っているようにも思えた。
「さて、アルバートさん。あの日を再現してあげますよ。このワタクシが………!」
男は薄気味悪い笑みを浮かべ、樹木から立ち上がり樹海の中を進んで行くのであった。
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