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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第三章  『迷宮区グラン』

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第52話  潜攻開始



 早朝、軽く路地裏をジョギングしていると角から来る人とぶつかってしまった。


 「あ、すみません!」


 「ん? いや、大丈夫だよ。【英雄】の兄ちゃん」


 角から出てきた人は軽いフードを被っていて、その影で素顔がはっきりと見えなかった。声からして40代程の男性だろう。

 だが、チラリと見える腕には力強い筋肉と、歴戦の傷のような物が見えた為、俺は相当な強者だと瞬時に感じ取った。

 今の俺より強いとも感じた。

 でも、こんな人をギルドで見たことが無かった。あくまでも直感だが、ランク8と渡り合える程の実力だと思う。


 「【英雄】……?」


 「ああ? 謙遜すんなよ、兄ちゃんはこの迷宮区を襲撃した奴を一人殺(や)ったんだろ? 周りの奴らは皆『天長の円卓』を【英雄】と豪語してるが、俺はそうは思わねぇ」


 「………どうしてですか? 彼等は俺より強いんですよ?」


 ザインの件か、と俺は理解した。世間では俺が、謎の襲撃犯を殺害したとされているからな。

 俺は【英雄】について思っている事実をそのまま伝えると、彼は何を言っているんだと言わんばかりの顔で答えた。


 「あ? 【英雄】ってのは強い奴らの事じゃねぇ」


 「……え?」


 「弱え奴が、強い奴を倒すから凄えんだよ。強い奴が強い奴を倒すなんて当たり前だ」


 「─ ─ ─ ─」


 彼の言っている言葉には重みがあった。

 うっすらと見えたギラギラと光る眼は尚も俺を見つめている。


 「んじゃ、頑張れよ。今日から、『潜攻』────だろ?」


 「?! なんでその事を?!」


 「ま、色ぉーんなトコから情報ってのは漏れるもんだ。人ってのは─────怖えよな」


 なぜだかわからないが、俺は彼に殺意を向けられているような気がした。

 彼の腰には長剣が備わっているが、その刀身をいつ見せられるのか、少し怖かった。


 「じゃあな、カイン・ディペンダー。また会うだろうよ」


 そう言って、彼は俺の横を通ってどこかへと向かって行った。

 俺は彼が横を通った瞬間、ドッと冷や汗をかいてしまい、動けなかった。

 まるで、何人も簡単に殺しているような、そんな気がした。






◇◆◇







 「皆! 装備の最終点検を行ってくれ!!」


 アルバートさんの声が静かな朝の街に轟く。

 団員さん達は各々バッグを開き、持ち物は揃っているか、武器の予備は所持しているか、装備品は錆びていないか等を調べていた。


 俺達も一応点検を行っておくことにした。

 リアは新しいローブを新調したらしく、頭がフードで隠れていた。ザインは胸甲を装着し、斧を肩にかけていた。

 ユルンは今回、弓では無く、杖で。

 俺は腰に一本の剣に加え、アーティファクト『流星』を着ていた。黒色だが、ところどころに光が見える。


 これは自分の速度を向上させると共に、軽い鎧くらいの防御を誇る優れもの。

 【神聖国家】の宴の時に貰った物だ。


 兄貴はいつも通り腰に二本の剣。



 間もなくして、俺達は出発することとなった。

 準備は万全。『天長の円卓』の約半数が今回の『潜攻』に行くこととなったため、総勢約50名程度。こんな人数で迷宮(ダンジョン)に潜るのは初めてのため、少し緊張していたが、直ぐに自己境界(スキル)で平常心を取り戻す。


 俺達はそのまま、『地獄』への階段をゆっくりと進んで行くのであった。





 ─第50階層─ 


 いやいや、速すぎだろと叫びたかった。

 まず、たったの一日で休息地帯の第38階層へと辿り着き、あれよあれよと言う間に合計一日半で第50階層へと着いてしまった。

 大体10階層で半日かかるのに…………。


 「魔術の亡者(リッチ)は先日『晴天の丘』が倒したから大丈夫だな……?」


 「ああ………その筈なんだが……」

 

 アルバートさんの疑うような声にルークさんも疑うように答える。

 うん、俺でも分かる。い(・)る(・)絶対に。

 ユルンとの悪夢(デスナイト戦)が頭を一度よぎるが、ソレとはまた別の気配だった。

 つまりこれこそが本来の下層の門番(リッチ)。


 「あー、いいよ。コイツらにやらせれば」


 「「「「へ?」」」」


 兄貴はそう言うと、扉の前に立っていた俺、ユルン、ザイン、リアを突き飛ばし、扉の奥へと放った。

 しかも更に扉を閉めやがった。鬼畜!! 外道!!

と俺達は内心で叫ぶ。


 目の前にいたのは骸骨の魔物─────魔術の亡者(リッチ)

 リッチは漆黒の祭服を着ていて、赤い宝玉が埋め込まれている杖を持ってその場に君臨していた。

 俺とユルンは既視感に囚われた。


 「はぁ………またかよ……」


 「………イレギュラーってそう簡単に来ちゃいけないと思うのよね……」


 でも、不思議と恐怖はしなかった。なんなら今朝のおっさんの方が怖かった位(くらい)だ。

 今なら─────



 「なあ、俺が一人でやっていいか?」


 「……は? 何言って────」


 ザインが言葉を言い終える前に既に俺は走り出していた。

 白銀の剣が鞘から刀身を露わにして暗い迷宮(ダンジョン)内に輝く。


 「『覇断』───────」

 

 『?!?! ※※※※※※※※※※※※※※───────』


 奴(リッチ)は急いで詠唱を行うが、俺の方が圧倒的に速かった。これが魔術士よりも、剣士の方が強いと言われる由縁。詠唱する最中に斬ってしまえばいいのだ。


 俺は緑と白銀が交わる剣を一閃させ、奴の胴を水平に斬った。

 魔術の亡者(リッチ)はその状態のまま、直立し──────倒れる。


 「は、早え……」


 ザインが信じられないものを見たと言った顔でこちらを凝視してくる。俺自身も、自分の実力に多少驚いていた。最近は人とばかり戦闘していたから、知能が低い魔物なら戦いやすいのかもしれない。


 「よぉーし、さっさと行くぞー」


 「おい、クソ兄貴、一発殴らせろ」


 「あぁ? 殴れんならお好きにどーぞ」


 普通に、扉を開けて出てきた兄貴は両手でしっかりと鞘に収まっている剣の柄を握りながら、悠々としていた。

 その態度にもイライラしながら、俺達は奥へ、奥へと進んで行くのであった。






◇◆◇






 ─第80階層─


 第50階層からここまで約一日で辿り着いた。まあ、第60階層と、第70階層にフロアボスがいなかったから、という理由もあるが。

 今は第80階層のフロアボスがいる部屋の扉の前で休息を取っていた。

 例外(イレギュラー)を除き、フロアボスは自分が住む場所(エリア)からは出ないからな。


 「どーする? 俺達も参加するか?」


 「いや、腕も鈍ってるし、今回は僕達にやらせてくれ」


 アルバートさんは既に長剣を引き抜いて、座りながら軽く手入れを行っていた。

 他の第一部隊の皆さんも、各々が戦闘の準備を行っている。


 俺達は今回見学だそうだ。

 やっと最強と言われる『天長の円卓』の第一部隊の戦闘が見られると、俺達はウキウキしていた。


 第80階層のフロアボス─ ─ 古代兵器(アーケイン)のランクは10とされているが、全然劣龍なんかよりも強いらしい。ランク10より上のランク作った方がいいよなと俺は思った。



 「─ ─ 準備は?」


 「装備品、どれも異常無しです」


 「アーティファクトも正常」


 団長(アルバートさん)の言葉に端的にメルダさんと、ベーラさんが答える。

 彼等が所持している武器はどれも一級品に見えた。


 ルークさん他は不敵な笑みを浮かべながら、扉を見詰めている。


 

 「じゃあ、行くぞ?」


 「おう!」


 「はい!」


 「はーい」


 「うむ!」


 「……はい」


 「はい」


 似ているようで違う、様々な種類の返事を各々がアルバートさんに返しながら、彼等は扉を開き、歩みを進めた。


 俺達も、兄貴の後ろに続き、深層の番人(フロアボス)の住処へと足を踏み入れるのであった。




最後まで読んでいただきありがとうございます!


僅かな時間で屠られる魔術の亡者(リッチ)さんに黙祷! 

いや、既に死んでましたね()

リッチさんのランクは8下位程度なので、赤竜(レッド・ドラゴン)を倒していたカインなら余裕です!!


ちなみに最後の返事の順番は、ルーク、メルダ、ベーラ、メルテス、メギア、ケリオスですね。

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