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叙事詩の進行  作者: あいすに刺さる茶葉
第三章  『迷宮区グラン』

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第51話  会議



 「………いや、あれは無理だろ」


 「ま、だろーな」


 ベットに横になっている俺が話しかけた相手は兄貴。

 あの戦闘の後、意識はギリギリ保っていたが、身体が全く動かずに、『天長の円卓』の団員さん達に部屋まで運んでもらったのだ。

 それで一日中安静にしていた。

 今も全身が痛い。特に足が。


 「まぁ、最後のやつには俺も少しばかり驚いたがな」


 「あー、あれか。なんかよくわかんないけど不思議と、『自分は風だ』って思って─────ああなったって感じかな?」


 本当にあの時の事はよく覚えていない。

 無意識でもあって、意識もあったような………そんな感じだ。

 例えるならば、夢と現実の区別がつかなかった、と言った感じ。

 とっさに『黄』に『覇断』を乗せたことだけは良く覚えている。


 「…………、とりあえずお前が何も覚えていない事はわかったから俺はアルと話してくるよ」


 「何を?」


 「? 言ったろ? 【深層】に行くって」


 兄貴はそう言って扉を開き、この部屋から出ていってしまった。

 ……【深層】。

 ランク8以上の冒険者でないと単独での『潜攻』は禁止されている超危険階層。 ていうか、最上位冒険者達ですら、何十人も殺し、闇へと屠った場所だ。

 現最高到達階層は『天長の円卓』の【第88階層】。

 それも、過(・)去(・)の『天長の円卓』の第一部隊なのだと聞く。

 

 まあ、過去のこの場所がどれほど強かったのかなど知る由もないが、アルバートさん達がいるんだから大丈夫だろうと俺は思った。

 





◇◆◇






 「よぉーし。皆集まってくれてありがとう」


 開口一番に口を開いたのはアルバートさん。

 俺たちはこの家で一番広い部屋に集まり、会議を行うことにしたのだ。

 当然この場には、『天長の円卓』の団員さん達全員が揃っている。

 第一部隊の皆さんもだ。昨日見かけなかったケリオスさんもいた。


 「俺達は三日後の朝から、迷宮(ダンジョン)へと『潜攻』する。第80階層のフロアボス『古代兵器(アーケイン)』を倒した後、第二部隊から後続はその場で拠点を作れ」


 『古代兵器(アーケイン)』。第80階層のフロアボスであり、現状の迷宮(ダンジョン)内最強の魔物だ。

 ………いや、魔物と言っていいかは怪しいらしい。


 奴は鳥の見た目をした人工的に作られた機械らしく、生命が宿っているかは分からないらしいが……迷宮(ダンジョン)から産まれる(リポップ)ということは俺はれっきとした生物だと考えている。


 「………古代兵器(アーケイン)の前回の討伐記録はいつだ?」


 「確か、『猛火の花びら』が三(トレス)の月の30日に討伐しました」


 「じゃあ、今日は五(クイン)の月の8日だから大丈夫か」


 ルークさんの質問にメルダが即座に答える。

 『猛火の花びら』

 ランク9が一人、ランク8が四人所属している『天長の円卓』と並ぶとされるクラン。

 団長『クリステラ・アスク』さんは過去にたった一人で【深層】へと潜り、半月も暮らしていたというほどの強さ。


 一度だけ会ったことがあるが………コワイ。単純に怖いのだ。

 ずーーっとニコニコしているが、会った時にすぐわかった。


 この人の裏は本当にヤバいと。

 

 「……何層まで行くんですか?」

 

 「とりあえず今回は第84階層を目標としている。第85階層からは…………未定だ」


 『………』


 ケリオスさんが口を開いて、アルバートさんへ質問したが、不安げに彼は言葉を返した。

 辺りに暫しの沈黙が拡がる。若干の悲壮感も感じられた。

 何か触れてはいけない箇所に触れてしまった───そんな感じだ。


 「ま、まあ、とりあえず! 今回は将来有望な奴らがいるわけだし!!」


 「そ、そうだぞ! 大将!! 第85階層でお前の大切な人を失ったからと言って、気にするでな────」


 「ちょ、ちょぉーーっと黙ろっか?! ねっ?!」


 「─ ─ ─ ─」 


 ルークさんが必死に場を和まそうとしたが、まさに火に油を注いだ人がいた。

 そんな人、メルテスさんの言葉を青髪の女性────ベーラさんが無理矢理遮る。

 対するアルバートさんは俯いていた。

 メルテスさんの言葉から推察するに、彼は第85階層でその、大切な人を失った後、第85階層から先へは行かなかった、ということだろうか?


 「………はぁ。メルテス、自粛して」


 「め、メギア………。……大将すまなかった………」


 「─ ─ いや、これは僕の問題だ。君達には関係ない」


 『………』


 開幕早々不穏な空気となり、事情を知らない俺達は心の内で困惑していた。兄貴はスッと目を細めて会話に耳を傾けていた。彼が事情を知っているのか知らないのかは分からない。

 後で聞いてみるか?


 「あ゛ー、悪ぃが話変えんぞ? そちらさんの第二部隊から後は第80階層で拠点を設置して待機。第81階層から第84階層までは俺達と、お前達の第一部隊が共に行動する。それでいいよな?」


 「ああ、その通りだ」


 自ら空気を変えて、真面目に話している兄貴に俺達は驚愕の視線を向けるが、それに気づいたのか、彼は重苦しい殺気をこちらに振り撒いてくる。「あ゛? なんか文句あんのか?」とでも言いたげな顔だ。「ナンデモナイデス」とだけ心の声を届かせる。


 「コイツらの面倒は俺が見るから、様々な技を見せてやって欲しい」


 「了解した。新人教育は得意でね」


 新人とは一体どこからどこまでを指すのかは分からないが、世界最強と名高いクランが俺達に直々に技を見せてくれるというのは本当に有難いことだ。

 俺達は正直に本心とお礼を告げて、その後様々な事を話た後に会議室と呼ばれていた部屋を後にした。






◇◆◇






 俺達は『潜攻』の日までこの家に泊めてもらうこととなり、様々な団員さん達から迷宮(ダンジョン)や、【北の戦線】等の話を聞いていた。

 どの団員さん達も優しく教えてくれて、ここはとても居心地がいいと俺達は感じた。

 ザインや、リアも、懐かしいものを見たような顔をしていた。



 その日の夜、俺はバルコニーに、兄貴を呼んだ。


 「兄貴って何層まで行ったことあるんだ?」


 「……確か昔、古代兵器(アーケイン)と一度戦ってみたいと思ってな。アルに頼み込んで同行させて貰ったんだ。そん時は、第82階層まで行ったな」


 迷宮内最強の敵(アーケイン)と戦いたいとか、どんな戦闘狂なんだよとも思いつつ、気になっていたことを聞いてみることにした。


 「………なあ、【深層】ってどういうとこなんだ?」


 「んー、まあ、簡単に言えば『地獄』だ」


 「………地獄?」


 「ああ。例えば─ ─ 、ほら、【神山】にいた赤竜(レッド・ドラゴン)が群れで出てくるとか」


 「…………」


 「たまーに龍もいるしな」


 「…………」


 そこからもずっと恐ろしい魔物の名前や、地形が続々と兄貴の口から飛び出してくる。

 今の俺でも赤竜(レッド・ドラゴン)一匹倒すだけで精一杯なのに………群れって………。

 しかも龍?! 劣龍(改造)ですらあんなに強かったのに。


 「………俺達生きて帰ってこれる?」


 「生きて帰って来た奴らこそ、『最上位冒険者』なんだよ」


 「─ ─ ─ ─」


 『最上位冒険者』。俺はその重みに何も気づいていなかったような気がした。彼等はいつも一般の冒険者達を引っ張っていく存在でもあり、『怪物』とすら呼ばれる存在達だ。彼等を「凄い」と称賛する声は多いが、目指したい者など極小数。

 大抵の者達は今の俺の座────ランク7を目標にして、日々活動している。


 メルテスさんは、俺がランク8にいないのがおかしいと言ってくれたが、俺はそうは思わない。

 これは謙遜じゃなくて、 本心だ。

 俺と最上位冒険者(彼等)の壁は高いんじゃない。『分厚い』んだと感じた。


 「………アルバートさんに、何があったんだ?」


 「………第85階層の事件─ ─ ─ 知りたいか?」


 「ああ」


 兄貴は俺の返事を聞いた後に夜空を見上げた。

 空はどこまでも暗く、高く、底が見えない迷宮(ダンジョン)に似ているようにも思った。


 「これはあくまで俺が聞いた話だ。どこが真実で、どこが嘘なのかは知らん。自分で考えろ」


 「わかった」


 そこから、悲しそうな瞳をしながら兄貴は話し始めた。


 悲痛な事件を。



最後まで読んでいただきありがとうございます!

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