第53話 アーケイン
『※※※※※※※※※…………?』
扉の先には、一匹の鳥が翼を閉じて黒く、静謐な空間に佇んでいた。
だが、奴は鳥と言っていいかは怪しい。
奴の肌は全身がオリハルコンで出来ており、瞳は見たこともない赤い宝石の様なものが埋め込まれていて、とても生物とは呼べない。
名を ─ ─ 古代兵器。
【深層】へと進もうとする挑戦者を阻む主である。
「散開!」
アルバートさんが叫ぶと共に、第一部隊全員がバラけ、様々な場所に配置に着く。
扉を開く前の空気とは一転し、最上位冒険者の名に相応しい雰囲気を感じた。
古代兵器は挑戦者が来たと分かると、目を妖しく光らせ、翼を広げて飛び上がった。
「いくぞ? 古代兵器─ ─!!」
「【開け、激炎の森。其は赤を纏う者】────『炎天覇』」
『※※※※※※※※※!!!!』
ベーラさんが詠唱を行い、右手から見たこともない威力の炎を奴に放つ。
流石にそれだけで倒れることは無いが、焦げた羽を見た奴は苛立ちを確かに見せていた。
「落ちろよ─ ─『空撃孔』!」
『───※※※※※※※※※※※!!!!』
ルークさんが槍をとんでもない速度で奴の翼を2翼ごと簡単に突き刺した。オリハルコンがまるでとても柔らかい素材と見間違える程の威力である。
奴は自分の生命線とも呼べる翼を刺されて、絶叫の金切り音を迷宮内に響かせた。
そのままゆっくりと地上に降下して行き、メルテスさんが目を光らせて大剣を振りかぶる。
「『一の章』─────『鬼喜宴歌』!!」
『※※※※※※※※※※!!!』
メルテスさんの角が少しだけ伸び、身体も少しだけ大きくなった気がした。そのまま彼女は、奴に大剣を振り下ろすが、そうはいくまいと、萎れた翼を広げ、ナニかを生み出した。
『───『※※※』!!!』
「ぬん!!!」
生み出したのはオリハルコンの羽、約200本。どれも先が鋭利であり、いとも簡単に人を貫ける威力であったのだが─ ─そんな物などお構い無しと言わんばかりに、彼女は回避では無く、突撃を選択した。
「ハハハハ! 温い! 温いぞぉ!!!!」
『※※※※※※※?!?!』
メルテスさんは襲い来る羽を次々と大剣で打ち砕いていく。羽のどれもが、彼女の薄皮一枚すら破ることが叶わない。
もはや最高硬度金属とは名前だけにも思えてしまう。
「『二の章』─ ─『大鬼剣撃』!!」
『※※※※※※※!!!』
目の前に迫り来ることごとくを彼女は退け、遂に古代兵器の懐へと潜り込み、また一段階、角と身体を大きくする。
そのまま奴に大剣をから放たれる衝撃波で─ ─吹き飛ばす。
古代兵器が後退した先にいたのは音速。
二本のナイフを光らせ、敵をしっかりと捉える。
「………【加速】────」
『【※※※※※※※】───『※※※※※※』!!!』
古代兵器は『詠唱』のようにも聞こえるナニかの言語を発し、形状を変化させていく。話に聞いていた『第2形態』だ。
奴の姿は吹き飛びながらもみるみると変わっていき、最終的に狼のような姿へと変貌した。
アルバートさんが言うには、『古代鳥』は雑魚。
飛んでるのが面倒くさいだけだから落とせばオッケー、らしい。もはやどっちがバケモノかわかったもんじゃない。
だが、『古代狼』はちょっとだけ強いらしい。………ちょっとってなんだよ。一応迷宮内最強なんですけど?
素早い動きで、相手を翻弄して無残にも噛み砕いて、食い殺すらしい。なんて怖い。いや、実際その相手が目の前にいるのだが。
狼へと姿を変えた古代兵器は空に浮かされていたが、何とか地面に足を着き、そのまま目の前の敵へ向けて疾走する。
「…………『1連撃』」
『※※※※※?』
ケリオスさんは迫り来る古代兵器に軽い傷を入れる。もう少し強い攻撃が来ると予想していたのか、奴は不思議そうにして、体勢を立て直した。
『※※※※※※※※!』
そのまま奴は、ケリオスさんに向かって高く、跳び上がり、彼をその鋭利な牙で貪ろうとするが、既に彼はそこにいなかった。
「…………『2連撃』」
『※※※※※※※※※※?!?!』
彼がいつの間にかいたのは古代兵器の真上。
二本のナイフを逆手に持ち替え、奴の脳天に突き刺す。そのまま奴は絶叫を始めて、ナイフが頭に刺さった状態で周囲を暴れながら走り回った。
そこにゆっくりと近づいて行くのは、美しく、思わず見蕩れてしまう────ぐゲッ……ユルンさん痛いっす────白髪の女性、メルダ・ディンス。
美しい白の剣の切っ先を奴に向け、その静謐な瞳を閉じている。
「─────【其に加護を付与せん】」
『【※※※※※※※※※※※※※】───『※※※※※』』
「え、あれ、大丈夫?」
俺の目の前には暴れ走りながら詠唱を行い、自分の口から図体を超えるほどの炎球を放とうとしている古代兵器の姿が見え、メルダが危険では無いかと思った。
奴は暴れながらも、しっかりとメルダの事を睨みつけている。
対する彼女はその瞳を露わにせず、真っ直ぐと身体を奴へと向けていた。
『────※※※※※※※※※※!!!!』
「─ ─【装填・水の加護】」
古代兵器はそのまま業火を彼女へと放ち、己もメルダに襲いかかる。
メルダはゆっくりと瞳を開く。その双眸は普段の『白』では無く、『青』に染まっていた。
彼女に炎が当たる、その瞬間───
「─ ─『静水の斬』」
『?! ※※※※※※※※※※※!!!!!』
彼女の剣が青く染まり、そのまま目の前に迫る火球を一刀両断した。斬った後、水刃のような物が彼女の剣から飛び、襲おうとしていた古代兵器の顔面に直撃し、奴は絶叫を響かせた。
顔の部分のオリハルコンは見るも無惨に引き裂かれ、更には未だに何度も何度もケリオスさんが奴の脳天を突き刺していた。
堪らず振り払おうとするが、しっかりと右手で釘を刺すように固定しているため、振り払えない。
『【※※※※※※※※※※】────『※※※※』!!!』
「おっ、来たか」
ならばと言わんばかりに奴は詠唱を行い、また形状を変化させていく。
まずいと思ったのか、ケリオスさんはナイフを抜き、即座に跳び下がった。
オリハルコンのデカイ図体がどんどんと縮小していき───最終的に、人型に収まった。
見た目からして、恐らく男型だろう。奴は銀の長髪を生やす。
今までよりも何倍の覇気を感じた。
奴は右手に一本の剣を生成させた。それがどれ程の業物か、俺には判別が出来なかった。
『嗚呼、オハヨウ、人間』
「─ ─本当に喋るのか………」
俺達は驚いたが、そこまでではなかった。事前に聞いていたからだ。まあ、聞いた時は信じられないと言っていたが。
奴はゆっくりと視線を先程まで自分を刺していたケリオスさんに、視線を向け─────
「…………危ないですね」
左手の人差し指を向けたかと思ったら、そこから赤い閃光を放ち、ケリオスさんを穿とうとした。
だが、彼は目に見えない速度でそれを回避し、既にアルバートさんの付近に立っていた。他の人達もゆっくりとアルバートさんの方へと後退していく。
『人間。今ハ何年ダ?』
「─ ─西暦1621年………僕ももう、言い飽きたよ………いちいち年を言うのは」
『─ ─! ………ソウカ。感謝スル』
少しだけ驚いたような雰囲気が見えた気がしたが、気のせいだろうか?
奴は剣を握り、切っ先を第一部隊へと向けた。
『─ ─迷宮ノ真意ヘト向カウ挑戦者達ヨ。我ガ名ハ、アーケイン。コノ階層ノ王デアリ、汝等ヲ阻ム者デアル』
「─ ─ ─ ─」
『汝等ハコノ先ニ何ヲ求メルカハ知ラヌガ、ココへ至ッタトイウコトハ、ソレナリノ強者ナノデアロウ…………』
「─ ─ ─ ─」
『ナラバ、コノ我ガ、汝等ノ覇道ヲ今ココデ潰エサセ─────』
「────『女神の擬月輪』」
「「「へ?」」」
古代兵器が話していると思ったら、急にアルバートさんの長剣が輝き、不可思議な緑の光に包まれ───彼はそれを飛ばした。
剣から見覚えのある緑光の波が古代兵器を襲い、奴の姿が緑で見えなくなる。
喋っている途中じゃなかった……? と、俺達は思い、アルバートさんの方を向いたのだが─ ─
「あんのなぁ? 毎回毎回同じ話聞かされたくないんだわこちとら」
眉間に青い筋を浮かべていた。
曰く、奴は産まれる度に、あの長話をしているらしく、何回も古代兵器を倒した彼等にとって、あの話は聞き飽きたらしい。
兄貴も「俺も立場が同じだったらやるだろーな」と言っていた。
俺達は少し、深層主の古代兵器が不遇に見えた。
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